さて「加入したものの全く元を取れていなかったベルリンフィルデジタルコンサートホールの元を取るための視聴」も2回目である。前回はどうも若手の意欲が空回った感じのコンサートであったが、今回聴いたのはその前に行われたもっと円熟した2人の競演となる。正直なところベルクは私としてはあまり得意なところではないし、ドヴォルザークの交響曲も5番となれば「どないやねん?」とやや微妙なところ。そういう辺りに不安はあるものの、さて公演の内容はいかなるものか。
ベルリンフィルハーモニー管弦楽団デジタルコンサート(2020.9.19)
指揮:キリル・ペトレンコ
ヴァイオリン:フランク・ペーター・ツィンマーマン
ベルク ヴァイオリン協奏曲《ある天使の思い出に》
J・S・バッハ 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番ハ長調よりラルゴ
ドヴォルザーク 交響曲第5番ヘ長調
ベルクについては正直なところ曲はあまりよく分からないし、あまり私の好みとも言えない。しかしさすがにツィンマーマンの演奏は実に雄弁である。殊更に技術を誇示したりこれ見よがしに自らの解釈をアピールするようなところはないのだが、それでもこの難解な音楽が流暢にスッと入ってくる。しかもよく聞いていると実に味わい深い。正直なところ「これがあの退屈な(私にとって)ベルクなのか?」と驚いたところ。またペトレンコのツボを押さえた指揮がツィンマーマンの演奏の後押しをしたことも忘れてはいけない。
アンコールピースとしてバッハの無伴奏ソナタが登場するが、無伴奏になることでツィンマーマンの音色の深さが非常に良く分かる。この辺りは流石である。誇示しなくても全てが伝わってくるのである。
ドヴォルザークの5番は非常に牧歌的で溌剌とした曲である。構成的にはやや冗長さも感じないではないが、それでもドヴォルザークらしい魅力的な旋律は登場するし、また後期交響曲につながる特徴も見られる(特に8番につながっているのがよく感じられる)。
さてペトレンコの指揮であるが、溌剌としたところは明るく元気に、謳わせるところは美しくと曲の局面に応じて巧みにメリハリを付けてくる。これが曲の構成の弱点を補うことになる。躍動感があり生気に満ちたその演奏は実に魅力的である。結果としてドヴォルザークのこのマイナー曲に光を当てることに成功している。
さすがにペトレンコである。抜群の安定性と冴えを感じさせる演奏だった。このような演奏に接するとドヴォルザークの5番も結構名曲に聞こえてくるから驚き。クラシックにおいて演奏がいかに重要であるかが痛感されるところ。実際に今日では名曲とされる曲の中にも初演での失敗でしばらくお蔵入りになった曲も少なくない。優れた演奏は曲に対する評価さえ一変させるのである。