徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

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アニメ関係の記事は新設した「白鷺館アニメ棟」に移行します。

白鷺館アニメ棟

METライブビューイングでヴェルディの「ナブッコ」鑑賞後、堺のミュシャ館を訪問

朝食は近くの人気の喫茶店へ

 翌日は7時半頃に目覚ましで目が覚める。昨晩はややうるさい部屋なんかもあったが、そこは安宿に宿泊する時に不可欠な「適度な無神経」スキル(さらに老化に伴う聴力低下もある)とこの宿の標準装備である耳栓で切り抜けて概ね爆睡している。

 爆睡が効いたのか眠気はほぼなくなり、体もやや軽い。年中体調不良の私としては比較的良い体調と言えるだろう。こういう時は朝食のために近くの喫茶に繰り出すことにする。

 立ち寄ったのは「カフェ・ド・イズミ」。実は前回立ち寄ろうとして満席で入店できなかった店である。この店は数年前にも訪問しているのだが、その後どうしたわけかGoogleマップでの評価が異常に跳ね上がって、いかにもの観光客が殺到するようになった模様。

カフェ・ド・イズミ

 私は開店の数分前を目指して出向いたが、既にいかにもの待ち客の姿も。とりあえず開店同時に入店するが数分で満席になる。

 

 

 老夫婦で切り盛りしている店のようだが、ドリンクメニューもパンメニューも豊富なのでまあそれなりに人気も出るのは分からないでもないが、Googleマップでの評価はやや過剰な気もする。以前からあれは、評価が上がりだしたらそれに迎合する評価が増えて、結果として評価が極端になる傾向はある。

塩チキンサンドとマイルドコーヒー

サンドは十分なボリューム

 私が注文したのは「塩チキンサンドとマイルドコーヒーのセット」。コーヒーはサッパリしていてミルクなどは置いていないにもかかわらず、私でも砂糖を加えただけで普通に飲めるもの。私には最適だが、もっと本格的なコーヒーにこだわる客はブレンドなど他のコーヒーを注文した方が良いだろう。なおチキンサンドは味もボリュームも十分。これで530円なんだから、まあ評価が上がるのは分かるが、この界隈で傑出しているかといえば微妙だろう。にわか客が急増したせいで、昔からの常連客が立ち寄りにくくなっている雰囲気があるようで、その辺りはネット時代特有の弊害もあり。とは言うものの、立場的には私もそういうミーハーと同じようなものなので、あまり偉そうに言えたもんでもないが。

 朝食を終えるとホテルに戻ってしばしマッタリする。今日はMETのライブビューイングに行く予定だが、それが11時から。まだ時間が半端である。結局は10時頃まで時間をつぶしてからチェックアウトする。

 METライブビューイングは大阪ステーションシティシネマで。シアターに入場すると観客はかなり多い。ザッと見ただけで50人以上はいる。この劇場は元々キノシネマ神戸国際なんかよりは客が多いのは確かだが、これだけの入りは滅多に見たことはない。やはりヴェルディの作品と言うことで人気があるんだろうか。それに「ナブッコ」は私が知っているここ数年では上映されていない作品のはずだ。

 

 

METライブビューイング ヴェルディ「ナブッコ」

指揮:ダニエレ・カッレガーリ
演出:エライジャ・モシンスキー
出演:ジョージ・ギャグニッザ、リュドミラ・モナスティルスカ、マリア・バラコーワ、ソクジョン・ベク、ディミトリ・ベロセルスキー

 ヒット作が出ない上に妻子を亡くし、もうオペラの作曲は辞めようかと考えるところまで追い込まれていたヴェルディの起死回生の初ヒット作が本作であるという。ヴェルディのオペラの初期傑作として挙げられる作品である。

 聖書のエピソードとのことで、どうしてもキリスト教の宣伝色があるので、全ての宗教を否定する立場の私から見たらシナリオ的には所々白ける部分はある。もっとも流石に音楽は立派である。合唱曲が多く歌唱の美しさが際立つ作品であり、後のヴェルディの作風が既に確立している。

 内容はエルサレムを占領したバビロニアの王ナブッコが、神を否定して自らが神と名乗ったことで神の怒りに触れて雷に打たれて錯乱、野心家の娘に王座を奪われるが、正気に戻ってヘブライの神を信じることを決意し(要はキリスト教に転向したわけだが)、再び王座へと返り咲くという話。神の怒りに触れたとか言うのは、要はいかにも血圧高そうなナブッコが脳卒中でも発症したのではとか、キリスト教に転向するのはそのことでキリスト教の神に恐れをなしたか、もしくはバビロニアの神官が娘を担いでクーデターを起こすところまで力を持っていたのでそれを削ごうという考えか、もしくはヘブライ人を支配するにはその方が都合が良いと考えたか辺りではなんていう無粋なツッコミをしたくなるところではある。

 一応は主人公はナブッコであるが、それに負けず劣らずで存在感があるのが、父を排除してクーデターを起こす娘のアビガイッレである。他は主要人物としてはナブッコのもう一人の娘のフェネーナと、彼女と恋に落ちて結果としてはヘブライ人を裏切ったような形になってしまうヘブライの王子のイズマエーレがいる。ヴェルディの後の作品なら、この2人をメインに取り上げた大恋愛悲劇ものなんかになるところだろうが、本作ではこの2人の存在はかなり小さく、先の2人がメインである。

 それだけにナブッコとアビガイッレの歌唱と演技で全てが決まる作品でもある。またこの両者とも非常に感情の振幅が大きいキャラクターなので、それを違和感なく演じきれる演技力と、それを支える歌唱力が重要となる。

 その点ではナブッコのジョージ・ギャグニッザは、この堂々たる転向者を見事に演じきったし、アビガイッレのリュドミラ・モナスティルスカは怪演と言って良い存在感であった。結局はこの両者の好演に引っ張られて、作品全体が非常に締まりのある見所の多い大スペクタクルとなっていた。

 

 

堺市のアルフォンス・ミュシャ館に立ち寄ることにする

 まずまず面白い歴史スペクタクルだったという印象。さてこれで本来の今日の予定は終了なんだが、まだ14時過ぎと早めの時間であることから、帰る前に昨日寝過ごしたせいで消化出来なかった予定の方を実行することにする。それは堺アルフォンス・ミュシャ館の訪問である。動線を考えると昨日に立ち寄った方が効率的であったのだがそこは仕方のないところ。とりあえず阪和線で堺市駅を目指す。

堺市駅にはアルフォンス・ミュシャ館の案内と、
ミュシャ風肖像画が似合いそうな中条あやみ嬢が

 堺市駅までは関空快速で30分ぐらい。堺市駅を降りるとアルフォンス・ミュシャ館の案内が出ているが、その前に遅めの昼食を先に摂ることにする。

 立ち寄ったのは堺市駅東口前の「VIDYA CAFE」。カフェではあるが15時までランチメニューがある。私が店に駆け込んだのそのギリギリ。「トンカツのランチ」を注文し、アイスコーヒーを追加する。

堺市駅東口のカフェ「VIDYA CAFE」

 

 

 ランチのご飯と豚汁はセルフサービスでお代わり自由とのこと。ランチ時間に制限があるのはこのためのようである。トンカツはまずまず。ただ計算違いは昨日に串カツを食べたせいで、連日の脂ものはいささか身体にキツさを感じたこと。どうも私の胃腸もかなり老化してきたようだ。

トンカツはまずまず

 食後にはアイスコーヒーを頂く。このコーヒーについては私の好みよりはいささか苦味が強い。

アイスコーヒーはやや苦め

 昼食を終えるとアルフォンス・ミュシャ館へ。これは堺市駅の西側に陸橋でつながっている。

アルフォンス・ミュシャ館は駅の西側

 

 

「ミュシャとパリの画塾」堺アルフォンス・ミュシャ館で3/31まで

アルフォンス・ミュシャ館

 20世紀初頭のパリ。ミュシャはそこでアカデミズムの巨匠の元で画を学ぶ。そしてその後に画家として活躍をするようになる。そして一時代をなしたミュシャは自ら画塾を開き若き画家たちを指導するようになる。そこには渡欧した日本人画家たちも存在した。そのようなミュシャが受けた教育とミュシャが行った教育について紹介する展覧会。

 観点がなかなか面白い。ミュシャは最初は歴史画家を目指してその分野の巨匠であるジャン=ポール・ローランスの元で画を学んだという。ただいかにもアカデミズムでガチガチのローランスの絵画はミュシャのイメージとは結びつかない。ミュシャはその後、どういう心境の変化があったのかは不明だが、黒田清輝らも指導を受けたラファエル・コランの画塾で学ぶことになるという。コロンの柔らかい人物画は後のミュシャとのイメージとも重なるところもあり、最終的にはこの時点でミュシャの画風は確立したと推測出来る。

ミュシャの友人の自宅暖炉のマントルピースの装飾のためのウミロフ・ミラー

 その後のコーナーにはミュシャの有名な四つの星のポスターが展示されているが、面白いのはその下絵が展示されていること。それを見るとミュシャがどのような表現にこだわったか(特に描線へのこだわりが強い)が分かる仕掛けになっている。なお北極星だけが完成作品とは左右反転状態なのだが、恐らくこれは完成した四作品を並べた時のバランスの関係で反転させたのではと推測出来る。

 次のコーナーが教師となったミュシャの指導に関する内容だが、まずはミュシャによる指南書である「装飾資料集」などが登場する。これはまさにアール・ヌーヴォーの指南書であり「これを参考にすればあなたもミュシャ調のデザインが出来る」というネタ本でもある。

ミュシャの装飾タイル

 ミュシャの指導は特に描線などに対するこだわりがあったようだが、最初の緻密なスケッチから、簡略化を進めて最終的にはステンドグラス向きの絵画にする過程などは非常に興味深かった。デザイン作家としてミュシャの優れた感性を垣間見れる。

 そしてミュシャの指導や影響を受けた日本人画家たちの作品も登場する。中村不折や鹿子木孟郎らの作品が登場。彼らはミュシャから直接の指導を受けて影響を受けた画家であるという。なおミュシャスタイルは当時は日本でも一世を風靡しており、この頃の「明星」なども展示されている

 

 

 展示のメインは4階の方で、3階はミュシャの有名作品のレプリカ展示。

ミュシャの代表的ポスターのレプリカ展示

 この建物全体がミュシャで装飾されており、エレベーター扉までミュシャという風になかなかに雅な施設である。

エレベータ扉もミュシャ

 ちなみにミュシャ作品に登場する美女達と記念写真を撮れるコーナーまで設定されていたが、さすがにこの美しい世界にあえて醜いものを加える気にもなれず、記念写真は遠慮した。

この美しい世界に醜悪な自身の姿など加える気にはならん

 実はこの美術館は数年前にも訪問しているので、昨日寝過ごした時点でもうパスかとも思ったんだが、あえてやって来ただけの価値はあったように思える。今更ミュシャの新しい作品などはないが、ミュシャという画家の成り立ちが理解出来たようにも思える興味深い内容であった。

 これで今回の遠征の予定は完全終了。JRを乗り継いで帰宅と相成ったのである。なお明日は大阪マラソンとかで大阪市内の交通の混乱は必至とのことであり、全く知らなかったのであるがちょうど好都合な日程だったように思える。

 

 

この遠征の前日の記事

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