徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

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アニメ関係の記事は新設した「白鷺館アニメ棟」に移行します。

白鷺館アニメ棟

最後はゴーギャン展とプラド美術展を見学してから、ソヒエフ指揮のベルリン・ドイツ交響楽団

いよいよ最終日

 翌朝は7時半に目覚ましをセットしていたのだが、目覚ましは鳴らず(夜中の間に電波時計が狂っていた)、夢かうつつか不明の女性の悲鳴のような声(未だにあれが本当にしていたのか幻聴なのかは分からない)で目が覚める。このホテルには何か憑いているのか?

 目が覚めると軽くシャワーを浴びてから朝食に出向く。ドーミーイン名物朝食バイキングは昨日の大江戸温泉物語には及ばないが、そこらのビジネスホテルよりは充実している。

 しっかりと朝食を済ませると大浴場で入浴する。今日の予定は2時からのサントリーホールでのコンサートと、後は東京駅周辺の美術館のみなのでスケジュールにかなり余裕がある。10時前までゆったりとくつろいでから、ホテルの送迎バスで東京駅八重洲口まで送ってもらう。やっぱり久しぶりのドーミーインは良い。いろいろな部分でサービスが行き届いている。もっともその分、宿泊料も高いのであるが・・・。

 東京駅に入場すると重たいキャリーはロッカーに放り込んでしまう。身軽になったところで最初に向かうのは新橋。ここの近くにある美術館が最初の目的地である。

 

 

「ゴーギャンとポン=タヴァンの画家たち」パナソニック汐留ミュージアムで12/20まで

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 ポン=タヴァンはブルターニュ半島の小さな村で、昔からの町並みやら風俗が残った素朴な土地である。ここに魅了された画家の一人がゴーギャン。「印象派」からの次の展開を模索していた彼は、この地でベルナールらと議論を重ねる内に「総合主義」という新しい絵画様式にたどり着く。この「総合主義」は他の多くの画家にも影響を与え、モーリス・ドニなどの「ナビ派」、さらに「象徴主義」などに結びつく。

 このようなゴーギャンを初めとするポン=タヴァンにゆかりの画家たちの作品を集めた展覧会。これは同時に印象派の次の展開の一つの場面の紹介でもある。

 私はナビ派とゴーギャンの結びつきについては初めて知ったのだが、改めて言われると確かに彼らの絵画の平面的な独特の彩色はゴーギャンのものに近いということに気づいた。もっともゴーギャンはこの先、さらに楽園を求めてタヒチに渡ってその絵画もさらに突き抜けたものになっていくのであるが。

 これも一つの前衛ではあったのだが、ポン=タヴァンという土地に惹かれた画家が中心のためか基本的には具象画の範疇に収まっている作品が多く、前衛の割には分かりやすい展覧会という印象を受けた。

 

 印象派の次を目指したと言えば、損保ジャパンで展示されていた連中もそうだったし、ここに展示されている連中もそう、さらには後期印象派などの突き抜けた連中もいた。印象派がそれまでの画壇に衝撃を与え、旧来のサロンの権威を崩していったことで、この時代も一種の百家争鳴の時代だったんだなということを感じる。統一王朝崩壊後の群雄割拠して天下を目指した戦国時代のようなものである。ただ結果としては、最終的に誰も天下を取れなかったような気もする。

 

 

昼食を汐留で

 美術館の見学を終えると次の目的地に向かおうかと思ったが、朝を比較的ガッツリ食ったつもりだったにもかかわらず腹が減ってきた。もう既に昼前だし、次に移動する前にこの辺りで昼食を摂っておこうと考える。隣のビルの2階に「築地食堂源ちゃん」があったので、「鯛ごまだれ丼(950円+税)」を頂く。

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築地食堂源ちゃん

 鯛の刺身にコッテリしたごまだれがあえてあるが、これが予想に反して意外にしつこくなくて良い。このまま丼として頂いても良いが、やはり一緒に出てきた出汁をかけて鯛茶漬けで頂くのが最上。普通のあっさり目の鯛茶漬けと違い、ややコクのある鯛茶漬けとなり、これから活動するお昼のご飯としては最適のバランス。

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鯛ごまだれ丼

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やはり鯛茶が絶品

 正直なところあまり期待していなかったのだが、予想以上に美味であった。やっばり東京飯はチェーンの方が無難なのかな・・・。

 昼食を終えると再び東京駅に舞い戻ってくる。次の美術館はこの駅の西側。ここも良く来る美術館である。赤煉瓦の建物が趣がある。

 

 

「プラド美術館展~スペイン宮廷 美への情熱」三菱一号館美術館で1/31まで

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 スペインの歴代国王が蒐集した美術品が元となっているのがプラド美術館であるが、今回はその所蔵品の中から小さな作品を中心に集めたとのことである。

 展示作には貴重なボスの板絵なども含まれる。とは言うものの、小品中心ということもあって全体的に印象が地味であることは否めない。そんな中で私にとって強烈に印象に残るのは、やはりムリーリョ。鮮やかな色彩と肌の柔らかさまで伝わってくるようなタッチは神々しささえ感じさせて魅了される。やはりこれは別格クラス。

 

 この周辺地域の美術館と言えば後は東京ステーションギャラリーぐらいだが、現在の展示は私が名古屋で見た「月映」展なのでパス。出光美術館に行っても良いが、ジョルジュ・ルオーは今ひとつ苦手なので、わざわざ有楽町まで足を伸ばす気に今ひとつなれない。というわけで美術館巡りは今回はここまでとする。

 

 

「紀の膳」の絶品抹茶ババロアで命の洗濯

 さてこれで美術館の予定は終了だが、まだ開演時間まで1時間強ある。今からホールに向かっても待ち時間が長いだけ。途中でお茶でもしていくことにする。となれば思いつくのはやはり「紀の膳」。気になるのは行列が出来ていたら待っている時間がないことだが、その時は運が悪かったと諦めることにして飯田橋に向かう。

 幸いにして待ち客はおらずスムーズに入店できる。注文するのはいつものごとくの「抹茶ババロア」。あぁ、心に染みいるこのうまさ。

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抹茶ババロア

 命の洗濯を終えたところでホールに向かうことにする。それにしても私はいつも、この店に来ては怒濤の如くガツガツと抹茶ババロアを食べ、数分で店を後にするおかしな客である。挙動不審に思われないだろうか。

 サントリーホールに到着するとすぐに開場。ホールは満員ではないが結構入っている。八割ぐらいの入りというところだろうか。なお私の席はチェコフィルの時と同様のB席なので2階の最後列である。ステージが遠い。

 

 

トゥガン・ソヒエフ指揮ベルリン・ドイツ交響楽団 

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ピアノ:ユリアンナ・アヴデーエワ

曲目
メンデルスゾーン: 序曲『フィンガルの洞窟』 op.26 
ベートーヴェン: ピアノ協奏曲第3番 ハ短調 op.37 
ブラームス: 交響曲第1番 ハ短調 op.68 

 どうもアンサンブルの精度が今一つの印象だ。弦の斉奏は「ダーン」でなくて「バシャーン」という感じだし、管の音色にも濁りがある。特に最初のフィンガルの洞窟がグダグダした印象が強く、どうも精彩に欠ける演奏であった。

 ベートーベンのピアノ協奏曲はピアニストの頑張りもあって表に破綻は現れないのだが、次のブラームスになるともろに弦の乱れが耳につく上に、管とのバランスが悪い。折角のコンマスの独奏を後ろから出張ってきた管がかき消してしまったりなど演奏意図が今一つかみ合っていない印象だ。

 不思議なのはアンコール曲になった途端にアンサンブルの精度が一段向上したこと。いわゆる「ノリ」だけでアンサンブルの精度が変化するとは考えにくいので、これは曲に対する練度の違いなのだろうか。

 

 ドイツのオケというところで緻密で重厚なサウンドを期待したのだが、その点ではやや肩透かしの感があった。決して下手なオケというわけでもないと思うのだが、なぜか今年はドイツのオケについては全体のバランスやアンサンブルに疑問を感じさせられることが多く、どうもハズレ年だったように感じる。一方でロシアのオケは大当たりの年であった。

 4日半でライブ4つと美術館12カ所に鬼怒川温泉日帰りまで含むかなり中身の濃いというか、かけずり回った遠征であった。ある意味でもっとも私らしい遠征である。ただこういう遠征は後で疲労が残るのでほどほどにしないととは思っているのだが・・・。どうしても一旦出かけると「あれもこれも」となってしまう貧乏性だけは克服できない。人間、なかなか自分の性分というものは変えにくいもののようだ。