徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

関西フィル in なら100年会館(ムジークフェストなら)&大和文華館&中野美術館

 翌朝は9時過ぎまで爆睡してしまっていたので、10時までにチェックアウトするために慌てて荷物をまとめる。体に相当な疲れがある。また数日前に傷めた足の傷が悪化していて歩くのが少々ツラい。

 今日の予定は奈良で開催される関西フィルのコンサートを聴きに行くこと。奈良の音楽祭ムジークフェストならの一環で奈良の100年会館で開催される。100年会館は行ったことがないのでホールに興味があったのと、1500円とチケットが安かったこともあって購入した次第。

 ただ公演は15時開演、ホテルを出たのは10時と言うことでこの間の時間をどうやってつぶすか。ネカフェでゴロゴロという不毛なことはあまりしたくない・・・と思ったところで、久しぶりに大和文華館でも訪問するかと思いつく。

 帰りのルートを考えて荷物は大阪駅のコインロッカーに置くと、そのまま鶴橋から近鉄で奈良方面へ。大和文華館のある学園前は急行も停車する駅。大和文華館は駅から5分ほど歩いた池のそばの鬱蒼とした林の中。

f:id:ksagi:20190610174229j:plain

展示館はこの奥

「知られざる?!大和文華館コレクション」大和文華館で7/7まで

f:id:ksagi:20190610174250j:plain

 大和文華館のコレクションの中から展示の少ない考古資料や絵画作品を展示。

 考古資料からは埴輪や土器が展示されていたが、やはり見応えがあるのは縄文大壺。火炎式土器を連想させる大胆な文様はいかにも「縄文は爆発だ!」という感性。また埴輪の素朴な造形も楽しい。

 さらに中国の陶器や金属細工品も展示されているが、こちらはその精巧さに驚かされる。古いものは漢時代のものとのことだが、後漢で日本の弥生辺りと被ることを考えると、彼我の文明の差を感じずにはいられない。日本の工芸品が中国と互角に渡り合えるようになるのは、ようやく奈良時代以降の仏像彫刻などにおいてである。

 絵画は仏画の類いであるが、一つだけ妙に素朴で笑える絵があると思ったら、それは大津絵だった。こういういかにも素朴な民間信仰のようなものは、生活感が滲んでいて面白い。


 大和文華館を一回りした後は、池を隔てて向かい側にある美術館もついでに訪ねることにする。

「日本画・洋画の名品」中野美術館で7/7まで

f:id:ksagi:20190610174319j:plain

 中野美術館が所蔵する日本洋画と日本画を展示。洋画は久米桂一郎、須田国太郎、村山槐多などだが、久米桂一郎の作品以外はいわゆる絵の具厚塗り系の私が苦手とするタイプの作品が多く、今ひとつピンとくる作品はなかった。

 日本画の方は村上華岳や冨田渓仙などが中心。巧みに描くというよりも、楽しげに雰囲気を出すというタイプの絵画。こちらも私的には今ひとつパッとせず。


 この近くにはもう一カ所松伯美術館がバスで数分のところにあるのだが、そちらは上村松篁と上村淳之の花鳥画の展示ということなので、今の私は歩くのがキツいこともあってパスする。正直なところ上村松篁はともかくとして、上村淳之の花鳥画については私はあまり評価はしていない。

 この後は奈良への移動だが、奈良へ行く前にこの辺りで昼食を摂っておくことにしたい。途中で「食房エスト」なる洋食店を見かけたので立ち寄る。駐車場は車が一杯で、店内もかなり客が多い。人気店のようだ。私はステーキがメインに付いた「セレクトランチ(1800円+税)」を注文する。

f:id:ksagi:20190610174349j:plain

店の前は車で一杯

 一応はサラダから始まるコースになっている。最初はサラダと一品だが、これがなかなかに美味い。結構手が入っている。

f:id:ksagi:20190610174411j:plain

サラダと一品

 スープはジャガイモとタマネギのスープとのこと。タマネギの味が強いのでカレースープのような風味がある。これもマズマズ。

f:id:ksagi:20190610174446j:plain

ジャガイモとタマネギのスープ

 メインのステーキは注文通りにキチンとミディアムの焼き加減になっている。添えられているのが生野菜ではなく温野菜であるところに一手間かかっている。これにコーヒーが付いて終了。

f:id:ksagi:20190610174508j:plain

メインのステーキ

 お洒落で優雅なランチには最適という雰囲気の店である。この辺りで人気があるのも何となく頷ける。ボリュームに関してはあまりないが、今の私ならこの程度で良いのだろう。

 昼食を終えると近鉄で奈良に移動すると、そこからホールのあるJR奈良方面へ三条通を経由してフラフラと散策。この辺りもかなり観光地化してきていて、外国人の姿もかなり多い。とは言うもののまだ京都ほどの末期的症状には至っていない。今は受け入れ側の事情を全く考えずに「インバウンドを増やせ」と政府が号令をかけているが、奈良は少し田舎びた風情が良いのであって、ここまで京都みたいになってしまったら興醒めである。その辺りはキチンと考えておいて欲しい。

 しばらく歩くとJR奈良駅に到着する。時計を見るとまだホールの開場時刻まで30分ほどある。ボーッとしているのも嫌なので、「天極堂」に入店して「冷やし葛ぜんざい」を頂く。

f:id:ksagi:20190610174549j:plain

JR奈良駅の天極堂

 普通の喫茶店なら寒天を使うところだが、それがすべて葛餅であるのがこの店の最大のポイント。この葛餅がやはり美味い。熱々の柔らかい葛餅も良いが、私は冷やして固い葛餅も好きである。

f:id:ksagi:20190610174613j:plain

冷やし葛ぜんざい、実に美味

 喫茶で一息ついた後は、そろそろ開場時刻となったのでホールへと移動する。100年会館はJR奈良駅の西側にあり、陸橋伝いでホール前まで行けるようになっている。かなり巨大でデザインなどに凝っているホールのようだ。

f:id:ksagi:20190610174642j:plain

なら100年会館

 1500円という安価なチケット価格(多分補助が出ているんだろう)もあって全席完売の模様。ホール内は満員である。

f:id:ksagi:20190610174707j:plain

ステージの様子

『ショパン&運命』 藤岡幸夫&関西フィルハーモニー管弦楽団コンサート

指揮:藤岡 幸夫
ピアノ:酒井 有彩

●フレデリック・ロウ:「マイ・フェア・レディ」より“踊り明かそう”
●ロバート・ロペス&クリスティアン・アンダーソン=ロペス:「アナと雪の女王」メドレー
●ショパン:ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 作品11
●ベートーヴェン:交響曲第5番 ハ短調 「運命」 作品67

 序盤は映画音楽で、次は地元出身のピアニストを迎えてショパン、最後は「運命」というフェスティバル向けプログラムである。関西フィルの編成は12編成であるが、メンバーを見渡すとエースプレーヤーが数人抜けた1.5軍構成というところ。

 酒井のピアノに関しては非常に優等生的な演奏に聞こえた。技術的にはしっかりしているのだが、それにプラスした情緒の点にやや不足がある。ショパンのこの曲はいっそのこと徹底的にメロドラマにしても良いのだが、そこのところがサラッと無難な演奏に終始した印象。

 「運命」についてはこれという特別なところのない演奏なのだが、それだけにホルンや金管があちこちで「しでかす」のが目立ってしまって、どうにも締まりの欠ける演奏になってしまった感が強い。


 流しているとまでは言わないが、どことなくぬるさを感じる演奏でもあった。やっぱり定期演奏会などとは力の入れ方が違うんだろうか。

 

 なお今回は初めてのホールを見学するというのも目的の一つで、公演開始前にホールを一回りしてみたのだがその結果、100年会館はハッキリ言っていろいろと「残念な」ホールであるということが分かった。
 その理由を列挙すると

1.今時のバリアフリーとは対極のホールである

 二階席を可動席にしているせいで構造上エスカレーターやエレベーターを付けられないようで、三階席まで階段で登らないといけないという、このバリアフリーの時代に非常に「大胆な」構造。

f:id:ksagi:20190610174855j:plain

一階席から背後を振り返る

f:id:ksagi:20190610174915j:plain

三階席、この高さまで階段で登る上に座席の段差は危険なほど急

2.音響的に無駄どころか有害になりそうな客席背後の巨大な吹き抜け

 なぜか客席の背後に無意味な吹き抜け構造があり、ここに入り込んだ音が余計な反響をしそうである。私の席は比較的前方の直接音が強い席だったのでそこまで影響はなかったが、それでも低音が不自然な響き方をすることと、反響にやや癖があることが気になった。席によってはもろに背後からの反響の影響を受けるところもあるだろうことが推測される。

f:id:ksagi:20190610175008j:plain

一階席の奥にはやけに広い空間がある

f:id:ksagi:20190610175030j:plain

さらにその奥にある意味不明の吹き抜け

3.実に分かりにくい座席番号

 座席表示はM-ほ-20などの表記になっているのだが、このMが座席のあるブロックになるのだが、どこがどのブロックなのかが非常に分かりにくい。しかも次の「ほ」が五十音順ではなくてなぜか「いろは」順。これに気がつかなくて混乱する客が多数。せめて五十音順にするか、むしろアルファベット順にした方が今時の高齢者でも逆に分かりやすい。おかげで開演寸前まで自分の席が分からずにウロウロしている高齢者が多数。また全席完売だったため「あのー、そこは私の席なんですが・・・」という光景もあちこちで見られた。

4.ホールの収容人数に比して少ないトイレの数

 トイレの数が少なすぎて休憩時間には特に女子トイレは長蛇の列だった。しかもこのトイレが1階にしかなく、三階席の客はわざわざ階段を一番下まで降りた上で、もう一度自分の席まで戻らないといけないと言うわけで、高齢者などにとっては休憩時間にトイレに行くことはまず不可能。

 

 また出口が狭い一カ所のみで全体的に動線設計が悪くて出入りが混雑するというのも引っかかった。全体を通して言えることは、まるで高齢者に対して「来るな」と言わんばかりの使いにくさ。ホールの入口の前から無意味な階段があり、明らかに高齢者を拒むような作りになっている。どうもそもそも若者が使用することしか想定していないと考えられる。これは奈良市が「財政の負担になる高齢者はいらない」と考えているということの表明であろうかと勘ぐってしまう。今時は名古屋城の復元天守閣にエレベーターを付けろなどと要求するわけの分からん自称「障害者団体」がいるご時世だというのに、よくもこの押しも押されぬ公共施設に文句が付かなかったもんだと驚く。

f:id:ksagi:20190610175136j:plain

エントランスから既に無駄な階段がある

 ホールの構造自体がミュージカルなどに使うシアターをイメージさせるもので、どうもクラシックの公演は想定していないような気がする。どちらか言えば今流行の2.5次元ミュージカルなんかには向いてそうだ。というわけで、私がこのホールに名前を付けるとしたら「2.5次元会館」か「100年前仕様会館」である。とにかく設計がいろいろと「お馬鹿すぎる」と感じずにはいられなかった。デザイン優先で設計するタイプの建築家が陥りやすい失敗をことごとく踏んでいる。恐らく外観イメージなどを作るのは上手くても、機能設計が出来ないという安藤忠雄タイプの建築家なのだろうと推測する。自分の表現したい芸術的感覚が最優先になっていて、そこに使う側の視点が根本的に欠落していることを感じる。どういうレベルの建築家が設計したのかは知らないが、私の考えでは使い手の視点が欠けている建築を作る建築家は三流以下だと断じる。

 とにかく公共施設としては非常に問題のある施設だと感じた。音響に難がある上に震度6クラスの地震で倒壊しそうな老朽化した奈良県文化会館が、未だに現役でクラシックのコンサートに使用されている理由が何となく納得できた。

 

 これでこの週末の予定は終了。JRで帰宅するのである。