徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

新海誠監督作品一気見「雲のむこう、約束の場所」「秒速5センチメートル」「星を追う子ども」「言の葉の庭」

 「君の名」で大ヒットを飛ばし、現在「天気の子」が公開中の新海誠監督の作品について、以前にWOWOWで放送されたのを録画していた分をこの度初めて通し見した。作品は「雲の向こう、約束の場所」「秒速5センチメートル」「星を追う子ども」「言の葉の庭」の4作品、「君の名は」(第6作目)の前の2~5作に当たるようだが、確かにこれらの作品を通して見ると新海誠の作風というのが良く理解できたし、またこれらが「君の名は」につながっていくのが非常に納得できた次第。
 トータルの感想を言えば「50歳のオッサンにはツラい」というもの(笑)。というのも、これらの作品のことごとくが10代の青い恋愛が中心であり、回りくどくてじれったいのもこの年代の恋愛特有。正直なところかなり見る手を選ぶと言うことを感じた。ドップリはまる者もいそうだが、逆に「青くて見てられない」と嫌悪感を示す者も少なくないと言える。これは多分に本人の経験も反映するだろうと思う。恐らくこの時期の恋愛で特に問題もなく「良い思い出」として残っている者は、普通にサラッと見れるか「ちょっと青すぎて・・・」となりそうだが、私のようなこの時期の恋愛について決定的な悔いの類いが残っている者には「切なすぎて見てられない」となりそうである。

 

雲のむこう、約束の場所

 主人公が彼女のことを振り返るところから始まるのだが、これがまた切なさを盛り上げる。作品としては背景となっている津軽の風景の美しさが印象に残るもので、これは「君の名は」でのこれまでかと言わんばかりの徹底した風景の描き込みなどにもつながっている新海誠の芸風そのものである。
 青臭くてコテコテの恋愛要素と対称的に、話の背景は日本が津軽海峡で南北分断国家となっている一種の異世界であり、リアル系ファンタジーとも言える。あくまで美しい津軽の風景と遠くに見える違和感全開の塔の姿の対比が強烈にインパクトがある。第1作の「ほしのこえ」(私はまだ見たことがない)がSF的な世界を舞台にしたラブストーリーらしいことから、その作風をまだ引きずっているのだろう。またこの頃はアニメ界全体がまだエヴァンゲリオンの影響を濃厚に引きずっている時代でもあり、その影響も皆無ではないと言えるだろう。
 ストーリー自体には「失った過去を取り戻しにいく」という要素もあり、この辺りが50のオッサンにはいささか切なすぎるところ。最終的に彼女は目覚めているのであるが、それが単純なハッピーエンドとも言えず、ストーリー自体は基本は友情と恋愛というコテコテのものにもかかわらず、背景が非常に複雑でつかみにくいことがある。10代特有のやるせなさ切なさ、そして茫漠とした不安感のようなものも話に滲んでおり、この辺りは同年代の者の共感できる要素か。

   

秒速5センチメートル

 今回通し見した4作品の中では、もっとも切なさとやるせなさが募ってしまう作品。ラストにおいて「一体どうするの?これから」と主人公に言いたくなってしまう作品でもある。本作の主人公は一言で言えば、初恋が有耶無耶で消えてしまった後にそれを引きずってしまい、結局はその後は誰とつきあってもその影が消えていないせいで上手くいかないという、どうしようもない男である。
 3部構成になっているが、1部は主人公が小学校時代の彼女と中学進学で遠く別れ別れになってしまい、それをようやく会いに行くという話。非常に見ていてもどかしくも青臭い話。この時にお互いに相思相愛なのは間違いないのに、なぜかお互いにその気持ちをハッキリさせていない。2部は主人公の高校時代だが、ここでは彼を好きになる女子の視点から描いているのだが、彼の優しくはあるがなぜか心が遠くにある態度から、結局は彼女は自分の気持ちを告白できずに終わってしまうという話。そして3部では主人公は就職しているのだが、人生の目標を見失っている感じで、つきあっている女性にも「距離が全く縮まらない」と別れを告げられている。その一方で初恋の彼女は他の男性との結婚が決まっているという完全すれ違いの話で、結局は最後まで彼女との接点はまるでなしというシビアで救いのない話である。正直「どうすりゃいいねん!」という感想しかでない。
 恋愛ベタな男は大抵10代の頃の彼女を引きずっているなんて話もあったりするが、そのものズバリのストーリーである。身につまされる者は少し考え直した方が良さそうである。ちなみに私はもう遅すぎる。

   

 

星を追う子ども

 一連の新海誠作品の中では、一番彼の作風から外れているというか、一番一般的な作品という印象。恐らくこの作品を見た大半の者はこう呟くだろう「ジブリ?」。
 とにかくいろいろな点でジブリくさい。作画もジブリくさいが、何よりもストーリー立てが完全にジブリで、細かな設定なども含めて特に「ラピュタ」を連想させる点が非常に多い。そのせいで無意識のうちにジブリ作品を見るような目線で作品を見てしまうことになるのであるが、そうなるとどうしても「作品のテーマが今ひとつピンとこない」とか「キャラの説得力が中途半端」などの類いのことを言いたくなってしまう。突き詰めてしまうとヒロインが地底世界にまでやって来た動機が今ひとつ不明確になっているきらいがあるのである。そのせいで彼女のキャラクターがどうにもつかみにくいところがある。その辺りが終わった後で「本当にこれで良いの?」と感じさせてしまう理由でもある。

   

言の葉の庭

 アニメと言うよりも実写的に淡々と描いた作品で、他の作品と違って大したアレンジもなしにそのまま実写ドラマに出来る作品である。内容自体は端的に「男子高校生と女性教師の恋愛物語」と言い切ってしまうと身も蓋もないありふれた話になってしまうのだが、そこに主人公の10代特有の悩みや不安、日常生活への不満、さらには将来の夢なども絡めて結構リアルな心理描写をしているので、何となく主人公に共感できてしまう美しいドラマとなっている。また結論的にはこの中で「一番救いのある作品」ともなっている。

   

 

 とにかく彼の作品は恋愛についてのすれ違いの描写が非常に多く、それがどことなく切なさやまた見ていてイライラするところにもなったりする。この表現が最も新海誠流というべき彼の芸風なんだろうなというところ。それと「君の名は」でも言われていたとにかく執拗に細かい風景描写的なものも極めて印象に残る。「言の葉の庭」などでは天候の描写も秀逸であり、それはまさに「君の名は」に引き継がれている。