徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

お知らせ

アニメ関係の記事は新設した「白鷺館アニメ棟」に移行します。

白鷺館アニメ棟

アンコール都響で大野和士のくるみ割り人形

アンコール都響をエムキャスのネット配信で

 今日は久しぶりに「アンコール都響」の放送を聴くことにした。関東のテレビの通常放送は関西在住の私には聴くことはかなわないのだが、この番組はMX2での放送でエムキャスによるネット配信があるので、私でも聴くことが出来る。

 今回は昨年のクリスマスの大野和士指揮のチャイコフスキーのくるみ割り人形の全曲版だという。チャイコフスキーが好きな私が特に好きな曲の一つである。組曲版の演奏なら珍しくはないが、これが全曲となるとなかなかに珍しい。2018年の年末にフェドセーエフがN響で全曲版の演奏をするというので、わざわざ東京まで聴きに行った記憶がある。実際に私がこの曲の全曲版を耳にするのはこの時以来ということになる。

www.ksagi.work

 

 

アンコール都響

チャイコフスキー:バレエ音楽《くるみ割り人形》op.71 全曲
(都響スペシャル2020(12/25)2020年12月25日東京文化会館)

【指揮】大野和士(都響 音楽監督)
【合唱】女声合唱/二期会合唱団(事前収録による出演)

 

 この茶目っ気タップリの曲は、十分な技術力は当然として、やはりユーモアと何よりもノリが重要となる。以前にN響の演奏を聞いた時には、技術的には十二分にもかかわらず、やはり公務員オケは茶目っ気に欠けるとやや不満を感じたところがあるのだが、さすがに大野の手にかかると実に茶目っ気たっぷりでいささか外連味もある演奏となる。

 演奏自体はかなりアップテンポ気味。正直なところバレエ曲をこのテンポでやられると踊る方は大変なのではという気もしたが、そこは演奏会メニューということでありなんだろう。ここ一番になると煽って盛り上げる大野の指揮は、場合によっては下品になることもあるのだが、こういう曲の場合には見事にはまる。元々この曲のような劇付随音楽の場合、こういうタイプの演奏だと映画音楽的な雰囲気がより増すことになる。チャイコフスキーらしい魅力的な旋律が次々と前面に出てくる一大ファンタジーであり、「ハリー・ポッター」のサントラでも聴いているかのような気分になってくるから不思議である(実は私は「ハリー・ポッター」の映画は見たことがないが)。

 まあ細かいところにケチを付けていけば完全に無謬な演奏というわけではないし、個人的には「花のワルツ」などはこういう前進力に満ちた演奏よりも、もっとゆったりたっぷり美しく鳴らす方が好みであるなど、やや私の好みとズレるところもないではない。しかしトータルで言えば色彩的で楽しく、十二分に満足できる演奏だろう。

 ちょうどのコロナ再爆発の最中だった昨年12月の公演とのことで、コーラスをステージ上に配することが出来ず、合唱は別録りというかなりトリッキーなことになったという。なかなかに困難な条件であったとは思うが、目に見えての破綻はなかった。

 なおこれもコロナ再爆発の最中の煽りで、たまに映った客席は悲しくなるぐらいにガラガラであったが、それにもかかわらず大野は最後までテンションを保って演奏しきったようである。当日、実際にこの演奏を東京文化会館で体験した聴衆は、十分に満足できるクリスマスナイトとなったことであろうと思う。