翌日は8時半まで爆睡・・・と言いたいところだが、実際はホテルの壁が薄いのでやかましい近隣の部屋に何度か目を覚まさせられながらグダグダとこの時間まで寝ていたというところ。眠い目をこすりながら起床すると、買い込んでいたコンビニサラダとおにぎりを腹に放り込んで9時過ぎには外出する。
今日はまずは上野地区の美術館を攻略してから横浜のみなとみらいホールで開催される神奈川フィルのコンサートに参加し、さらに東京にとんぼ返りしてから美術館第二部があるという忙しい予定である。
「100のモノが語る世界の歴史 大英博物館展」東京都美術館で6/28まで
世界中のあらゆる物品を収めた膨大なコレクションを誇る大英博物館から、人類の文化遺産と呼べる100作品を抜粋して展示という企画。
展示は概ね時代順に沿っているが、場所は世界の各地に飛ぶので各展示品の脈絡はない。ギリシャ彫刻が登場するかと思えば、南米の先住民の儀式用の装束が登場するというような具合である。展示品はさすがに逸品ぞろいなのだが、さすがにこういう形式だと展覧会全体としてのテーマが不在になる。また展示品を100品に絞っているところが、彼我のコレクションの規模の差を痛感させられ悲しくもなる。
どちらかと言えばあちこちで目にしたことがあるエジプトやギリシアなどの品よりも、南米系などの展示品の力強い生命力がより強く印象に残った。なお人類の文明をたどるというテーマからの必然性なのだろうが、現在のクレジットカードまで展示されていたのは個人的には蛇足に感じられた。もっとも大英博物館がこんなものまで収蔵しているのかということには驚かされたが。
時代を代表する品として、iphone5なんかもいずれは収蔵されるのだろうか? パソコン関係の遺跡は世の中にはごまんとありそうだが、MSXにラップトップパソコン、いまやもうフロッピーディスクでさえ完全に過去の遺産だ。そう言えばMOにZipやJazなどが「大容量メディア」と言われていた時代もあったものだ。
会場に到着したのは開館時刻の9時半ちょっと過ぎだったが、もう既に会場には行列が出来ていてしばし入場を待たされた。また場内は大混雑でなかなか展示をゆっくり見るという状況ではなかった。また今回は私は別の事情もあって、結構バタバタした中での鑑賞となってしまった。
展覧会の合間にチケット争奪戦
実はPACオケのチケットの発売が今日の10時からなので、展覧会の見学の合間に休憩室に行ってそこでチケットセンターにネットで接続・・・と思ったのだが、10時前から完全にサーバーが落ちているような状態で全くつながらない。以前にあるところで「PACの予約サーバーが貧弱すぎる」と聞いていたのだが、こういうことだったのかと痛感。何度接続しようとしても全く埒があかないので、諦めて再び展覧会の見学に戻って10時過ぎにもう一度接続を試みるが事態は全く改善せず。結局は展覧会の見学を終えた10時半過ぎにようやくサイトに接続できるが、その時にはチケットはほぼ完売。9月の公演は何とかチケットを確保できたが、年末の第九は購入できなかった。どうもPACは人気だけはサイトウキネンオケ並(私もチケット購入を試みたが、チケットぴあのサーバーが全く応答せず、ようやく10分後につながった時には完売だった)らしい。
東京都美術館を後にすると、次は芸大美術館へ。東京都美術館は裏手にも出口があったと記憶しているのだが、今はそこが閉鎖されているせいで、かなりグルリと遠回りする必要があるので面倒である。HPによると、ここの出口が閉鎖された理由が「省エネのため」だとか。そう言えば国立博物館の開館時刻も省エネを理由に9時から30分繰り下げられてそのままである。本当にこんなもので省エネになるのだろうか? どうも電力会社の原発利権死守のための停電詐欺の一環で胡散臭い。実際には民間の省エネ努力のおかげもあって原発がなくても電力が余裕で足りてしまっているから、原発利権にしがみついている連中は今ではいかにして電力を浪費させるかに腐心しているとか。リニアの建設やらオリンピックなんかもその一環である。
「ヘレン・シャルフベック-魂のまなざし」東京藝術大学美術館で7/26まで
フィンランドを代表する女流画家ヘレン・シャルフベックを紹介する日本初の大規模個展。
3才の時に事故で左足が不自由になった彼女は、絵の才能を見いだされて奨学金を得ることになりパリに渡る。そこで多くの画家の影響を受け、帰国後は母と共に郊外に移り住んでそこで独自のスタイルを確立していったとのこと。
とにかく初期の作品にはいろいろな画家の影響が露骨に現れている。最初は比較的古典的な作品を描いていたが、パリに渡った後にはセザンヌ、ホイッスラー、さらにはローランサンなどあらゆる画家の影響というか、模倣と言っても良いような作品が多い。また彼女は失恋の度にズタボロになりながら自身の芸術を昇華させていったようだが、どうやら極めて感受性の強いタイプだったことが覗える。
どんどんと自身の内面に沈んでいって、そこから独自の画風を確立するのだが、その頃になると自画像作品が急増する。しかしそれがまた魂の悲痛な叫びを映しているかのような痛々しさがある。
個人的には苦悩してあがいている内にあらぬ方向に行ってしまった芸術家というような気がしてならない。特に晩年の作品を面白いと思うかどうかを考えると。
横浜に移動すると、昼食を摂ってからホールへ
美術館の見学を終えたところで、今日のコンサート会場である横浜へと移動する。上野東京ラインが開通したおかげで上野から横浜まで一本で行けるので、かなり心理的に近くなった印象である。
横浜に到着するとここからみなとみらい線でホールのあるみなとみらいへ。時間に余裕があれば中華街に立ち寄って昼食をと考えていたが、上野で想定以上に時間を費やしてしまったので、昼食はみなとみらいで摂ることにする。時間もないので途中で見つけたレストランでアメリカンなステーキを頂く。やや硬めで味の薄い牛肉がいかにもアメリカンである。アメリカ人はこれを強力な顎で力ずくで噛み砕くのだが、私には少々キツイ。
昼食を終えるとホールへ移動。私が到着したと同時に開場時刻になったようで、大勢がゾロゾロと入場する。
みなとみらいホールは初めてであるが、構造的には今時のホールに多いパターンである。ただ音響はかなり良いという印象。私の入場時にはステージ上でピアノの音合わせがされていたのだが、それだけで響きがかなりあることがよく分かる。それに比べると、こことよく似た構造の兵庫県立芸術文化センターはなぜあそこまで音響が悪いのだろうか?
神奈川フィルハーモニー定期演奏会 みなとみらいシリーズ 第310回
指揮者 パスカル・ヴェロ
共演者 小菅優(ピアノ) 石丸由佳(オルガン)
ラヴェル/「マ・メール・ロワ」組曲
ラヴェル/ピアノ協奏曲ト長調
サン=サーンス/交響曲第3番ハ短調「オルガン付き」
非常にまとまりの良いオケという印象である。アンサンブルがしっかりしており、バランスが良い。
ピアノの小菅優は非常にうまさを感じる演奏。力強くあるのだがタッチが硬質でなくて柔らかい風情のある音色で、華やかなラヴェルには良く合っている。
パスカル・ヴェロの指揮は爆演型。最後のサン=サーンスではかなり激しい指揮でオーケストラを煽りまくっていた。ラストなどはオルガンの響きと併せてオーケストラが大爆発。完全にリミッターをはずして楽器が雄叫びをあげている状態で、一つ間違えると音楽が空中分解しかねないギリギリのバランスで豪快なアクロバットを披露したというところ。こういう演奏をされると嫌でも会場は盛り上がる。結局昨日のN響に足りないのはこういうパトスと言うか茶目っ気なのである。
アンコールのためにサン=サーンスの4楽章の短縮バージョン(名曲アルバムみたいだ)を用意している準備の良さは、この指揮者のサービス精神を感じさせる。演奏の方もラストのティンパニなんて奏者か楽器のどっちかが壊れないかと思うぐらいの豪快な演奏だった。
ほぼ満員に近いホールはかなり盛り上がっていたし、私もなかなかに堪能した。ホールがかなり良いので、演奏に若干の怪しいところがあってもホール効果でかなり補正がかかる。こうして聴いてみると、やはりホールの音響とはかなり重要であると再認識した。
また図らずしてパイプオルガン体験の最初がこのホールになってしまった。パイプオルガンの音は、音と言うよりも音波の音圧が直接に頭蓋骨に響いてくる印象で、やはりエネルギーとしてはとてつもないものがあるのを実感した。
コンサートを終えて横浜を後にすると、そのまま東急と地下鉄を乗り継いで六本木に移動する。この辺りは私の嫌いな地域だが、立ち寄っておきたい展覧会がある。
「着想のマエストロ 乾山見参!」サントリー美術館で7/20まで
琳派の大御所・尾形光琳の弟が尾形乾山。彼は早くから隠棲の志が強かったとのことで、20代後半で隠居してしまって、野々村仁清から作陶を学んで自らの窯を築いて陶工活動を始める。その独自の作品を展示したのが本展。
与謝蕪村などのような文人画と呼ばれるジャンルがあるが、乾山の陶芸はその文人画を陶芸で行ったような印象である。乾山の作品の独自性は、器の形態や造形よりもそこに記した絵画や文様にある。角皿などは完全に絵画を描くための画面となっている。
文様や装飾などには琳派的なものが感じられるが、彼の作品は意表を突いていて華麗である。蓋物の変化などは非常に面白い。蓋との組み合わせの妙が実に生きている。
遊び心タップリで「楽しんでるな」という印象を受ける作品が多い。経済的理由で楽隠居など望めそうにない私から見ると何ともうらやましい限りである。
なかなかに面白かった。そしてやはり近年になって陶磁器に対する関心がかなり高まっている自分を再確認。特にどっしりとした感じの黒楽茶碗(志乃も結構好きなのだが)や、なぜか茶入れのシルエットに魅力を感じるのである。
喫茶と夕食を済ませてからヒルズに繰り出すが・・・
展覧会の鑑賞を終えるとこの美術館内の喫茶「加賀麩不室屋」で一息。ここは麩が中心のメニューらしいが、焼き麩を用いた最中が香ばしくて異常にうまい。こうして食べてみると、人間の味覚の半分は実は食感なのではないかという気もする。
ミッドタウンの次は最後にもう一カ所立ち寄るつもりだが、そこはかなり精神力を消耗する場所なので、移動の前に夕食を済ませておくことにする。立ち寄ったのはここの地下にある「平田牧場」。ここでロースカツ定食(1300円)を頂くことにする。
最後の立ち寄り地はバブル教の総本山、六本木成金ヒルズである。ここで開催中の「スターウォーズ展」を見学ついでに森美術館も久しぶりに見学してやろうとの考え。しかし相変わらずのバブリーでシュセンドリーなオーラが本質的に私を拒む。私の方はプロレタリアート結界を張ってそこに侵入していく感じである。
大混乱の券売所にアホらしくなって撤退する
しかしようやく美術館の券売所まで来たところで、目の前に現れたのは長蛇の列。何やら入場までにかなり待たされそうな雰囲気である。もうこれを見た途端に馬鹿らしくなって引き返すことにする。どうせ「スターウォーズ展」は全国を回るだろうし、そもそも何が何でも見たいというほど私はマニアではない。ましてや森美術館となれば本当についで程度のつもりだったので、こんなところで延々と待つ気になんてなれない。
結局はこのまま日比谷線で南千住に戻ると、ホテルで入浴してマッタリすることになったのである。夜になると「美の巨人たち」が始まったので見ようと思ったが、蒼井優のナレーションが聞こえてきた途端に不快さが沸き上がってきたので結局はテレビを消してしまった。それにしてもなぜあんなにナレーションに不向きな人物を起用したのだろうか? 私自身はそもそもは蒼井優は好きでも嫌いでもなかったのだが、この番組のナレーションに起用されたことで明確に「嫌い」になってしまった。声質が悪いので内容が頭にはいってこない上にいちいち神経に障る。小林薫のナレーションが安定感のある聞きやすいものだっただけに落差がひどすぎる。以前にNHKが小泉今日子を動物番組のナレーションに起用した時も、あのタバコによるかすれ声のナレーションが聞き取りにくくて最悪だったが、それ以来の久々のひどいナレーションである。
テレビを消したら疲れがどっと押し寄せてきたので、そのまま就寝することにする。
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