徒然草枕

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久しぶりのベルリンフィル時間差ライブはビシュコフでラルヒャーの新作とマーラーの4番

1ヶ月以上ぶりのデジタルコンサートホールである

 かなり久しぶりのベルリンフィル時間差ライブである。前回が10/31だから、実に1ヶ月以上ぶりである。もっともその間に11/14に一度ペトレンコによるチャイコフスキーのオペラ「マゼッパ」の演奏会形式の公演があったのだが、さすがにドイツ語&英語字幕のロシア語オペラは、外国語が皆目である私にはわけが分からず(まあ英語字幕で極めて大まかな状況ぐらいは把握できないでもないが)、途中でしんどくなって断念している(英語に対応しようとすると私は大幅に体力を消耗する)。ベルリンフィルも日本の客向けに日本語ホームページ及び日本向け時差配信はやってくれているが、さすがに日本語字幕を入れるところまではサービスしてくれないようである。

 今回はこれまた久しぶりのセミヨン・ビシュコフである。結構アクの強い演奏をするビシュコフであるが、今回はどんな演奏を聞かせてくれるか。曲目はラルヒャーの新作とマーラーの4番。マーラーの4番と言えば、つい先日に尾高忠明指揮の大フィルで聞いたところである。尾高は徹底して歌わせる演奏をしてきたが、果たしてビシュコフはどのような演奏を展開するか。

 

 

ベルリンフィルデジタルコンサートホール

指揮:セミヨン・ビシュコフ
ピアノ:キリル・ゲルシュタイン
ソプラノ:チェン・ライス

トーマス・ラルヒャー ピアノ協奏曲(財団法人ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン・コンツェルトハウス、オランダ公共放送、BBCラジオ3、デンマーク国立交響楽団、ベルゲン・フィルハーモニー管弦楽団共同委嘱作品)
グスタフ・マーラー 交響曲第4番ト長調

 

 さて一曲目はトーマス・ラルヒャーの委嘱新作の披露のようであるが、まあお約束のような現代音楽であり、完全に私の守備範囲外である。もっとも無調性音楽ではあるようだが、無旋律音楽とまではいかないので、わかりにくさは中級レベルぐらいか。正直なところ面白いとは感じないが、不快とまではいかない(現代音楽は本当に作品によって不快すぎて聞いていられないものもある)。また急-緩-急の三楽章形式のようで、こういう辺りは意外と伝統的な形式。あまりに尖った前衛的な曲ではないところはむしろ好感が持てる。

 それにしてもこういう分かりにくい曲は演奏も大変だろう。さすがにピアニストのゲルシュタインもタブレットで楽譜を出していたようである。実際に聞いているこちらも、こういうメロディラインが明確でない曲は曲自体を覚えにくい。何を表現しようとしているのかは不明だが、現代社会に満ち溢れる不安感と、その中で個人に沸き上がる情動とかでも言っておいたら、それっぽく聞こえるだろうか(笑)。

 さて休憩の間に録画済みの「世界遺産」を倍速再生でチェックして原稿を執筆、いよいよ後半開始だとスタンバっていたら、突然に配信がダウンしてしまった。サイトが全面的にアウトかと思って他の映像を調べてみたところ、アーカイブは問題なく配信されるところから、どうもライブに固有の問題の模様。仕方ないので放置して様子を見ていたら、10分ぐらい経ってから突然にマーラーの4番の第1楽章の途中という中途半端なところから演奏が始まってしまった。これは日本向け配信だけのトラブルか、それともそもそものライブ配信のトラブルかどちらだろうか? 再開する直前に、後日編集版を公開するという案内(だと思うが何しろ私の語学力なので確信はない)がしばらく映ったようなので、もしかしたらそもそもの放送のトラブルかもしれない。だとするとちゃんと元映像はあるんだろうか?

 

 

 というわけでどうにも中途半端な乗りにくい状態での鑑賞になってしまったが、とりあえず第1楽章はかなりメリハリが強くて、やはりビシュコフらしいアクの強さも感じさせる演奏のようである。ここ一番でストンと落として盛り上げる演出は彼らしいところ。これでもかとばかりに細部を拡大してくる感がある。

 第二楽章にもそのアクの強さは出ている。いきなり突っかかるような独得のリズムのコンマスのソロ演奏が印象に残るが、どうも音楽自体に独得のアクセントをつけてきているようである。滑らかにしっとりと歌う部分と、あえてゆっくりとメロディを浮き上がらせる部分の対比が激しい。面白くはあるが、人によって悪趣味と感じるかもしれない。

 第三楽章はとにかくゆったりマッタリと表現してくる。ビシュコフもそれを指揮棒を使用せずに手業で表現してくる。非常に叙情性溢れる音楽となっている。そして曲が陽性に転じ始めたら第四楽章。ライスのソプラノはいわゆる天国的な歌唱と言うよりは、もっと力強くてアクセントの効いたものである。だから天界の音楽ではなくて、あくまで人界のやや皮肉の効いた音楽として聞こえてくる。そして最後は息絶えるかのようにさえ思われた。とにかく通常の4番とはやや印象が異なる。

 結局のところ、やっぱりビシュコフは結構アクが強いなという印象。表現がかなり濃密で、ところどころで極端なスポットライトを当ててくるので、表現過剰の悪趣味の寸前。この辺りは好き嫌いがスパッと分かれそうな気がする。私としては面白いと思うが。