徒然草枕

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白鷺館アニメ棟

ヤノフスキ指揮でベンディックス=バルグリーのヴァイオリンソロでのブルッフは濃厚なメロドラマ

 さてベルリンフィルのデジタルコンサートの今年度プログラムであるが、先日行われたヤノフスキとベンディックス=バルグリーのライブがようやくアーカイブの方にアップされたのでそれを視聴した。ちなみにデジタルコンサートではライブ配信も行われているが、現地で夜のコンサートは日本時間ではもろに真夜中になるので堅気の社会人にはライブ視聴者は不可能。どうしてもアーカイブに頼らざるを得ないのだが、映像の編集に1週間程度かかるので、その間をまたされるのがもどかしいところである。

www.digitalconcerthall.com

 

ベルリンフィルハーモニー管弦楽団デジタルコンサート(2020.10.3)

指揮:マレク・ヤノフスキ
ヴァイオリン:ノア・ベンディックス=バルグリー

ブルッフ ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調
J・S・バッハ 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番ト短調よりアダージョ
ブラームス セレナード第2番イ長調

 ブルッフのこの協奏曲については同時代のメンデルスゾーンと同様に対極的な2種類のアプローチがある。古典派の延長としてのアプローチとロマン派の走りとしてのアプローチである。今回のヤノフスキとベンディックス=バルグリーのアプローチは明らかに後者のものである。

 冒頭からややゆっくり目のテンポの木管の演奏がかなりの哀愁を帯びて始まるが、ベンディックス=バルグリーのヴァイオリンソロが始まるとさらに音楽は大メロドラマに突入する。ベンディックス=バルグリーの音色は極めて甘く美しくブルッフの音楽の最大の魅力である旋律美を正面に描き出す。音色の一つ一つに非常に感情がこもっており、甘く切ない空気が会場を支配する。一方のヤノフスキも抑えめのテンポでヴァイオリンソロにさらなる情感を付与する。

 第1、2楽章はその調子のメロメロドラマで押していき、ややアクロバチックな趣のある第3楽章もテクニックを前面に出して行くのではなく、テンポは相変わらずの若干抑えめで音色の情感を忘れない演奏。随所でメロディを謳わせる。いささか大時代がかった感もある演奏ではあるが、これはこれで感動深いものである。

 会場の熱烈な拍手に答えてのアンコールは定番のバッハの無伴奏ソナタ。ブルッフで聞かせた甘く切ない雰囲気はこの曲にも引き継がれており、実に甘美な演奏である。情感豊かで心を震わせるバッハである。

 後半はヴァイリオンを欠く編成でのブラームスのセレナード。ヴァイオリンを編成から除くことで全体的に低重心のドッシリした音楽となっている。しかし重厚な中に煌めくような軽やかさも秘めている曲となっている。

 ヤノフスキの指揮はこのドッシリとした曲の中から美しさを引き出そうとしていることを感じさせる。さすがに老巨匠は決して軽薄にはならず、その演奏自体は一貫して非常に安定感の高いものであるが、その中に煌めくメロディを決して見落としてはいない。ブラームスらしい重厚な構成の中に潜む若さにも焦点を当てているんだろう。意外なほどに溌剌とした演奏でもあった。


 老巨匠の落ち着いて円熟した境地だけでなく、未だ衰えない若々しさを秘めた感性というものも感じさせられたなかなかの演奏。ヤノフスキもまだまだ衰えとはほど遠いということを実感させた。人間、死ぬまで成長していくもののようである。