徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

キングダム58巻

 以下の内容については若干のネタバレも含むので、あくまで予備知識ゼロの状態で読みたいという方は作品読んでから読んでいただいたらよろいしかと思います。もっとも今回の展開はかなり読める展開ではあったと思いますが。

      

 

 いよいよホウ煖との決着がつくのがこの巻になるが、同時にひたすら長かった朱海平原での戦いの決着にもなる。

 ただそれでなくても本作の中であまりに超自然的存在になってしまっていたホウ煖との戦いだけに、信の方も今までなくなった者達のオーラを背負っていたり、挙げ句の果てには羌カイが冥界に潜って死んでしまった信を甦らせに行くとか、「北斗の拳」か「ドラゴンボール」みたいな展開になってしまったのはいささか興醒め。典型的なジャンプ漫画が陥るストーリー崩壊パターンを踏んでいるようで嫌な予感を抱かせるところがある。この路線を突き進んでしまったら、その内に元気玉やドラゴンボールなどの甦らせアイテムが登場しかねないが、もしそうなると中国古代史の冒険物語である本作としては致命傷になりかねない。

 もっとも作者はそのことは十二分に理解しているようである。今回の展開は実際には作品がそういうオカルト的展開に突っ走ったというよりも、むしろそのようなオカルト的要素をこの際に一掃したと見るべきだろうというように感じられる。

 言うまでもなく本作最大のオカルト的存在がホウ煖である。自ら武神を名乗り、人間を超越することを目指していたとする彼の戦闘能力は完全にオカルトの世界になってしまっており、彼の存在をこのまま残しておいたら本作がリアルな合戦を描くことはとうてい不可能であるので、今後の展開を考えると信が越えるべき壁の一つとして、この辺りで早々に退場させる必要があったのは明らか。ここまではそもそも信の強くなり方が非常識だっただけに、それを希釈する存在としてホウ煖の存在が必要だったが、信の強さが「大将軍級」というレベルに収まった今は、既に彼のような超自然的な存在はストーリーにとって有害にしかならない。ここらで消え去るのは当然と言えよう。

 それともう一つのオカルト存在が羌カイ。今回のような死人を生き返らすなどは論外だが、そもそも彼女の使う剣技自体が完全にオカルトだったので、正直なところ「信がいなくても彼女一人いたらそれだけで無敵では」というところがあった。これまでは信は爆発的な成長を合理化させるために「師匠」としての彼女の存在が必要だったが、これも信の強さがほぼ確立した今では、むしろ信の限界を示す存在になりかねなくなっていて、危険性を孕んでいた。今回のストーリーで、まず彼女が今後この蘇生術を使うことは出来ないと枠を嵌めた上で(当然のことである)、さりげに今後は他の術も威力が落ちたり使えなくなるということも語っていたことから、これからは彼女の強さを今までの超人クラスから通常人クラスまで落とすことを匂わせている。そうすることによって信の「まともな強さ」が引き立つということになる。これはリアリティーのあるストーリー展開には不可欠のものである。

 

 というわけで今回の完全なオカルト展開は、恐らくこれから本作がよりリアルな歴史活劇の方向を向くための課題一掃なんだろうと感じられた。今回の戦いで倒れた飛信隊メンバー2名の意外な形での再登場なんかは、まあファンサービスといっても良いだろう。今後は彼らは信達の回想の中でのみ登場することになりそうである。もっともあの2人の内、松左は十二分にフラグを立ててもらっていたが、去亥については「顔にでっかいアザのある人」ぐらいの認識しかないまま、十分なキャラ立ちもしない内の退場であったのはやや気の毒であるが(笑)。

 で王翦の想定通りにギョウは内側から崩壊したが、ここになって今まで自明でありながらここまで語られることのなかった「だけど兵糧0の軍が、兵糧の尽きた城を落としても問題解決しないんじゃ」という課題が、次巻の最大の焦点になる模様。王翦のイナゴの策は私にも読めたが、今回についてはどういう策で兵糧を確保するつもりかは私にも読めない。あるとしたら黄河の水運を利用して兵糧を一気に運び込むか(王翦が出陣前に昌平君に相談していたのはその段取りということになる)辺りぐらい。後は豪商などが押さえている食料をギョウを落としたことで手に入れた財宝で買い取るか(もっともギョウの内部の宝物は既にかなりが桓騎軍のゴロツキ共が懐に入れてしまったようであるが)ぐらい。信は民からの略奪を懸念したようだが、この時点で周辺に略奪できるような民は存在しないはず。またあの鋭い桓騎が兵糧のことについてここまで懸念を見せていないのは、王翦の策を知っているか予想が付いているかということだろうが。

 まあそれにしても、次の巻への興味をつなぐ展開を持ってくるのはさすがとは言えよう。もっともそういう作り方はあまりに度が過ぎると下品な上にストーリーに無理が生じる原因になりやすく、これも悪しきジャンプ崩壊パターンの「毎回クライマックス」だから要注意ではあるが。