徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

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アニメ関係の記事は新設した「白鷺館アニメ棟」に移行します。

白鷺館アニメ棟

鈴木優人指揮の読響の第九は圧巻だった

昨年の悪夢を繰り返さないために早めに出発する

 今日は大阪まで読響の大阪公演を聴きに行くことにした。プログラムは12月のお約束として第九。指揮はコロナ以降八面六臂の大活躍をしている鈴木優人である。果たしてどのような演奏を繰り広げるか興味深いところ。

 午後の仕事をいつもより早く終えると早めに大阪に向かう。意味もなく道路が混雑するのがこの時期、昨年の読響の第九は途中の異常な渋滞で遅刻してしまい、アクセルロッドの第九の第一楽章を聴けないという非常に悔しい思いをしたことが記憶に生々しい。その轍を二度と踏まないためにかなり早めに今回は出発している。

 結果としては早く出発した分、早く到着しすぎるということになってしまったのであるが・・・。もっとも普段なら渋滞など起こらないような場所で何度も渋滞に出くわすという異常事態を体験する羽目になったから、いつもの時間に出発していたら時間内にたどり着けたという保証は全くない。全くこの阪神高速の渋滞だけはどうにかならないものか。

 駐車場は既に予約してあるが、予約の時間までかなりあるので、結局はホール近くで車を停めて車内でしばし録画番組鑑賞会ということに・・・何やってんだか。

 番組を2本ほど見たところでようやく予約時間になったので車を駐車場に置きにいく。もう既に辺りは真っ暗になっている。

夜のフェスティバルホール

 本来ならホールに入場前に夕食をというところだが、今日はどうも腹が減っていない。たださすがに何も腹に入れていないとガス欠になりそうなので、ファミマに立ち寄って菓子パンを1つ購入すると、それを腹に入れておく。

フェスティバルホールの赤絨毯には大勢の客が

 ホールに到着した時には大勢の客がゾロゾロと入場中。かなり大勢やってきている模様。場内もほぼ満席に近い大盛況である。

場内もほぼ満席

 

 

読売日本交響楽団 第34回大阪定期演奏会

指揮/鈴木優人(指揮者/クリエイティヴ・パートナー)
ソプラノ/キャロリン・サンプソン
メゾ・ソプラノ/オリヴィア・フェアミューレン
テノール/櫻田亮
バス/クリスティアン・イムラー
合唱/新国立劇場合唱団

曲目/ベートーヴェン:交響曲 第9番「合唱付き」

 鈴木優人の指揮はかなりダイナミックな情熱的なものであるが、それに応える読響も実にすごい音を出す。その音楽は硬軟自在というか起伏も大きく非常にダイナミックなものである。また第一楽章及び第二楽章は弦楽陣はいわゆるノンビブのピリオド演奏なのであるが、それでも音色が豊かで音楽がやせないのが流石に読響である。鈴木の統率の元で実にドラマチックな音楽が繰り広げられる。もういきなり第一楽章からその怒濤のような音楽に完全に飲まれてしまう。先の関西フィルのどうにも的外れな第九が思い出されて、思わず「そうだよな、これが正しい第九の第一楽章だよな」と頷くことしきり。まさに人間ベートーヴェンが逆巻く運命に抗っているかのような強烈さである。

 第二楽章のスケルッツオもノンビブのややあっさり目の音色なのだが、それにも関わらす音楽は極めて豊かである。第一楽章と同様に実に音楽が鮮烈であり、思わず巻き込まれてしまうような感じがある。第九は第四楽章だけのように考えている者の場合、前の3つの楽章で退屈してしまうことが往々にしてあると言うが(私もクラシック歴の浅い頃は恥ずかしながらその傾向があった)、そんな隙を与えないかのような密度の高い音楽である。

 第三楽章は一転して濃厚に弦が歌う。ここで鈴木はノンビブをやめてビブラートを効かせた弦楽陣で非常に美しい旋律を聴かせる。どうやら単にピリオドに固執する気はなく、その場その場で音楽に合わせて使い分けるという柔軟さを持っているようである。実際にこの楽章の場合はこのアプローチが明らかに正解である。情感タップリの音楽が心に染みいる。

 さていよいよ第四楽章。最初はオケのみがステージにいたので、第二楽章終了時に入場させるのかと思っていたらその様子がないので、最近には比較的少なくなった第三楽章後の入場かと思っていたら、しばらく休止の後にそのまま第四楽章を始めてしまうから驚いた。結局は序盤のオケセクションはそのまま合唱なしでドラマチックな演奏を繰り広げ、合唱セクションの前の音楽が盛上がったところで合唱隊が両側からササッと入場し、さらにソリスト達は出番直前になって入場してくるというパターンを取る。これは流石に初めて見たパターンだから驚いた。合唱にプロを起用して、合唱隊の人数もその分少なめであるから取れた方法であるとも言える。

 そしてこの合唱団が流石に上手い。やはりアマチュア合唱団とは声量から質までまるで違う。さらにはその威力を最大限に引き出しているのがやはり鈴木の指揮。音楽的効果まで計算して、バランスなどを設計しているのがよく覗える。第四楽章はさまざまな音楽が錯綜するのであるが、それらがかき消されたり埋もれたりしないように見事にバランスを取っている。その指揮は極めて情熱的でありながら、精緻に計算されたものであることが良く分かる。

 結論からいえば、最後の最後まで圧巻だったとしか言いようがない。正直なところ第九でこれだけ掴まれる演奏を聞いたのは初めてだと言える。演奏終了後の場内の拍手もかなり爆発的だったが、そりゃそうだろうというのが正直な感想。鈴木優人、侮り難し。