翌朝は8時頃に目が覚める。今日は東京周辺の美術館に立ち寄ってからサントリーホールのライブに行くだけなので時間に余裕がある。とりあえず朝食のおにぎりを腹に入れると、美術館が開く10時前まで一休みしてからチェックアウトする。
東京駅に到着するとコインロッカーにキャリーを置いてから行動開始。まずは一番最寄りの美術館へ。
「没後30年 鴨居玲展 踊り候え」東京ステーションギャラリーで7/20まで
何とも表現しがたい独特の雰囲気を持つ鴨居玲の回顧展。
彼の描く人物は汚らしくもどこかリアルで、魂が完全に抜けているように見えながら妙な生命力があったりするというとにかく不可解な世界である。晩年になると自画像が非常に多くなるのだが、それがまた痛々しくもあり、自分自身の本質に切り込もうとしているように見える。
結局はその破滅型の作品と同様に、彼自身も破滅的な人生を終えてしまったのであるが、それはある種の必然だったのか。
次は新橋まで移動。次の美術館は汐留のパナソニックのショールームの上にある。
「ルオーとフォーヴの陶磁器」パナソニック汐留ミュージアムで6/21まで
ルオーやマティスなど、フォーヴと呼ばれた画家たちは陶器の絵付けも行っていた。彼らが絵付けをしたのはアンドレ・メテが制作した陶器であり、その陶器の地肌に輝く色彩が現れるのは彼らの芸術表現意図とも合致していたらしい。陶器の表面をキャンバスに見立てたいかにも彼ららしい作品を残している。
もっともそれらの作品が果たして陶器としての面白さを持っているかとなると、私はいささか疑問も感じた。ルオーなどは陶器の方もやはり厚塗りで、いわゆるらしさを感じることは出来たのであるが・・・。
これで東京駅周辺での予定は終了。とりあえず駅前でうどんを軽くかきこむと六本木一丁目を目指す。ただサントリーホールに行く前にもう一軒、最寄りの美術館を。
「フランス絵画の贈り物 とっておいた名画」泉屋博古館で8/2まで
住友家は明治時代から積極的に絵画の収集を行ってきているのだが、それらの作品を集めた展覧会。今回のテーマは近代フランス絵画である。
展示作品数としては決して多くはないが、当時としては珍しかったと思われるモネの2品やさらにはミレーやヴラマンクの作品などまで含まれている。時代的にもアカデミズムから近代まで揃っており、なかなかに多彩な内容で楽しめるものであった。
サントリーホール周辺はあまり良い店がない
途中で美術館に寄り道したものの、それでもサントリーホールに到着したのは開演時刻の1時間以上前。急いでも仕方ないので、近くの茶店でパスタとコーラを頂きながら時間をつぶす。それにしてもこのパスタ、アルデンテを完全に通り越して茹ですぎなのでは。
ゆっくりとパスタをつまみながら時間をつぶし、ホールに入場したのは開演の30分前ぐらい。前回の訪問時には二階席の奥だったが、今回は一階席の右手である。
新日本フィルハーモニー交響楽団第542回定期演奏会
指揮 飯守泰次郎
オーボエ:古部賢一
J.S.バッハ: オーボエ協奏曲 BWV1053
R.シュトラウス: メタモルフォーゼン
ベートーヴェン: 交響曲第3番 変ホ長調 op.55 「英雄」
室内楽のバッハから始まって、弦楽合奏のR.シュトラウス、さらに最後はフルオーケストラでベートーベンという多彩な内容。
最初のバッハはかなり軽妙な曲で、古部のオーボエソロもそれに合った軽妙なもの。流れるような曲想が心地よい。
2曲目の準備の時、各奏者の前に一つずつ譜面台を置くので珍しいなと思っていたら、曲が始まったら理由が分かった。各奏者が順番に弾いていくような曲なので、奏者ごとに演奏パートが異なるのである。おかげで音の発する場所が適宜変わるので、旋律が空間をクルクル回るような効果を上げている。飯守は指揮棒をつかわずに指先でニュアンスを表現していたようだ。消え入るような最後の後はフラ拍もなく、静まりかえった余韻を楽しめた。
ベートーベンの英雄はなかなかにダイナミックなノリの良い演奏。指揮の飯守の動きを見ていると、ジイサンが指揮台の上でジタバタしているだけのように見えてカリスマは感じられないのだが、どうしてどうしてなかなかに巧みにオーケストラをコントロールしており、メリハリのある豊かな表現を行っている。この辺りは、見た目は格好いいがオーケストラをコントロールしている感が皆無だった西本智美などと対極である。新日フィルの演奏も、飯守の指揮に応えて柔軟な演奏を行っており、なかなかに聴き応えがあった。
これで本遠征のすべての予定が終了。かなり疲れたので、1年間に溜まったグリーンポイントで新幹線のグリーン車に乗って帰宅したのである。
3日間で三様のライブに参加したが、いずれもそれなりに楽しめる中身の充実したものであった。また今回訪れた展覧会の方もなかなかに面白かった。今回の遠征はそういう点で非常に満足度が高かったのである。それにしてもやはりこれだけのオーケストラが割拠している東京は、やはりこういう点ではうらやましい。まあ私が東京で仕事をしていたら、連日の仕事後のコンサート通いで破産しそうではあるが。