徒然草枕

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ベルリンフィルデジタルコンサートホールでジョルダンのアルプス交響曲

週末お籠もりの心を癒やすのはライブ配信のみか

 オミクロン株が猛威を振るい、今や周りの人間すべてがコロナ感染者に見えてくるという緊急事態に相成ってきた。私も年齢的にも健康的にも「コロナはタダの風邪」などと現実逃避を決め込んで根拠なき楽観論に浸っていられる立場ではなく、もし感染したらかなりの確率で重症化して人生それまでになる可能性がある立場である。こうなるとどうしても週末に外に出かけるということは困難になってくる。

 この週末はコロナ禍急拡大の影響に加えて先週以来体調不良で、大フィルと京都市響をキャンセルという実に苦渋の決断を迫られたところである。しかしそうなるとせめて配信ぐらいでは音楽を楽しみたいというものである。

 昨日は東京のニコ生配信があったので急遽それを試聴したが、今日はちょうどベルリンフィルデジタルコンサートホールの時間差ライブ配信があるのでそれを楽しみたい。

 

 

ベルリンフィルデジタルコンサートホール

指揮:フィリップ・ジョルダン
ソプラノ:アニヤ・カンペ

ワーグナー 《ラインの黄金》より抜粋(フィリップ・ジョルダンの編纂による)
ベルク アルテンベルク歌曲集
R.シュトラウス 《アルプス交響曲》

 ラインの黄金はジョルダンが編纂した抜粋とのことだが、ワーグナーらしい混沌とした風景から始まると、途中で怒濤の嵐のような場面を含んで、最後は華々しいファンファーレで締めるというなかなかに格好の良い編纂をしている。当然のようにベルリンフィルの華やかな音色はこういう曲を十二分に盛り上げる。ジョルダンもそのパワーをオケから遺憾なく引き出している。

 二曲目はベルクの歌曲。やはりベルクらしく初っ端から奇っ怪でおどろおどろしい節回しが炸裂する。ザクッと詩の内容を斜め読みしたところでは特におどろおどろしい内容でもないようなのに、なんでこんだけおどろおどろしい音楽になるんだろうかなどと考えてしまう。

 これについてはカンペの堂々たる歌唱に尽きるだろう。声量、表現力、その他さすがに全く申し分が無い。正直なところこんなわけの分からない曲でも彼女の歌だけで聞かされてしまうところ。

 

 

 後半のアルプス交響曲はどっしりと構えた堂々とした演奏・・・と言いたいところであるのだが、それよりはむしろやけに躍動感のない足取りの重い山登りという気がする。全体的にやけにゆったりのったりしており、意気揚々と登山に挑むと言うよりも足を引きずりながら山道を歩いている印象。途中の風景にも今ひとつ興味薄げである。

 山頂に到着しても眼前に広がる大パノラマとはならずにどうにも風景が地味である。そうこうしている内に悪天候が迫ってくるのだが、おどろおどろしさとやかましさはあっても今ひとつ緊迫感はない。悪天候に追われて仕方なくやや急ぎ足で山を降りてくるが、結局は「ああ、しんど。もう山登りは二度といいわ。それよりも早く寝たい。」というような感じになってしまう。

 ジョルダンは何らかの意図を持ってこういう演奏をしたのかもしれないが、私にはその意図は全く理解できなかった。私としては今まで聞いたことのないやけにダルいアルプスであったというのが本音。音楽にしてもR.シュトラウスらしいゴチャゴチャしたところのある旋律をそのまま提示するのでなく、もう少し整理して分かりやすく提示して欲しかったところがある。

 正直なところどうにも不可解な演奏だった。この曲に関してはベルリンフィルの音色もいつになくあっさりと淡泊で、色気を感じないという感もあった。ゆったりやるならその分美しく聞かせるという手もあるのだが、どうもそういう風にも感じられず、ただひたすらダラダラしているようにしか聞こえなかった。


 うーん、折角PCに張り付いてライブ試聴したのだが、ジョルダンの表現意欲が空回りしていた感がある。この曲でここまで違和感を持ったのは初めてである。