徒然草枕

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ベルリンフィルデジタルコンサートホールはシフとペトレンコのブラームス

三連休最後はベルリンフィルデジタルコンサートホールで

 さて、結局はお籠もりのまま過ぎ去った三連休であった。困ったことにこういう休日の過ごし方をしていると、精神的に休暇を取った気にならない。肉体的には休息を取っているはずにもかかわらず、精神的な充足感の不足のために、それが肉体にまで跳ね返ってきて疲労が取れた気がしないという困ったことになる。

 やはり少しでも精神を満たそうとすれば何らかの活動が必要と言うことで、昨今はこういう時にはネット配信に明け暮れることになる。昨日はニコニコ生放送で東響の演奏を堪能したが、今日は二週間ぶりのベルリンフィルデジタルコンサートホール。巨匠アンドラーシュ・シフがブラームスのピアノ協奏曲第2番でペトレンコと共演である。

 

 

ベルリンフィルデジタルコンサートホール

キリル・ペトレンコ
アンドラーシュ・シフ
ベルリン放送合唱団女声

ブラームス ピアノ協奏曲第2番変ロ長調
スーク 管弦楽と女性合唱のための交響詩《人生の実り》

 もう始まった時からシフのピアノの音色は実にゴージャスで豊麗である。自在にして実に豊かなピアノの響きが場内を制圧し、それにオケが花を添えるという感覚。シフのピアノ演奏は実にニュアンスに富んだ情感豊かなものであり、この曲が湛える深い情緒をビンビンと伝えてくる。

 ドラマチックな第二楽章でもシフのニュアンスに富むピアノ演奏は一貫している。そして叙情豊かな第三楽章ではさらにそれが壮大なドラマへと発展をしていく。そこで奏でられる旋律は美の極みと言える。聞いているだけで魂がこの世を離れて他の世界に浮遊しそうな感覚を受ける。

 そして軽妙にして可憐な最終楽章。曲が盛り上がって行くにつれてシフの演奏はよりダイナミックでロマンチックに展開、縦横無尽な活躍を繰り広げる。硬軟自在なタッチで豊かな響きを引き出す。

 まさにシフのマジックに引き込まれてしまったという印象。ピアノとはかくも自在で豊かで美しいものかと再認識されられた。正直なところ私はこの曲については長大でやや退屈な曲という印象を持っていたのだが、結果として最後まで引き込まれてしまった。恐るべしである。こういうのを巨匠芸というのだろうか。

 場内大盛り上がりの中、アンコールはブラームスの6つの小品からとのこと。これがまたも美の極み。まさに天上の音楽とはかくあるかなと言うところ。

 

 

 後半はスークの交響詩。私は初めて聞く曲なのだが「人生の実り」というタイトルに反して内容は意外に激しくて喧しい曲である。どうも単純な人生賛歌ではなく、苦闘や葛藤を乗り越えて最終局面にまで向かう人生を描いているらしき曲。R.シュトラウスの「英雄の生涯」に匹敵する曲かもしれない。

 馴染みやすいメロディが登場するというよな旋律的な音楽ではないのでいささかつかみ所のない曲なのだが、例によってペトレンコはこの複雑極まる曲をスッキリ整理して提示してくれているようである。おかげで私でもどうにかこうにか付いていくことが可能である。

 一つ間違うとグダグダした演奏になる危険のある曲に思えるが、流石にベルリンフィルはペトレンコの指揮の下でキビキビとした切れ味鋭い演奏を行っている。

 そして終盤、どうやら運命に試練に勝利を収めることが出来たのであろうかと思われるところで女声合唱が登場する。場内に合唱隊の姿が見えないところから考えると録音であろうか。ここから音楽は穏やかに転じて最後の境地に至るようである。ヴァイオリンソロの演奏が実に繊細である。そして安らかな境地で最期は眠りにつく。

 分かりやすい曲とは言い難かったのであるが、人生を描いた一大叙事詩であるということは理解できた。そして明快なペトレンコの指揮も、ベルリンフィルの演奏も流石の一言である。