徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

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白鷺館アニメ棟

ポリャンスキー指揮のロシア国立交響楽団は想像外のとんでもない演奏だった

今日は色物コンサートの予定

 翌日はライブしか予定が入っていなかったので目覚ましは8時設定だったのだが、7時半頃に勝手に目が覚める。悲しきサラリーマンの習性である。とりあえずシャワーで目を覚まし、しばらくしてから朝食に行く。

 その後は部屋でチェックアウト時刻ギリギリの11時前まゴロゴロと過ごす。急いでチェックアウトしたところで予定もないし、熱中症警報が出ている町中をウロウロする気もしない。

 地下鉄で大阪まで移動すると昼食を摂る店を物色する。最初は阪急百貨店に入ったが、どの店も異常な行列。アホらしくなって場所を変更、阪急32番街をうろつく。そこで目に付いた店「IL CAPONE」に入店、サーロインステーキのセットを注文する。

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IL CAPONE

 やや歯ごたえのある牛肉はオージーだろうか。まあ可もなく不可もなくというところである。ところでこの店名は何なんだろう? 帰ってから調べたところによると「イル・カポン」だそうな。「アルカポネ」かと思ってビビった(笑)。

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ハムのサラダに

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ステーキ

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焼き方はミディアムで

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このパインアイスが意外に美味かった

 

 

さらにお茶をする

 昼食を終えたところで12時過ぎ。灼熱地獄の中に再び繰り出す前の体の冷却と時間つぶしのために喫茶に立ち寄ることにする。入店したのは1階上の「英國屋」。夏の定番である「宇治金時」で抹茶ドーピング。高層ビルから大阪の町並みを見下ろしながらマッタリする。

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英國屋に入店

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宇治金時ドーピングを行う

 ようやく体が冷えて人心地付いたところで町中へ繰り出す。ここのところほぼ毎週のように通っている通い慣れたる道である。

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ビルから眺める大阪の街

 さて今日のコンサートはザ・シンフォニーホールで開催されるロシア国立交響楽団の演奏会。それがチャイコフスキーの交響曲第4番から6番までを一気に演奏するという、意欲的というか無茶と言った方がよいプログラム。世間では無理ゲーなどとさえ言われている。指揮者のポリャンスキーは今一つ知名度はないし、オケの方も今一つ正体の分からないオケ。これは三曲目にもなると金管がヘロヘロで弦がヨタヨタとか、かなりとんでもないことになるのではないかということが予想でき、冷やかし半分である。しかしこの後、想像を遙かに凌駕するとんでもないものを聴かされることになるのである。

 

 

ロシア国立交響楽団

[指揮]ヴァレリー・ポリャンスキー

チャイコフスキー:交響曲 第4番 ヘ短調 op.36
チャイコフスキー:交響曲 第5番 ホ短調 op.64
チャイコフスキー:交響曲 第6番 ロ短調 「悲愴」 op.74

 いきなり交響曲第4番の1楽章から驚いた。もの凄いテンションで演奏を始めたのである。しかもポリャンスキーの指揮はテンポを非常にダイナミックに変える。とんでもない爆速で走り出すかと思えば、一気にテンポを落としてタップリと聴かせる。オケもその変化にしっかりと追随する。これはこのオケがこの曲に熟達しているから可能な技だろうか。ポリャンスキーは大きな体をダイナミックに動かし、足音は鳴らすわ、挙げ句がジャンプはするわとかなり激しい動きである。結局はそのまま最後までダイナミックかつエキサイティングでスリリングなまま一曲が終了。場内は割れんばかりの拍手だが、これで以降でテンションが続くのかと心配になる。

 20分の休憩後の5番は穏やかに始まる。さすがに今度は流してくるかと思っていたら、とことんタップリと謡わせるのである。二楽章の盛り上がりなど心を打つし、最終楽章の最後の主題など運命に打ち勝った人生の賛歌を堂々と歌い上げるイメージで思わず涙が出そうになる。そしてそのまま怒濤のようにフィナーレ。一曲目とは全く違う趣向で完全に魅せられてしまった。

 そして15分の休憩後に最後の「悲愴」。これはもう冒頭からテンションが並々ならぬ。ピンと張りつめた空気の中で会場中が息を飲んでいる雰囲気である。私は今まで「悲愴」は何回か聴いているが、ここまで美しくここまで痛々しい曲だったとは初めて認識した。密度の高い弦が切々と鳴らす悲哀に満ちた旋律。最後のまさに消え入るような終わりまで息もつかせぬような緊張感であった。

 大曲3曲連続演奏というとんでもないハードな内容にも関わらず、最後まで密度の高い弦楽のアンサンブルは揺るぎなかったし、迫力のある金管にもヘタリの影さえ見えなかった。しかもこの間、指揮者のポリャンスキーは激しく動きまくり。オケも指揮者も技術の高さだけでなく、底なしの体力である。

 

 「悲愴」の場合、よく3楽章終了後に拍手が起こったり、4楽章終了後の拍手がフライングになったりなどということが問題になるのだが、会場中がポリャンスキーに完全に飲まれたという感じで、4楽章終了後にはフライング拍手どころか会場中がポリャンスキーと一緒に凍り付いてしまった印象。数秒後にポリャンスキーが動き出した途端に硬直が解けたようにパラパラと拍手が始まり、それがやがて万雷の喝采に。ポリャンスキーは一端振り返りもせずに真っ直ぐに舞台脇に引っ込んでから、再び万雷の拍手の中に現れる。すると今度はポリャンスキーが何度引っ込んでも拍手が終わらない。コンマスは半ば当惑したように、楽譜を閉じて「アンコールはない」ということを暗に示すのだが、観客はそんなものは分かっているというかどうでも良く、ひたすらにポリャンスキーとオケの熱演を賞賛する拍手を続けている。しかもこの頃になると場内のかなりの多くが両手を頭の上に上げての拍手になっている。起立することがほとんどなく、むしろマナー違反であると考えられている日本では、これは事実上の場内総立ちに近い。この熱狂的な拍手は、半ば強引に団員が引き上げるまで続いたのである。   

 

 予想とは全く正反対の方向で、けた違いのとんでもないものを聴かされることになったというのが今回。無理ゲーだと思っていたら、三連続ハイスコアで決められてしまった。帰り道も興奮冷めやらぬという体の観客は少なくなかった。

 それにしても芸術性云々を抜きにしたとしても、あの三曲を完全に演奏しきるロシア人の体力は恐るべしと言うところか。これはこんな連中と戦争しても勝ち目ないわ(笑)。日露戦争が引き分けに持ち込むのが精一杯だったのが今更ながら納得できる。恐るべし、ロシア。

 この週末は結果としてライブ三連荘と相成った次第。振り返ってみるとN響が一番レベルが低く思えてしまった。もう少し本気出せよ。