徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

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白鷺館アニメ棟

びわ湖ホールオペラ「神々の黄昏」のストリーミング配信を見る

苦肉の策の無観客公演

 今日の午後1時からYouTubeで配信されたびわ湖ホールの「神々の黄昏」を見た。午後1時から2回の休憩を挟んで7時前までというなかなかハードな上映である。

 これは本来は今日と明日に上演されるはずの企画でびわ湖ホールが4年がかりで実行したプロジェクトの締めである。しかしここに来て安倍の「コロナ対策やってるふり」のライブ禁止令のせいで上演ができなくなり、無観客上演でライブ配信した次第。やはりこれだけの企画を尻切れトンボにするわけにもいかないからの苦肉の策だろう。

 この企画は大人気で、今回のチケットも完全に売り切れていたらしいから(私もチケットを確保していた)、びわ湖ホールにしたら大損害である(当然のように世の中の大損害に対しては安倍はびた一文保証しないどころか、この期に及んでもまだ自分の利権だけは確保しようとしている)。今回の上演は収録して、後日DVDとして発売するとの事。恐らくライブビューイングもいずれするだろうと予測する。なるべく少しでも回収するべく必死だろう。

 さて配信の方だが、私が見た時に視聴者は1万人以上はいた。びわ湖ホールは2000人弱のホールだから、明らかにチケット購入客以外の多数が注目して配信を見たという事になる。これが今後のファン層の裾野を広げる事に貢献すれば、少しはびわ湖ホールも今回の決断の意味が出るところだろうが、どうなるやら。

 

 

ユーチューブであるが故の限界も

 ただ肝心の配信の方は、YouTubeだけにどうしても画質はかなり悪いし、音の方も悪い。しかも我が家ではPCで視聴するしかないのでさらに画質、音質共にショボくなる。一応、途中で音声が途切れるというような事はほとんどなかったが(終盤で2回ほど音声が一瞬途切れた場面がある)、映像は明らかに一瞬止まった事は多数(止まりこそしないもののブロックノイズは常に)。一応うちは光ケーブルなんだが・・・。

 予想通り映像は引き目の固定カメラでステージ全体を写すというアングル。実際に劇場に見に行っているのと同じような映像で、私的にはMETライブビューイングのような出演者のアップに次々切り替えていく映画的な映像よりも、歌手と音声の位置が合致するので落ち着いて見られた印象。ただやはりロングだけだと細かい部分が見えないので、メイン画面はロングで固定した上で、画面上部にサブ画面を作って出演者のアップも欲しかったと思える。私は以前からMETライブビューイングに関しても、メインロング映像+サブアップ映像の構成にするべきと提案(?)しているのだが、残念ながら未だに採用されない(笑)。

 なおドイツ語上演字幕なしなので、ドイツ語が全く出来ない(大学時代の第二外国語にドイツ語を選択したにもかかわらず)私には内容がチンプンカンプンになってしまう。そこで利用したのがオペラ対訳プロジェクトのページ(https://w.atwiki.jp/oper/)。ここの原詩と訳詞をサブディスプレイに表示させ、歌を追っかけながら読んでいた次第。おかげでメイン画面とサブ画面を行ったり来たりで目は疲れたが、内容はキチンと把握する事が出来た。ちなみに第三幕冒頭にチラッと横に字幕があるのが映ったのだが、字幕表示器を置いた状態で上演してたのか? それだったらもう少しだけ画面を引いたら字幕も写せたのに、なぜかあえてそれを避けたのか? やはり後で発売される「字幕入り」のDVDを売るためか。

 で、とりあえず内容の感想の方を。

 

 

びわ湖ホールプロデュースオペラ ワーグナー「神々の黄昏」

指揮:沼尻竜典
演出:ミヒャエル・ハンペ
美術・衣裳:ヘニング・フォン・ギールケ

ジークフリート:クリスティアン・フランツ
ブリュンヒルデ:ステファニー・ミュター
アルベリヒ:志村文彦
グンター:石野繁生
ハーゲン:妻屋秀和
グートルーネ:安藤赴美子
ワルトラウテ:谷口睦美
ヴォークリンデ:吉川日奈子
ヴェルグンデ:杉山由紀
フロスヒルデ:小林紗季子
第一のノルン:竹本節子
第二のノルン:金子美香
第三のノルン:髙橋絵里

管弦楽:京都市交響楽団
合唱:びわ湖ホール声楽アンサンブル
新国立劇場合唱団

 びわ湖ホールの4年がかりの大型企画ニーベルングの指輪のいよいよ完結編。世界中を振り回す事になった指輪事件の大ラスと、英雄ジークフリートや神々の終末が描かれるという壮大なストーリーである。

 演出は今までびわ湖リング同様に映像を多用したものになっている。ラストのヴァルハラの炎上などは全部この映像を使用した演出によって片付けてしまった。予算に制約のある中ではこういう方法しか仕方ないところであろう。

 今回はここまで狂言回しだったヴォータンは城に引きこもりで全く出てこないので、ジークフリートが中心の話となる。英雄ジークフリートが奸計にはまって命を落とし、その死が天界をも巻き込んだ大破滅につながる顛末が描かれる事になる。前作の「ジークフリート」では確かに腕っ節は半端なく強いが、いささかうぬぼれが強くて基本的にはお馬鹿なキャラであるジークフリートであるが、本作でもその脳天気ぶりとうぬぼれは相変わらずで、それによって命を落とす事につながってしまう。基本的に馬鹿と悪人ばかりで、善人は見当たらないというワーグナー的な「嫌な」世界である。

 ジークフリートとブリュンヒルデという主役を除くと、重要人物は陰謀家のハーゲンになるが、これを演じた妻屋が抜群の安定感と存在感の歌唱で舞台全体を引き締めていた。これに絡むグンターの石野もなかなかに見せた。

 お馬鹿なジークフリートのフランツはなかなかに余裕を感じさせる歌いっぷりであった。自信に満ちているものの軽さと危うさが同居しているジークフリートのキャラクターを上手く表現できていたように感じられた。また色惚けブリュンヒルデを演じたミュターは若干の線の細さを感じさせる部分がないわけでもなかったが、概ね過不足のない表現をしていたように思われた。

 管弦楽は京都市交響楽団だけあって安定性はある。ドラマチックな作品をドラマチックな演奏で盛り上げた。少なくともPCを通して見た感じでは大スペクタクルミュージックになっているように思われた。

 それにしても無観客上演という出演者としてはテンションを保つ事が困難な状況は大変であったろうと思われる。このような中で今回の上演にこぎ着けた関係者の努力には敬意を表したい。

 

 

 ただやはり、一幕が終わったところでも場内が静まりかえっているというのは何か切なさを感じさせるものがあった。特にツラいのは観客なしでのカーテンコールの虚しさ。出来る事ならこんな異常な形でなく、通常の上演を行いたかったであろうし、私もそういう状況で上演を見たかったところである。これだけの企画はなかなか再び行う事は困難と思われるので、下手すればこの作品を舞台で見る事は私には一生ないかも知れない。

 なお明日3/8も同じ時刻でメンバーが交代して中継があるようである。ただ私はさすがにPCに6時間張り付きというのはかなり疲れたので、明日の上演は恐らくパスすることになると思う。