徒然草枕

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ベルリンフィルデジタルコンサートホールでオラモとヤンセンによるシベリウス

灼熱の中、北欧音楽で涼みたい

 夏が近づいてきたのか真夏日の灼熱地獄で、少し外に出ただけで夏バテしてしまいそうな状況である。やはりこんな時は涼しげに北欧の音楽などを楽しみたいところである。ちょうどベルリンフィルデジタルコンサートホールの今週の時間差ライブ配信は、サカリ・オラモによるシベリウスとルーズ・ランゴー(デンマークの作曲家らしい)という北欧系プログラムである。

 

 

ベルリンフィルデジタルコンサートホール

指揮:サカリ・オラモ
ヴァイオリン:ジャニーヌ・ヤンセン

シベリウス ヴァイオリン協奏曲ニ短調
ルーズ・ランゴー 交響曲第1番「岩礁の牧歌」

 一曲目は有名なシベリウスのヴァイオリン協奏曲。いきなり涼しげな空気で始まるのは、曲調もさることながらオラモが醸し出す雰囲気もあるのかもしれない。

 そこにかすかに響き渡るヤンセンのヴァイリオンの音は非常に繊細であるのだが、決してか細いものではない。繊細でありながらなおかつ力強く、また非常に濃厚な表情を帯びている。その音色は北欧の憂愁とでも言うべきものを帯びている。

 それに対してオラモ率いるベルリンフィルの音色は総じて明るい。この両面性が不思議にマッチしてシベリウスの複雑な世界を体現しているように感じられる。

 静かな抒情を帯びた第二楽章に躍動感のある第三楽章、ヤンセンの濃厚な表現をオラモ率いるややクールなベルリンフィルがバックからしっかりと支えるという雰囲気の音楽になっている。結果としてなかなかにスケールの大きな感動的な演奏となった。

 曲の終了と共にホール内はかなり盛り上がっていたが、そりゃそうだろう。これはなかなかの名演である。クールとホットの入り交じったここまで深いシベリウスはそうそうない。ヤンセンは万雷の拍手に答えてバッハの無伴奏ソナタをアンコール演奏したが、これもなかなかに情感の深いものであった。

 

 

 後半はルーズ・ランゴーの交響曲。デンマークの1893年生まれの作曲家のようである。初めて聞く曲であるが、いきなりかなり映画音楽のように派手な哀愁を秘めたメロディーが高らかに演奏される。ロマンティックではあるがいささか大仰である感がある。曲はこのメロディーを繰り返しながらうねるように展開する。

 第二楽章はまさに牧歌的なのどかな美しい曲。むしろやけに大仰な第一楽章よりも、この長閑な曲の方が作曲家の本領が出ているのではないかと感じられる。オラモも雄大にゆったりと奏でる。

 第三楽章は第二楽章の延長な情緒を溜めつつも、そこから様々な要素が加わって音楽的に複雑な起伏のある印象。やや捉えどころのなさのようなものも感じさせられるが、オラモはそれをよく整理して聞かせているように感じられる。

 そして第四楽章。低弦に乗せて厳かでやはりやや仰々しい主題が押し出されていくが、曲自体はややゴチャゴチャ気味。冒頭に先ほどの主題の断片が現れて始まる第五楽章はやや重苦しさがある。そこから葛藤しながら盛り上がっていき、紆余曲折を経ながらも最後はバンダも加わっての華々しくも雄大なファンファーレで終了する。

 ルーズ・ランゴーは年代的には20世紀前半に活躍した作曲家と言うことになるのだが、その割にはその技法としてはやや古いものを感じさせる。しかし前衛バリバリの音楽でないことが私にとっては聞きやすさにつながっている。随所に魅力もある作曲家ではあるが、一聴して感じる欠点も多々あるような気がする。特に執拗に同じ旋律を繰り返して大仰な演奏を展開するのは果たしてどうだろうというところはある。公共広告機構ではないが、大げさで紛らわしいところのある音楽である。

 その曲をオラモはうまく整理してまとめていたように思われる。華々しくやるところは華々しく、美しく聞かせるところは美しくとベルリンフィルの特性を使い切っていた感がある。恐らくダラダラやったらとても聞いていられないような曲だと思うのであるが、それを魅力を感じる演奏につなげたのはオラモの技倆だろう。