西宮で4度目の正直ランチ
疲れがあるので翌朝は10時近くまでゴロゴロすると起き出してまずは入浴。変温動物が活動開始のための不可欠の行動である。この風呂のためにこの高級ホテル(新今宮基準)を選んだのだから、最大限有効に活用したい。
体が温まると外出することにする。今日の予定は夜の日本センチュリーのコンサートであるので時間はかなり余裕があるので、美術館を少し回りたい。
しかしその前にまずは昼食である。大谷美術館に向かうついでに西宮のレストランを訪問する。訪問したのはダイニングキノシタ。実はここは以前から訪問しようと何度か訪れたのだが、たまたま臨時休業だったり、渋滞のせいでランチ時間中にたどり着けなかったり、たどり着いたものの車を止めるスペースがなくて断念したりなどで、実のところ今回が4度目の正直である。平日だし、開店直後の11時半に時間を合わせて訪問したら大丈夫だろうとの読みのあってのことである。
店に到着したのはドンピシャで開店準備を始めた時。私がこの日の最初の客である。ランチメニューはいろいろあるが、その中で「ハンバーグとミニ海老フライのランチコース(1480円)」を注文する。
最初にスープ登場。カボチャのスープとのことだが、何やらカボチャ以外の味がすると思ったら海老の出汁を取っている模様。よくあるこってりタイプのカボチャスープと違い、結構サッパリした印象である。
次にサラダ登場。ドレッシングが合っていてなかなかに美味い。
メインのハンバーグは柔らかくて肉汁タップリのもの。ただ私の好みよりはやや柔らかすぎるのと、切ろうとしたら大量の肉汁が溢れるせいでソースが薄まるのが考え物。海老フライはミニと銘打っているにも関わらず十分なサイズでなかなかに美味い。ランチの店として人気が出るだけの実力は持っている。いつも入店できないぐらい客がやって来ていたのも納得は出来る。
昼食を終えると大谷美術館に向かうことにする。車でほんの10分ちょっとである。
「西宮で観る至高の美術 和泉市久保惣記念美術館展」西宮市大谷記念美術館で7/24まで
大谷美術館開館50周年記念及び久保惣記念美術館開館40周年記念とのことで、この機会に両館の館蔵品の交換展を実施とのこと。
久保惣記念美術館の所蔵品から金属工芸品、中国美術、日本美術、浮世絵の4ジャンルのコレクションを展示している。金属工芸品は古代中国の青銅器など。また帯留めのコレクションが豊富であり、工芸としてなかなか面白くはある。
中国美術はいわゆる山水画。精緻な山水画は嫌いではないのだが、正直なところ個性に乏しく、ジャンル全体ではともかくとしてここの作品の魅力はやや薄い感もある。日本美術は大判の屏風が数点だが、それよりも応挙の写生図が展示されていたのが興味深かった。
浮世絵についてはいわゆる超有名作は国芳の「相馬の古内裏」ぐらいか。有名作と言うよりは地味な秀作を集めていた印象。比較的色鮮やかな作品が多かったのは驚いた。
それにしても暑い。少し車を表に置いておくと灼熱地獄になってしまって、エアコンを全開してもなかなか冷えない。車の中はちょっとしたサウナで、おかげで体力の消耗が激しい。実は当初予定では後2カ所ぐらい美術館を回ることを考えていたが、このままだと途中で体力が尽きて倒れそうである。そこまで行かなかったしても、ボーッとして鑑賞に身が入りそうにない。これはさっさと諦めてホテルに引き返すことにする。なおこの日が記録的な真夏日で、各地で熱中症が大量に発生していたのを知ったのは、ホテルに戻ってテレビをつけてからである。
灼熱の中、夕食を摂りに新世界へ
ホテルに引き返すとベッドでグッタリしてしまう。昨晩やや睡眠不足の上に、先程の灼熱地獄巡りの中でどうやら熱中症寸前になっている。困ったことに体は火照っているのに汗が全く出ない。明らかに熱中症の症状である。しばらくそのままベッドの上でグロッキーで1時間ほど寝るとも寝ないともつかない状態で送ることに。
4時頃になるとそろそろ夕食も気になってくるので出かけることにするが、身体の異常な怠さとボンヤリする頭は相変わらず。そこで夕食よりも先に喫茶でクールダウンすることにする。見かけた「喫茶通天閣」に入店。本当は宇治金時ドーピングをしたいところだが、かき氷がメニューにないのでピーチパフェを注文する。
黄桃タップリのパフェは悪くはない。ただ店の選択を間違えた。この界隈には今時にも関わらず喫煙OKの店が多いのだが、この店もそのようで店内が煙草の臭いで吐き気を催しそうになる。仕方ないのでパフェをさっさと掻き込むと退散する。
夕食は軽く寿司で済ませる
さて夕食だが、通常なら串カツってところなんだが、さすがにこの暑さにあたられたのとまだ時間が早めであることで食欲は皆無。そこで軽く腹に入れておこうと「大興寿司」を訪問、寿司を数皿つまむことにする。
とりあえずの夕食を終えるとホテルに帰還。再び暑気あたりでグッタリとしてしまう。しばしそのまま死んだ状態で、再び生き返ったのは6時前である。
いざホールへ
さてホールへの移動だが、車は意外に時間がかかる上にこの時間は渋滞もある。さらには駐車場代も高い上に空いているかは運試し。今日の公演はチケット完売とのことなので、駐車場確保に不安がある。と言うわけでJR環状線で移動することにする。車内はそこそこの混雑なのでほとんど息を止めているような状態。
久しぶりに福島駅から歩くが、「あれ?こんなに遠かったっけ」というのが正直な感想。人間堕落する時はとことん堕落するようである。昔は大阪駅から灼熱地獄の中を汗だくになりながら歩いたというのに。
完売と言うだけあってホール内はほぼ全席が埋まっており、さらに中央通路のところに補助席まで出来ている。大抵ガラガラだった日本センチュリーとは信じがたい光景だが、やはりソリスト人気だろうか。観客の構成をザッと見渡せば、明らかに通常のコンサートよりもいわゆるおばさま方が多い。恐らく牛田ファンと思われる。ちなみに私の目的はカーチュン・ウォン。私が期待する若手指揮者の筆頭存在が彼である。彼が指揮するとオケの音色が華麗に一変するのは今まで何度も経験しており、彼がセンチュリーをどこまでドライブするかに興味があったところ。
日本センチュリー交響楽団 第265回定期演奏会
[指揮]カーチュン・ウォン
[ピアノ]牛田智大
[管弦楽]日本センチュリー交響楽団
ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 op.11
リムスキー=コルサコフ:交響組曲 「シェエラザード」 op.35
ショパンのこの曲はピアノ協奏曲にしてはピアノが入るまでのオケの前奏がかなり長いのであるが、カーチュンはそこでいきなりぶちかます。極めてロマンチックで表情豊かな演奏を繰り広げるのである。日本センチュリーの演奏は、当初はアンサンブルの微妙な乱れを感じさせて不安があったのだが、それは曲が進行するにつれて解消した。非常に表情豊かな演奏を展開する。
それを受けての牛田のピアノなのだが、ここまで背後でロマンティックにやられると大変だぞと思っていたのだが、牛田の演奏もオケに負けないだけの表情豊かでニュアンスが豊富な演奏。また上手い意味での弾き崩しなども行っている。
私はかつて牛田の演奏を数回聞いたことがあるが、最初はまだ少年の頃である。その時にはシッカリしたテクニックには驚いたが、タッチの弱さがいささか気になったのだが、それは既に立派な青年へと成長して体力もついたであろう彼の前には当然のように解消している。ただそうなっても未だに「上手いんだが優等生的で面白くない」という印象は抱いていた。しかし今回の演奏はそのような私の思い込みを打破するものであり、「ああ、彼はこんな演奏も身につけたんだ」と感心した次第。
ショパンのこの曲は、曲の構成自体にはやや難があることが指摘されていることから、いわゆる棒演奏だととことんまでつまらなくなる。そんな懸念を払拭するロマンティックで見事な演奏に元々牛田ファンの多い場内は大興奮であり、結局彼はアンコールを2曲演奏した。
後半はカーチュンによるシェエラザード。場内のおばさま方の多くは今日の目的はもう終わりと言うところだろうが、私の本命はむしろこちらである。
演奏はいきなり心の中で「おおっ」という声が出たぐらいのかなり情熱的なのもの。今日のカーチュンはいつもにも増して派手な演奏をしているなという印象を一曲目から受けていたが、まさにその通りの演奏が炸裂する。
センチュリーの演奏もカーチュンの細かい指示に応えて整然と力強く反応する。正直なところ「センチュリーってこんな華麗な音色出してたっけ」と感心するような内容。非常にピリリと引き締まった音色を展開している。オケ内での各楽器のバランスとかまでカーチュンが計算しているのは明らかであり、細かい点でいろいろと手を加えているのが感じられた。
カーチュンの指揮は動と静の対比が明快で、コンマスによる繊細なソロとダイナミックなオケの演奏との変化が非常に際立つ。それ故にガンガンとこちらに迫ってくるような実に印象に残る演奏である。リムスキー=コルサコフの名人芸とも言われる華麗なるオーケストレーションの世界が遺憾なく発揮されている。
まさに圧巻の演奏であった。この曲でこちらにここまでヒシヒシと迫ってくる名演というのは、札響でのエリシュカのラストコンサート以来である。演奏終了後に思わずため息が出てしまった。牛田目的のおばさま方が中心の場内でも、演奏終了後に爆発的に盛り上がったのもさりなん。
財務状況が悪くてもう倒産カウントダウンが入っているとか、とかく良くない噂の多いのが日本センチュリーである。最近はまさそれを反映してか、今ひとつ演奏の方も冴えない印象が多くなっていたのだが、それを吹き飛ばすような名演であった。この辺りはさすがにカーチュン・ウォンと言うべきだろうか。やはりこの男はただ者ではない。
満足してホールを後にするとホテルに戻る。入浴で汗を流してサッパリすると、帰りに買い込んだ夜食のサラダとサンドイッチを腹に入れ、さあこれから原稿の執筆・・・と思ったのだが、昼間の熱中症のダメージなど諸々が体に積もっていて、体も重ければ頭も完全に活動を停止している。これでは埒があかないので早々と就寝してしまう。
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