徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

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白鷺館アニメ棟

中之島の美術館をハシゴしてから、N響の公演で服部百音と井上道義による圧巻の演奏

N響のコンサートのために大阪へ

 この日曜日はNHK交響楽団のコンサートのために大阪に出向くことにした。しかし正直なところ体調は最悪。本音は家でゴロゴロと一日転がっていたいところだが、チケットを既に確保済みなのでやむなく大阪まで移動する。

 大阪には昼頃に到着。まずは昼食を摂る必要がある。と言っても思い当たる店はなし。エキマルシェ内の店は高いだけでピンとこないし、食欲も今ひとつ湧かない。結局は近くのビルの地下をうろついていて目についた「博多華味鳥」に入店。

博多華味鳥

 注文したのは「カンパチ丼の御膳(1300円)」。まあ場所柄を考えると悪くもないんだろうが、特別に良くもない。まあこんなものかなというのが本音。

カンパチ丼の御膳

 今日のコンサートはフェスティバルホールで16時から(以前よりなぜかN響は昼のコンサートの開演が14時や15時でなく16時と少し遅め)。なのでそれまでの予定は一応は考えてある。ホール最寄りの肥後橋まで移動すると、この近くの美術館巡りをする予定。まずは中之島キューブこと中之島美術館へ。ここの展覧会のチケットはオンライン前売り券を事前に購入済み。金欠著しい昨今は、少しでも支出を減らすべく涙ぐましい努力中である。

中之島美術館へ

 

 

「開創1150年記念 醍醐寺 国宝展」中之島美術館で8/25まで

 理源大師聖宝が平安時代初期(874年)に開創した醍醐寺は、真言密教の拠点として多くの信仰を集めてきた。寺院は山上の上醍醐と山裾の下醍醐の二つの伽藍に分かれており、そのおかげで下醍醐が戦乱で火災などに遭っても、山寺である上醍醐で多くの宝物などが守られてきたという。そのような伝統ある醍醐寺が収蔵する国宝や重要文化財を展示するとのこと。

 とは言うものの、信仰心皆無(というよりも宗教を敵視している)私にとっては、いわゆる信仰対象としての寺院には全く興味はなく、あくまで美術品視点での見方になる。そうなった場合、興味の対象は自然に絵画か彫刻としての仏像に対するものに限定されてくる。

 そう言った場合、曼荼羅などの作品は面白さは感じるものの長年の劣化が激しいせいで、目を凝らさないと何を描いているかが分からない状態と言うことで、正直なところ見ていてしんどい。やっぱり一番の見所は仏像になる。

 彫刻としてみた場合に面白い仏像は、帝釈天騎象像などの象や牛などに乗った仏像の類い。仏像の力強さもさることながら、牛の造形などがなかなかに興味深い。また看板などに使用されている如意輪観音坐像は平安期の作品だが、その質感などにはなかなかに興味深いところがある。

 個人的には一番興味が湧いたのは重要文化財の不動明王坐像だろうか。快慶作(恐らく快慶の工房の作品)らしく、運慶の作品ほどの破天荒なパワーはないが、端正に整えた中に漲る力が感じられて、その辺りは鎌倉仏像の傑作である。

 なお最終コーナーに近代の修復の時に描かれたという山口雪渓の桜図屏風(江戸時代)や堂本印象による「桜花と杉樹」(昭和初期)、岸田夏子による「醍醐寺の春」(平成)などが展示されており、美術ファンとしては実はこれが一番面白かったか。

 

 

 途中のロビーでARで初音ミクが桜踊りをするとかいう企画があったのだが、QRコードで接続してみてもサーバが過負荷なのか、私の旧型iPhoneが性能不足なのか、通信環境が悪いのかは不明であるが、うんともすんとも言わなかったのでこれは諦める。まあ別に初音ミクは好きでもないし。

正直、どうでも良い

 現在中之島美術館では醍醐寺展以外にも「没後30年 木下佳通代展」を開催中であるが、ザッと調べたところどう考えても私が興味持てそうなタイプの作家でないことから、単なる金の無駄に終わる可能性が高いと考えて省くことにする。以前なら面白なさそうに感じる現代作家の展覧会でも、見聞を広げるために見学をし、そんな中で新たな発見もあったりしたのだが、現状の貧困下ではそんな余裕はなし。つくづく貧困とは学問や教養の敵である。

現在の出し物

 展覧会の見学を終えたが、まだ開場までに2時間近くの時間がある。そこでさらにハシゴをすることにする。次に立ち寄ったのは先程の美術館と混同されやすい中之島香雪美術館。この美術館には珍しく「印象派」というキャッチーなタイトルを冠した展覧会である(この美術館は収蔵品の関係で茶道具の展覧会の類いが多い)。「エジプト、浮世絵、印象派」の法則に則り、先の浮世絵展に続いて混雑の可能性がある展覧会のためか、券売ゲートを館外に設置して行列案内用の設備まで用意してあるが、幸いにも今日は特に問題なく入場は非常にスムーズである。

 

 

「珠玉の西洋絵画:モネ・ルノワール・ピカソ-和泉市久保惣記念美術館所蔵品展-」中之島香雪美術館で9/8まで

 和泉市の久保惣記念美術館所蔵の印象派絵画を展示した展覧会とのこと。確か大分昔に久保惣記念美術館は訪問した記憶はあるが、小規模の美術館の割にはモネの秀品を所蔵していたのが記憶にある。

 本展でも展示点数は決して多くはないのだが、ミレー、コローから始まってゴッホ、モネ、ルノワール、ドガ、さらには近代のロートレック、藤田、シャガールなどそうそうたるメンバーの作品が展示されている。

 その中でも白眉はやはりモネの睡蓮とルノワールの「花飾りの女」だろう。どちらもいかにもという彼らの代表作である。モネの睡蓮は地味で落ち着いたトーンの中で渋く光が煌めき、ルノワールはいかにものふんわりとした女性像で美しい。

 ゴッホやピカソなどもあるが、ゴッホについては晩年の色が渦巻くいかにもの作品ではなく、初期の地味な農村画を描いていた頃の作品なので、いささかインパクトに欠ける。またピカソについてはいかにもキュビズムバリバリという雰囲気の作品とは若干異なるのでこれも今ひとつピカソらしくない。

 これ以外では近代のシャガールのいかにも彼らしい鮮やかな色彩の絵画が印象に残る。さらには好き嫌いは分かれそうだが、マティスのジャズやジョアン・ミロ(会場ではなぜかホワン・ミロと表記)の作品などが展示されており、いかにも近現代な作品も味わえるようになっている。

 展示点数が多くないので、サクッと見渡せる印象の展覧会。その割には展示品のレベルがまずまずなのでなかなか楽しめる。

 

 

 これで展覧会の予定は終了だが、まだ開場まで30分以上ある。先程からじわじわと蒸し暑さに体力を削られており、ボーッとどこかに立って時間を待つ体力的余裕がない。仕方ないのでフェスティバルゲート地下のPRONTに入ってアイスコーヒーを頂きながら時間をつぶすことにする。

PRONTでアイスコーヒーとワッフルで一服

 時間が来たところでホールに入場。N響はチケットが高いので金欠の私は久しぶりに3階席である。相変わらずこのホールの3階席の急傾斜は高所恐怖症の人間の恐怖感を掻き立てる構造になっている。しかも朝からの体調不良でいささかめまいがあって足下が怪しいので、怖さは倍増である。

 なお流石にN響人気(+井上人気と服部人気)で、場内は見渡す限りほぼ満席に近いと思われる。一階席なんか最前列からビッシリと埋まっている(三階からは一階後部席は見えないが)。

 

 

NHK交響楽団大阪公演

三階席はやっぱり高い

指揮:井上道義
NHK交響楽団
ヴァイオリン:服部百音

ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調 作品77
ロッシーニ:歌劇「ブルスキーノ氏」序曲
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第2番 嬰ハ短調 作品129

 ラストイヤーということで獅子奮迅の活躍中の井上道義がN響を率い、近年進境著しい若手ヴァイオリニストの服部百音をソリストに迎えての協奏曲中心のコンサート。大量に次々と出てくるヴィジュアル系若手女性ヴァイオリニストとは一線を画して、その圧倒的な実力で日本ヴァイオリニスト界の第一人者の一角に割り込んで来つつある服部がどのような演奏を聴かせるか。

 一曲目はかなり重苦しい印象で始まる曲だが、服部の力強い音色はいきなり観客を鷲掴みにするパワーがある。力強いが荒っぽくはなく音色が深い。いかにもショスタコらしい乱痴気騒ぎの第二楽章ではまさに獅子奮迅のテクニックで暴れ回り、静かな第三楽章ではじっくりと聞かせる。

 そして最終楽章では圧巻の表現力とテクニックを披露。さすがに若手の実力者筆頭候補だけあって圧倒的な演奏であり、場内も爆発的な盛り上がりをする。またバックのオケは井上の指揮の下で鉄壁の安定感であり、その辺りはさすがにN響。

 今回のN響は14型の2管編成で金管レス(ホルンは入っているが)というやや変わった構成になっているのだが、その構成で後半の一曲目はロッシーニというこれまた変わり種。井上によるとショスタコは無い物ねだりでロッシーニの軽妙さに憧れていたとか。この曲はそのまさにロッシーニの軽妙さそのものの曲。途中で弦楽陣が弓で楽譜台を叩いて音を出すという珍妙な曲。なお井上がこの曲を選んだのは、次の第2番と主旋律が似ているからとのことであったが・・・。ちなみにこの曲では久しぶりに井上の全開タコ踊りが披露された次第。

 後半のメインのショスタコの2番は1番に輪をかけて聴くのも弾くのも難しい曲。下手すればわけの分からないまま退屈な曲になりかねないところだが、やはりここでも服部の圧倒的な表現力が観客を惹きつける。

 終盤の盛上がったところで服部の楽器にトラブルが発生したようで、演奏が一時停止してしまうなどという事故も発生したのであるが、それでも集中力が切れることもなく、圧倒的な演奏で最後までねじ伏せたというところ。

 なお余談であるが、井上が言っていた「ロッシーニがショスタコの2番と主旋律が似ている」という部分は、どちらの曲も今回初めて聴いた私には全く分からなかった。ショスタコの交響曲(何番かは忘れた)と同じような独得の節回しがあったのは分かったが。

 

 

 終演後は服部は「すみません」という感じで頭を下げていたが、観客はそんな事故なんかなかったかのように大盛り上がり。場内はかなり熱狂の渦に巻き込まれた。

終演後の服部と井上

なんか非常に盛り上がっている

 あまりの熱狂ぶりに「これはこのまま終われないぞ」という感じが漂っていたが、明かりがついて楽団員が引き上げても拍手は止まず。結局は服部が再度登場して挨拶することに。しかしそれでも収拾がつかず、結局は井上も引っ張り出されることになったのであった。

服部の一般参賀

結局は井上も引っ張り出される

 観客の熱狂ぶりがすごかったが、実際に服部の熱の入った演奏には観客を熱狂させるだけのものがあることが感じられた。これは服部が若手実力派ヴァイオリニストという括りでなく、日本を代表するヴァイオリニストと一般に言われるようになるのは時間の問題というように確信したのである。

 先日の大フィルのコンサートで圧倒的なパフォーマンスを披露した金川真弓といい、日本の若手ヴァイオリニストがすごいことになってきていることを感じさせられた次第である。若い才能の登場には大いに期待したい。