徒然草枕

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2022年度クラシックライブベスト5

 さて年末恒例企画の年間ベストライブ。昨年まではコロナの影響でほとんどライブに行けなかったことからかなり無理矢理チョイスになってましたが、今年は以前ほどではないまでもそれなりのライブを体験できたので、ようやく通常の形式に戻すことにします。例によってまずはベストライブ5から。なおあくまで私の独断と趣味に基づいたチョイスですので、異論反論は多いにあるでしょうが、そこはお許しを。

 

 

ベストライブ

第5位
ジョン・アクセルロッド指揮 京都市交響楽団

 「復活」におけるやや抑え目に始まる第一楽章から、最終盤に向けて徐々に音楽を盛り上げていって、最後にクライマックスを持っていくという全体を通じての設計が実に見事。第一楽章を聞いた時点ではいささか不完全燃焼感があったのが、全曲が終わった時の見事なまでの感動に置き換えられてしまった。アクセルロッドは京都市響とこれまでも数々の名演を披露しているが、特に「復活」のこの見事な全体構成は圧巻であった。

 

第4位
アンドリュー・マンゼ指揮 NDR北ドイツ放送フィルハーモニー交響楽団

 若いドイツオケであるNDR北ドイツ放送フィルハーモニー交響楽団を、率いるマンゼは熱血ハゲ親父と言うべき躍動感溢れる指揮。この指揮の元に、オケは若さ溢れる、それでいてドッシリと安定感のある名演を繰り広げた。パワー溢れるエグモントに躍動感のある「英雄」は実に見事、またソリストにオピッツを迎えての堂々たる「皇帝」も印象深い。

 

第3位
シャルル・デュトワ指揮 大阪フィルハーモニー管弦楽団

 3年前に大フィルを率いて圧巻の「サロメ」を演奏したデュトワが、コロナによる2回のキャンセルを経て復活した。前回には大フィルのサウンドを一変させてくれたが、今回もデュトワが振るだけで大フィルが信じられないような艶っぽい演奏を繰り広げた。第一曲目のやけに色っぽいハイドンはいささか笑いが出そうになったが、ラストの「ペトルーシュカ」はもう圧倒されるまでのデュトワマジック炸裂。煌びやかにして鮮やかな演奏はいかにも忘れがたい。

 

第2位
クラウス・マケラ指揮 パリ管弦楽団

 ゴージャスなパリ管サウンドを自在にコントロールするマケラの達者ぶりが光ったライブ。序盤はあえて抑え気味に、後半に向けて盛上がる構成をしていたのは実に巧み。ラストの「春の祭典」はまさに見事としか言いようのない演奏。あのヒョロイ身体のマケラのどこからそんなパワーが溢れるのかと驚かされる熱演。またいくら煽っても決して雑にはならず、艶やかさを失わないパリ管は流石。

 

第1位
サー・サイモン・ラトル指揮 ロンドン交響楽団

 流石にロンドン響サウンドはもうその音色で魅了してくれる。それを十分に活かした上でスケールの大きなブルックナーを聞かせてくれたラトルは見事である。巨匠の域に踏み込んだベテランの技。とにかく決してブルックナーが得意ではない私を納得させて心酔させ、最後まで陶然とさせる名演奏であった。相変わらず「ロンドン交響楽団にハズレなし」である。

 

番外
METライブビューイング ケルビーノ「メデア」

 音楽は素晴らしいが、演じられる歌手が存在しないと言われていたメデアが、ソンドラ・ラドヴァノフスキーという最強の演者を得て、METで満を持しての初上演という触れ込みの問題作。しかしその前宣伝が過剰とは思えないだけの圧倒的な内容で、最後まで息をもつかせぬ舞台であった。今まで多くこのシリーズを視聴してきたが、ここまで魅了されたのは初めて。

 

 

ワーストライブ

 本年も多くの名演があったが、その影で数々のライブの中には私が首をかしげるようなものも。そのようなライブをリストアップ。

第3位
ユルゲン・ヴォルフ指揮 関西フィルハーモニー管弦楽団

 かなり個性的な高速第九だが、煽りすぎてガチャガチャしたいかにも落ち着きのない演奏となってしまい、関西フィルの持ち味が全く発揮されなかったと感じた。やけに耳障りで情緒に欠ける演奏という印象だけが残った。

 

第2位
ロバート・トレヴィーノ指揮 大阪フィルハーモニー管弦楽団

 ブラームスの2番は今まで何回かいろいろな組み合わせで聴いたが、ここまで心に響いてこなかった演奏は初めて。ゆったり謳わせているのであるが、それが単にテンポが遅いだけで全く心に届かない、入ってこない。元々アッサリ目の大フィルサウンドをさらに素っ気なくした印象で、出汁の入っていないおすましのような感覚で極めて物足りない。

 

第1位
アンドリス・ネルソンス指揮 ボストン交響楽団

 これは賛否両論が明らかに分かれそう(というか、お前の耳は聞こえているのかという批判がありそうだが)。確かにボストン交響楽団の技倆は圧倒的で、そのサウンドは実に見事だったのだが、ネルソンスがそこから引き出した音楽はあまりにアッサリしていて、どうにも物足りない。特に苦悩の影が微塵もないショスタコーヴィチは違和感全開であり、最後まで肩透かし感を否定できなかった。恐らくプログラムがショスタコでなければ評価も一変した可能性があるが。

 

 

総評

 今年はそろそろ外来オケの来日公演も復活してきて、ベストに3つ、ワーストに1つが入ることになった。来年度はさらに増加しそうだが、懸念はアベノミクスの当然予想された副作用による円大暴落によるチケットの急騰と、政府の「自分達の利権のために庶民からは徹底搾取」政策による貧困化のダブルパンチ。私もその直撃で、老後の不安の中(というか、このまま行けば野垂れ死にほぼ確定)で、行きたいからとチケットを押さえまくるということは不可能であり、必然的に行動は抑制されるだろうと言うこと。本年度もベルリン国立歌劇場については、バレンボイムもその代演となったティーレマンも目下の私の評価がそれほど高くないのと、何よりもチケットが高価すぎることで見送った。

 というように、今後に不安が過ぎるところであるがとりあえず本年度について振り返ると、まずはロンドン響とパリ管が圧倒的であった。特にパリ管を見事にコントロールするマケラの若き才能には圧倒されたところ。さらにやはりロンドン響サウンドには完全に魅了された。「ハズレなし」のロンドン交響楽団が今後もその記録を更新していくかも興味深くはある。そして3位はやはり大フィルサウンドを一変させるデュトワ。あの淡泊な大フィルからあれだけの艶っぽいサウンドを引き出すのには驚いた。4位のNDR北ドイツ放送フィルハーモニー交響楽団はまさに予想外のめっけものというところで、良い意味での予想外れである。5位は昨年にも安定した名演を披露してくれたアクセルロッドと京都市響の組み合わせを。

 なお残念ながら圏外だが、ここのところ低迷久しい感があった日本センチュリーがカーチュンの指揮の下で名演を聴かせたのも印象深い。久石指揮のライブも反響は上々で、ようやくセンチュリー復活の目が出てきたかと期待させる。なお近いところで、スラットキン指揮のN響の名演も印象深かった。

 一方のワーストの方だが、ここではあえてネルソンス指揮のボストン交響楽団を挙げることにした。ボストン交響楽団のサウンドは見事の一言で、それを率いるネルソンスの統率も実に完璧であり、そういう演奏面での不満は一切ないのだが、それだけに「これがショスタコか?」という違和感は逆に大きくなって、最後までそれを埋めることが出来なかった。これは私とネルソンスの志向の違いと言えそうである。2位のトレヴィーノ、3位のヴォルフについても、恐らく私との志向の違いなのであろうが、とにかく私としては「響いてこなかった」ということを否定できず、こういう形の評価にならざるを得ない。

 

 

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