徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

東京の美術館を回ってから、新日フィルによるマーラーの千人の交響曲を聴く

 翌朝は8時前に起床すると上野へ繰り出す。今日は上野地区の美術館を攻略してからメインイベントである新日フィルのコンサートへ出向く予定。上野駅の駅ナカで朝食を済ませると、まずは国立博物館を目指す。現地到着は開館時刻の数分前だが、もう既にかなりの行列ができている。しかも今回に限って入場に金属探知機などを使った荷物検査があるらしい。ギリシア展でわざわざここまでというのは考えにくいから、同時開催の仏像展の関係か。韓国から国宝の仏像を迎えるということで、万一の事態があってはいけないので国賓級の警護というところか。それとも頭のおかしなネトウヨからの犯行予告でもあったか?

 

「古代ギリシャ-時空を越えた旅-」東京国立博物館で9/19まで

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 古代文明発祥の地であるギリシアの文明の流れを物語る物品を展示。

 最初は紀元前7000年などの旧石器時代の素朴な彫刻などから始まる。この辺りは原始アートと言うべきで、特に地域的な特徴はない。紀元前3000年頃のミノス文明の頃になると急に技術レベルと洗練度が上がって、この地域の文明の進歩の早さを感じさせる。

 そこからミュケナイを経て、紀元前900年頃のアルカイック紀にさしかかると、後のエジプト文明やローマ文明に通じるこの地域の特徴のようなものが明確になる。技術レベルはかなり高く、同時代の日本ではまだ縄文期に当たることを考えるとため息が出るばかり。

 マケドニアが登場する頃になると紀元前300年頃。日本はようやく弥生期にさしかかるかという頃に、この地ではアレクサンドロスが世界帝国を目指しており、いわゆるギリシア文明としては完成期を迎えている。この頃になると最早彫刻のレベルなどでは後の時代と全く遜色がなくなっている。考古的資料と言うよりも、純粋に芸術作品としても堪能できるものになっている。

 ギリシア地域について時代に沿って長期にわたって概観するという企画は今まで意外に少なかったような気がする。そういう点で本展は視点としてなかなかに興味深い。

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明らかに何かを間違っている

 

 古代ギリシア展の後は例によって鶴屋吉信の出店であんみつを頂いて一息。それにしても今日は暑い。表を歩いているだけで体がおかしくなりそうだ。東京の暑さも年々非常識なものになってきている。このままいけば、いずれは夏の東京は居住不可能になってしまうのでは。

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あんみつで一息つく

 一息ついた後はついでに仏像展の方ものぞいていく。古代ギリシア展の入場券を持っていたら割引があるというものの、たったの100円引き。値引き後でも入場料は900円なのだからかなり高い。

 

「ほほえみの御仏-二つの半跏思惟像-」東京国立博物館で7/10まで

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 日本の国宝である中宮寺の半跏思惟像と韓国国宝の三国時代の半跏思惟像を併せて展示した企画。

 日本の半跏思惟像は飛鳥時代の木製仏であるが、韓国の方はそれより若干早い6世紀の銅製仏である。このような類似した仏像が存在することが、日韓両国の文化的交流を良く現している。ポーズも表情も非常に類似しているが、日本の方がやや穏やかな表情のように感じられ、聖徳太子の母である穴穂部間人をモデルにしているという影響かもしれない。両国の仏像を眺めていると、半跏思惟像という大きな括りの中での共通項と、逆に国情の違いによる造形の微妙な違いの両方が見えてくるのが興味深かったりする。

 ただ900円出して展示物は仏像が2点だけというのはやはり高すぎるように感じる。確かに展示されていたのは滅多に目に出来ない代物ではあるが。

 

 国立博物館を後にすると東京都美術館に移動する。次はここで開催されている展覧会を見学する。

 

「ポンピドゥー・センター傑作展-ピカソ、マティス、デュシャンからクリストまで-」東京都美術館で9/22まで

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 パリの近現代美術コレクションを収蔵するポンピドゥー・センターの所蔵品から、1906年~1977年に渡っての各年度を代表する作品を一点ずつ厳選して展示している。

 年代順に作品が展示されており、毎回異なるアーティストを選んでいることから、そのまま20世紀芸術史をなぞるような形になっている。これらを概観していると時代の流れの背景のようなものも滲んでいるが明確であり、特に第二次大戦の影響というのは無視できないのが明らかである。作品としても1945年を境にして、明らかに自由度が上がっている。

 厳選作品であることから、共感は出来ないまでも興味は感じる作品が多数ある。ただそれでも私の目には、1960年代以降の作品は急激に興味が薄れてしまうことは否定できないのであるが。

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浅草に立ち寄って昼食を摂る

 これで上野での予定は終了。現在は大体正午頃。コンサートは2時から開演なのでそれまでに昼食を摂っておきたい。さてこれから昼食を摂る店だが、このまま上野の文化亭なんかじゃあまりに悲しすぎるというわけで、どうせだから浅草まで出ることにする。実は以前に浅草を散策した時に気になっていた店があったのでそこに立ち寄りたい。

 その店は浅草寺の仲見世の裏手にある「フジキッチン」。10名程度が限界の小さな店である。昭和の喫茶店という風情の店内だが、シチューの専門店らしい。この暑い最中にシチューもどうかと思ったが、さすがに店内は強めに冷房を効かせてある。私は「ビーフとタンのミックスシチュー(3100円)」にライスをつける。

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浅草裏手のフジキッチン

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ビーフとタンのミックスシチュー

 なかなかのボリュームである。ビーフの固まりが入っているが、これが箸で砕けるほどにトロトロ。一方のタンはもっとしっかりした印象。デミグラスソースはやや苦みのある濃厚でコッテリしたもの。本格的であることを感じるが、生憎と私の好みからは若干ずれる。もっともやはりここも浅草の名店の一つであることは間違いなかろう。

 

 やや濃厚で強めの昼食を終えると押上経由で錦糸町へ移動。トリフォニーホールは以前に一度だけ訪問している。

 さてマーラーの交響曲第8番は別名「千人の交響曲」などと言われるぐらい編成が巨大なのが特徴である。大規模編成のオケに合唱団、さらには少年合唱団に8人のソリスト、それに加えてパイプオルガンも必要というとんでもない構成で、トータルで演奏に1000人必要という意味。もっとも実際に1000人かける例はほとんどなく、今回の新日フィルでもせいぜい「五百人の交響曲」ぐらいである。しかしそれでも、決して広いとは言えないトリフォニーホールのステージ上は大変なことになっている。オーケストラ用の椅子と合唱隊用の雛壇が密集しており、コントラバスなんかはステージ上からはみ出してステージ入口のところに陣取っている状態。この曲がなかなか演奏機会がない理由はこれだけでも頷ける。

 

新日本フィルの千人の交響曲

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指揮 ダニエル・ハーディング

マーラー交響曲第8番「千人の交響曲」

 とにかく大編成であるので、合唱団とオケとでタイミングを合わせるだけでも大変である。ハーディングの指揮もそれを意識しているのか、かなり身振りの大きな指揮を行っていた。かなり難しい曲であるのだが、最後までアンサンブルが崩壊することもなく大スペクタクルを繰り広げた。

 ハーディングの指揮はかなり明快で快活なものであった。またソリストや合唱団もそれに十分に応えた熱演。全体の構成をかなりシェイプアップしているためか、なかなかに引き締まった演奏になっていたと感じられた。

 昔、私がこの曲を初めて聴いたのはショルティ指揮のシカゴ響のCDでだったが、そのCDの帯に「宇宙が鳴動する」との文句が書いてあったという記憶があるのだが、確かにそのまま大迫力のサウンドであった。第二部ラストで天界からのトランペットが鳴り響いた時には興奮で鳥肌が立つのを感じた。すごいものを聴いたなというのが正直な感想。

 

 かなり興奮気味の他の観客と共にホールを後にすると最後の目的地へ移動する。最後の目的地は成金タウン内のサントリー美術館。

 

「オルセー美術館特別協力 生誕170周年 エミール・ガレ」サントリー美術館で8/28まで

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 これで何回目のガレ展だろうかというのが正直なところ。毎回展示品は違っているのだが、大括りでのガレの作品としての特徴は同じで、今回も生物モチーフの作品が非常に多かった。またガレの原点は陶器にあるのだが、本展ではそこからの流れを受けているのか、色ガラスを使った不透明な作品がメイン。

 私は基本的にガレの作品は嫌いではないのだが、あまり大量に並べられるとその濃厚さに若干胃もたれがすることがある。本展もややそのきらいがあったのが正直なところ。

 

 展覧会を終えると喫茶で一息。とにかく今日は暑さが尋常でないので消耗が著しい。生麩入りの冷やしぜんざいを頂くことにする。

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上質の冷やしぜんざい

 サッパリとした風味が実に良い。また大粒の大納言を使用した餡が最高である。ここは生麩がうまいのは当然として、餡が実に上質である。

 

夕食は浅草の老舗どじょう屋で

 さてそろそろ夕方。ホテルに戻る前に夕食を摂っておくべきだろう。どこで夕食を摂ろうかと考えた時、やはり頭に浮かぶのは浅草。そこで再び浅草まで移動することにする。立ち寄ったのはドジョウ専門店の「駒形どぜう」。現地に到着すると満席とのことでしばし表で待たされることになる。

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駒形どぜうは今日も大入り

 10分ほど待った後、ようやく椅子席に案内される。注文したのは「駒形定食」。ドジョウを中心としたフルコースである。

 まずはドジョウ鍋から。浅い鍋に割り下を入れ、そこで下味のついたドジョウを煮込む。ネギをたっぶり上からかぶせておくのがポイント。ドジョウは実に滋味に富んでおり非常に美味。

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ドジョウ鍋にタップリとネギを入れて

 次に鯉の洗いが出てくる。これは私の好物。やっぱり鯉は非常にうまい。やはりキチンと育てた鯉は味が強くて臭みがない。

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鯉の洗いは私の好物

 次は柳川。これは卵綴じだが、一緒に煮込んだゴボウが実に美味。最初のドジョウ鍋よりはあっさりとした風味になる。

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卵とじの柳川

 小鉢やつくねなどもあってから、最後はドジョウ汁があって、デザート。いずれも文句のつけようのない美味であった。ドジョウは泥臭いなどと言われるが、それはそこらの田んぼで取ってきたようなドジョウのことで、ここのドジョウに関してはそんなことは全く感じられない。

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小鉢等の数々

 やはり浅草の食は侮れない。東京でうまいものが食べられるとしたらこの地域だろうという私の読みは正しかったようだ。

 

 夕食を終えるとホテルに戻る。風呂に入ってから就寝・・・と思ったのだが、部屋に入った途端にグッタリとして動けなくなってしまう。今日の灼熱下での行動は想像以上に体にダメージを与えていたようだ。そのままベッドの上に倒れ込むと完全に意識を失ってしまった。