徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

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白鷺館アニメ棟

映画「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」を見る

 この後は三連休最後の予定が大阪である。嵐山から阪急で梅田まで移動する。桂からの嵐山線はセミクロスシートタイプの車両がピストン輸送だが、概ね乗客は多い。桂からは梅田行きの特急に乗り換える。

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阪急嵐山駅

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嵐山線車両

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内部はセミクロスシートタイプ

 阪急梅田は日本でも有数の大ターミナルである。改めて眺めて見るとなかなかに壮観。今はこんなターミナル駅はほとんどない。東京には京急のようにそもそもターミナル駅を持たない鉄道会社もあるし、東急渋谷駅は地下鉄との接続で単なる中間駅になってしまった。それどころか「非実用的建築設計の大家」である安藤忠雄に設計を依頼したせいで、渋谷駅は魔道士ワードナーでさえも迷子になると言われる一大ダンジョンになってしまった。このダンジョンも後1000年もして廃墟になると、最深層に反逆の魔道士が住み着くかもしれない。

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大ターミナルの阪急梅田駅

 梅田からはなんばに移動。なんばまでやって来たのは映画を見るため。目的の映画は「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」。2016年に公開され非常に話題になった映画の追加補完版である。劇場の混雑具合をチェックしようと今朝劇場のサイトで確認したら、何ともう既に最前列数席しか残っていない状態で、慌ててネット購入することに。劇場に到着した時には当然のように完売状態。朝にチェックしていなかったら大変なことになっていた。

 

この世界の(さらにいくつもの)片隅に

 2016年の公開時に恐らく尺や制作費の関係で省略されたと思われるエピソードを追加しての補完版である。

 特に本作で大幅に追加されているのはヒロインのすずが遊郭で出会った少女・リンのエピソードについて。前作ではかなり思わせぶりなキャラクターだったにもかかわらず、結局はストーリーにほとんど絡まず妙な尻切れトンボ感を抱かされたのであるが、それを解消するような濃厚なストーリーが描かれる。

 彼女とのエピソードを描くことで、すずが周作との関係について改めて考えたりなど、すずのキャラクターを深める意味を成している。前作ではどうもヒロインのすずの子供っぽい側面ばかりが目立っていた印象を受けたが、本作ではリンとのエピソードを介することですずの女性としての側面を強調することになっている。すずが周作との夫婦としての関係を構築していくドラマでもある。

 そして淡々とした日常を描いているからこそ、背景に流れる戦争の光景が痛ましい。最初は日常生活に無縁に思われていた戦争が、段々と切実に生活にかかわってきて、ついにはすずにとって大切な姪の命と自身の右腕をも奪っていくということの残酷さ。声高に反戦を訴えるよりも、本作の方がより深く戦争の非人道性を訴えていることが感じられる。例えば広島の原爆などは直接にはほとんど描いていないが、だからこそ逆にそこに描かれていない惨状が伝わるという部分がある。例えば妹のすみに再会した時などは、父は原爆症で亡くなったことが分かるし、彼女自身も原爆症を患っていることが示されていた。ここから彼女の命もそう長くないことは容易に想像が付く。このような表現が淡々としているのが逆に痛々しい。

 トータルとして前作よりもさらに内容が深まって、より完成度の高い映画になったのは明らかである。何よりも3時間という尺に全く長さを感じさせられなかったのが一番の驚きである。またアニメであるにもかかわらず、何やらドキュメンタリーフィルムを見せられるような生々しさも感じられた。観客を知らない間に巻き込んでしまうような深さがこの作品にはある。とてつもなく重い内容なのであるが、それを作品として重たいものにしてしまわない上手さというのもある。

 人間ドラマとしての側面がかなり深められた作品になっていたという印象だった。追加部分によって、前作のあそこは実はこういう意味だったのかという場面が結構あったりするのが驚きであった。


 正直なところわざわざ見に行くべきか(それも3時間も割いて)という迷いはあったのだが、実際に見てみると「行って良かった」という気持ちになった。なお改めて本作でヒロインを演じているのんについて「上手いな・・・」と感心した。最近某アニメで壮絶な棒演技を見せてしまった某若手女優は、もう少し彼女を見習うべきだろう。

 これでこの週末三連休の予定はすべて終了した。家路に就くことにするのである。ああ、明日からまた仕事だ・・・。