徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

お知らせ

アニメ関係の記事は新設した「白鷺館アニメ棟」に移行します。

白鷺館アニメ棟

「天晴爛漫!」第8話

21世紀の「チキチキマシン猛レース」?

 この夏アニメの中でもう一作、録画はしていたのだが目を通していなかった作品が本作。少し時間が出来たので第1話を見たのだが、思いの外面白いので一気に最新の第8話まで見てしまった。

     

 時は明治初期(という設定だろうが、どうも現世とは違うパラレルワールド的な世界である)、カラクリオタの天晴と未だ武士の精神を捨てていない小雨が偶然にアメリカに渡ることになり、帰国資金を稼ぐために大陸横断の自動車レースに自作の自動車で挑むという話。いきなりレースが始まったのを見た私の感想は「もしかしてチキチキマシン猛レース?」と思ってしまったが、これが分かる人はここの読者にはいなさそう。

 

キャラクターの描き方が非常に魅力的

 初っ端からいきなりレース開始で始まり、そこから過去に戻るという構成は陳腐な演出だが、ドラマの持って行き方としては上手い。もっともそこに話が戻ってくるのが第5話の後半とは、そこまで引っ張るとは思ってなかった。もっとも引っ張った分だけキャラクターを濃密に描いたのは正解。いかにもお坊ちゃんで正々堂々としすぎた好少年のアル(私は花形満と呼んでいる)とか、ガラスの壁を突き破ろうと頑張っているシャーレン(私は春麗と呼んでいる)とか、非常にクールな男だが実は意外にお節介かもしれないディランとか、さらには親の敵を探している先住民の子供のオトトなど、非常にキャラクターが立っている。

 キャラクターが立っている上に、キャラクターの成長もキッチリと描いている。万事合理的に考えすぎるせいで、人との関わり合いを面倒臭く感じ、人の情に欠けている節のあった天晴が、他人を気遣ったり信頼したりする行動を示したのは一番の成長。天晴は自分の非合理的行動に戸惑っていたようだが、小雨が「そういうお前を見て安心した」と言うのは視聴者も同じことを感じたところ(笑)。

 またガラスの壁に突き当たっていたシャーレンは、諦めずに前向きに「不可能と思っていたことを可能にする」ということに挑戦する意欲を持った。

 

そして第8話は小雨の成長物語

 そして第8話は小雨が過去のトラウマを克服し、さらにはオトトも精神的成長を遂げる回になっていた。今回の小雨はゾクゾク来るぐらい格好良く(必殺技を決めたところは完全に他の作品になってしまっていたが)、やっぱりこうでないとという王道展開に久しぶりに燃えた。またここで天晴が小雨に対しての深い信頼を見せていたのも、ここまでの彼の大きな成長の結果である。

 本作はとにかくキャラクターを魅力的に描いており、それはさりげない脇キャラにまで及んでいる。シャーロンに散々「女にレーサーは無理だ」と言っておきながら、レース後にシャーロンのことを認めたオッサンとか、シャーロンの車の整備に名乗り出る整備士連中なんて「今時なんとお約束な展開なんだろう」と思わせながらもグッときたし、細かいところでは小雨のアルバイト先の店長なんかでもちょっとしたところでグッとくる話があった。そして今回の酒場のおばさんなんかもいかにもの存在感のあるキャラだった。ちなみに最後の酒場のおばさんの台詞「おっちんじまうと思ってたけどな」だったが、私だったらあそこは「私には分かってたさ。あんたが本当は強い男だということはね。」にしてたな。そうした方がその前に言っていた「本当に強い奴かどうかは分かるようになった。」という言葉にもつながったし。

 

明らかに古いタイプの王道ストーリーだが、それが魅力でもある

 本作は今時の作品には珍しいぐらいにドラマ内でキャラクターがリアルに生きている。いきなりアメリカに渡ったにも関わらず、特に英語を勉強した様子もない小雨が全く意思疎通に困っていないなどの「不合理な点」はあるが(だからパラレルワールド的と言っているんだが)、その他の点では例えばアメリカ人の中にある黄色人に対する差別意識なんかも垣間見えていたりしてこの辺りは結構リアルである(実際の差別はあの程度ではないが)。

 正直なところ、レースの最中に様々な人間ドラマを絡めるという作品は今時の作品とは思えない古いパターンだし、ここまで真っ正面に王道展開でキャラクターを描いていくという作り方も結構「古さ」を感じさせる。ハッキリ言って、この夏アニメでここまでの古くささを感じさせる作品は他にはない。もっともだからこそ個人的にはもろにジャストミートなんだが。私が以前から言っている「王道が王道と言われるのには意味がある」というのをまさに実践しているような作品である。

 もっともあまりに王道過ぎるので展開が読めるところもある。バッドブラザーズがギルの偽物だったのは最初から予測でき、悪だくみをすべて聞いたオトトを殺さずに道ばたに捨てていた時点で「やっぱりな」と確信させることにもなっていた。また今回の惹きになっているあの顔面傷男が実はギルだったという展開も、まあ完全に予想できる範囲の内容で意外性がないなんてことはある。

 それでも本作が何とも言えない独特の魅力を持っていることは否定できないのである。と言うか、私のようなオールドタイプにはあらがえないタイプの魅力を持っている。この辺りの感覚は平成生まれのアニメファンとは感覚の違いはあるだろうが。

次話はこちら

www.ksagi.work