徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

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白鷺館アニメ棟

サンフランシスコ交響楽団東京公演&「この世界の片隅で」

 翌朝は9時前まで爆睡。かなり疲労が溜まっている模様。さて今日の予定だが、7時からサンフランシスコ交響楽団のコンサート。そもそもこれが東京まで来た主目的である。それまでは美術館を回る・・・と言いたいところだが、今日は月曜日なので開いている美術館がほとんどない。というわけで、まずは映画でも見に行くことにする。

 向かったのは錦糸町。ここで上映されている映画が目的。

 

「この世界の片隅に」

 戦争中の呉の話を、ここに嫁に来た少女の目を通して淡々と描いた作品。

 ヒロインはいわゆる天然なノホホンとした少女なのだが、その彼女にも戦争は容赦なく襲ってくる」。多くのものを奪われながらそれでも生きていく彼女の姿がけなげ。決して声高に反戦を叫ぶような映画ではないのだが、のどかで淡々とした日常を描いているからこそ、そこに迫ってくる戦争の影がリアルである。戦況の悪化と共にあらゆる面で生活が破壊されていく様が戦争の現実を描いている。

 戦争の表現については間接的で、できる限り直接的な描写を避けているような印象を受ける。しかしそのことがかえって想像力をかき立てて、悲惨極まりない戦争の現実が透けて見える形になっている。

 ヒロインの声を演じたのんこと能年玲奈のボーッとした喋りがヒロインのキャラクターにマッチしていて絶妙。水彩画調の淡い画面が下手をすれば陰鬱で息の詰まる物語になりかねないところに救いをもたらしている。なかなかによくできた作品である。

 映画を見終わると駅ビルの天ぷらや「船橋屋」で昼食を摂る。東京の天ぷらはゴッテリと重たいイメージがあるが、ごま油とサラダ油を混ぜているというこの店の天ぷらはサラッと軽くて関西人の私にも美味であった。

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船橋屋

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サラッと上がった天ぷら

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しつこさは感じない

 さてこれからどうするかだが思いつかない。とりあえず近くのカフェで抹茶パフェを食べながら一人戦略会議。月曜日に開いている美術館を選んで回る手もあるが、出し物がいまいちそそらない上に、どうもしんどくて今日はそういう元気が出ない。結局はコンサートの時間までネカフェでぼんやりと時間をつぶすという非常に後ろ向きなプランに決定。

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抹茶パフェで時間をつぶす

 以前にも立ち寄ったことのある神田のネカフェに行くと、そこでしばし時間をつぶすことに。やったことと言えば、以前からボチボチと読んでいた松井優征の「魔神探偵脳噛ネウロ」を最後まで一気読み。この作品、当初の推理ものという方向が途中から完全に飛んでしまって、中盤以降は全く謎のない作品になってしまった。おかげで謎を食う魔神のネウロは空腹で苦しむ羽目に(笑)。ただ最後まで読むと、この作者の次の作品が「暗殺教室」になるわけがよく分かった。あの作品で出てきたストーリーの特徴が、既にこの作品で明確に現れている。

 ネカフェで2時間半ほどをつぶすと地下鉄を乗り継いでホールに向かう。ホールは思いの外入りが悪い。ざっと見て7割の入りと言うところか。特に2階のCブロックなどはガラガラ。安い席は埋まっているが、高い席の悪い席がかなり空いているというところ。チケットの価格設定が高すぎたように思われる。

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サントリーホールはクリスマスムード

 

サンフランシスコ交響楽団

指揮:マイケル・ティルソン・トーマス
ピアノ:ユジャ・ワン
トランペット:マーク・イノウエ

ブライト・シェン: 紅楼夢 序曲 <サンフランシスコ交響楽団委嘱作品/日本初演>
ショスタコーヴィチ: ピアノ協奏曲第1番 ハ短調 op.35 (ピアノとトランペット、弦楽合奏のための協奏曲)
マーラー: 交響曲第1番 ニ長調 「巨人」

 一曲目は全く知らない曲だが、サンフランシスコ響の分厚くて華やかな響きのおかげでなかなか聞かせる。

 ショスタコのピアコンはユジャ・ワンの圧巻のテクニックにつきる。彼女の華やかで見事な演奏が観客を魅了して大盛り上がり、彼女の腰から深々と90度体を曲げるピョコンとしたお辞儀を、オケのメンバー全員が一斉に真似をしたのは場内大爆笑。

 最後の巨人はまさに凄まじいという演奏。サンフランシスコ響はかなりの爆発力を秘めたパワーあふれるオケだが、マイケル・ティルソン・トーマスはそれをむやみに爆発させずに、ゆったりとした落とし気味のテンポでスケールの大きな演奏に持って行った。実に堂々としたと言って良い演奏で、最後のフィナーレなどは思わず鳥肌が立ってしまった。場内も大盛り上がりで7割の入りに関わらずホールがうなるような拍手に満たされた。終演後も拍車は止まず、最後はいわゆる一般参賀に。

 

 演奏終了後に夕食を摂ってからホテルに戻る。それにしても疲れた。