徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

PACの実験的ライブ配信を聞いてみた

 PACがコンサートの再開に向けて実験としてソーシャルディスタンスを保っての編成で行った演奏の模様をYouTubeで生配信したとのこと。ただし配信は6/19の15:00からだったのでその時間は私は仕事中。と言うわけで幸いにしてライブ終了後もまだしばらくYouTubeで見られるようなので、今日になってそれを見てみた。

 前半は佐渡裕と下野竜也によるディスカッション。その後にベートーヴェンの小曲3曲をテスト的演奏になる。


オーケストラ公演の再開に向けて~ディスカッションとデモ演奏~

オーケストラ公演の再開に向けて~ディスカッションとデモ演奏~(PAC)

指揮:佐渡 裕 下野竜也
管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団

ベートーヴェン:バレエ音楽「プロメテウスの創造物」序曲 op.43(指揮:下野竜也)
ベートーヴェン:ロマンス 第2番 ヘ長調 op.50 (指揮:下野竜也、ヴァイオリン独奏:豊嶋泰嗣)
ベートーヴェン:「コリオラン」序曲 op.62 (指揮:佐渡 裕)

 演奏終了後に佐渡が各奏者に感想を聞いていたが、そこでやはり「回りの奏者の音が聞こえない」とか「近くの奏者の息づかいが分からない」というようなコメントが出ていたが、やはりそれが一番の問題のようである。実際にどうしてもアンサンブルが一枚甘くなっているのは明らかであった。PACのように奏者が歴戦の強者ではないオケではその影響は特に甚大だろう。さらに佐渡、下野の両者ともに気にしていたのはやはりプログラムが限定されてしまうこと。この調子でいけばマーラー、ブルックナーなどは当分の間は到底演奏不可能であろうし(どころかブラームスでさえ演奏不可能として関西フィルではプログラム変更がなされた)。しばし曲目はモーツァルトやベートーヴェン辺りが中心とならざるを得ないだろう(ただそれさえも第九は不可)。そういう厳しい状況をひしひしと感じさせられるものであった。

 さらには指揮者からの距離も遠くなることから、下野、佐渡の両者ともに、なるべく身振りの大きくて明快な「分かりやすい」指揮を心がけていたように思われた。しかしこうなるとどうしても細かなニュアンスを指揮で伝えるというのが難しくなる。結果として一本調子の演奏になる危険性も強い。

 つまりはどうやっても「万全な」コンサートを開催できるのはまだまだ遠いということである。その中での奏者達の最大限の格闘ぶりが伝わってきたのである。

 

 なおさらにベルリンフィルデジタルコンサートホールでのペトレンコ・ライブも試聴した。こちらもソーシャルディスタンスを確保するための小編成コンサートで、さらには木管奏者と弦楽奏者がバラバラにコンサートを実行した以前の「山響方式」。

ベルリンフィル ペトレンコ・ライブ(20.6.13)

指揮:キリル・ペトレンコ

モーツァルト セレナード第10番変ロ長調《グラン・パルティータ》
ドヴォルザーク 弦楽のためのセレナード ホ長調

 前半はモーツァルトの管楽器のための大曲。さすがにモーツァルトらしい響きを持っているが、管楽器用の曲と言うことで一ひねりある。さすがにベルリンフィルは名奏者揃いなので、それを味のある演奏で聴かせてくれる。

 後半は弦楽陣が困難な閑散配置の中で見事なアンサンブルを聴かせる。この辺りは先ほどのPACよりも奏者間隔がやや近いというのもあるが、やはり名人揃いのベルリンフィルならではである。そして演奏側に揺らぎがないので、ペトレンコも遺憾なく自分の解釈を発揮することが出来る。おかげで音楽に深みがあり、絶品の弦楽セレナードである。弦の音色の美しさにしばしうっとりと言うところ。こういうようなのを月並みな表現であるが「極上シルクのような肌触り」とでも言うんだろうか。

 まあさすがにベルリンフィルである。個々の奏者の技倆は世界でもトップレベルである。悪条件をものともしない演奏には感心するのみ。


 それにしてもいつになれば「本来の形」のコンサートが開催可能になるのだろうか。佐渡が「ワクチンが開発されたら」というようなことを言っていたが、そうなってしまう可能性は実際に高いような気がする。そうなると今年いっぱいどころか来年度もまともな形でのコンサートは難しいだろう。つくづく忍耐の時である。

 なお10月に開催予定であったロンドン交響楽団のコンサートが中止との旨が京都コンサートホールから連絡されてきた。併せて佐渡によるバーンスタイン企画も中止のようである。合唱も含んだ大規模曲を予定していたので、現状から見てとても実行不可能と判断されたのだろう。これで京都コンサートホールが企画していたBIG3は全滅と言うことになる。おかげでまた郵便局に特定記録郵便を出しに行く羽目になってしまった。悲しい次第。それにしてもいよいよこの秋の来日オケ公演も壊滅状況が見えてきた。軒並みチケット発売が延期になっているが、今後劇的な状況の改善でもない限り、延期のまま中止の公算が大きいだろう。その中でパリ管やウィーンフィルなどはもうチケットを販売しているのだが、これは払い戻しも織り込み済みでか? しかしこれだけ厳しい状況が続けば、興行元が倒産してチケットが不良債権にという最悪の状況の可能性も出てきている。