徒然草枕

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ベルリンフィルデジタルコンサートホールで、ヤルヴィとパユによるトゥールの新作フルート協奏曲その他

ベルリンフィルデジタルコンサートホール(2022.5.29)

指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
フルート:エマニュエル・パユ

シベリウス 交響曲第7番ハ長調
エリッキ=スヴェン・トゥール フルート協奏曲《ルクス・ステラルム》(財団法人ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、チューリッヒ・トーンハレ共同委嘱作品・初演)
ベートーヴェン 交響曲第8番ヘ長調

 第一曲目はシベリウスの最後の交響曲。何やら混沌とした複雑なメロディの中に抒情漂う曲である。クレバーでメリハリ強めの指揮をすることが多いのがパーヴォであるが、この曲でもかなりシャープな演奏を繰り広げる。そのためにシベリウスの曲が共通して持つ北欧の幽玄さという印象とはやや異なる。もっと生々しくて派手な印象。またどことなくクールさが漂うのであるが、それも北欧の寒さとは別種のものである。音色は実に美しく、ベルリンフィルの特質はよく引き出しているのだが、これがシベリウスのスタンダードかと言えばやや違うような気が私にはする。

 トゥールはエストニア出身の作曲家で、パーヴォとは同郷となる。「In Spe」というロック・グループを率いて活動して、またたく間にエストニアの人気バンドの一つとなったらしいが、1984年に作曲に専念するために脱退したという。

 元々ロックをやっていたということだけあってか、その音楽はかなり挑発的な雰囲気がある。ガンガンとぶつけるようなパユのフルートの演奏は、軽やかなフルートの印象はなく、奇妙な幽玄さを感じさせるその音色は日本の尺八をも連想させる。実際に聞いていて私が感じたのは「何となく鼓で合いの手を入れたくなるな」というもの。基本的には奇っ怪な現代音楽系である。

 まあこの手の曲はどうしても私の理解を超えてしまうのだが、難解なこんな曲でも全く乱れないのは流石のベルリンフィルではある。なおパーヴォに同郷の誼、またエストニア人でないと分からない共通の情感の類いがあるのかは不明である。結局のところ、私には残念ながら30分に及ぶ奇っ怪な騒音に過ぎなかったというのが本音。

 後半のベートーヴェンの8番もパーヴォのアプローチは明快でシャープな現代的な演奏である。かなり快速なテンポでサクサクと進めるベートーヴェンである。ただその分、やけに淡泊というか情緒に欠ける感がある。このパーヴォ特有のクールさをどう取るかである。私にはあまりに無機的に聞こえるように感じられる。整然として破綻のない演奏なのであるが、何か心に残らないような気がしてしまう。