徒然草枕

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白鷺館アニメ棟

「聖徳太子展」を見てから、大フィル定期演奏会でコロナ後初のマーラーを聴く

「聖徳太子-時空をつなぐものがたり-」中之島香雪美術館で12/13まで

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 この度、香雪美術館が所蔵する聖徳太子像と聖徳太子絵伝の修理が完成したことを記念して、これらのお披露目をしようという展覧会のようである。

 入場すると最初に迎えてくれるのは子ども時代の聖徳太子の像である。聖徳太子はとにかく嘘か本当か怪しい伝説が多数ある人物だが、その伝説の一つが2才で合掌して「南無仏」と唱えたというものである(幼児がゴモゴモ言ったことを回りが勝手にそう聞き取ったんじゃないかと思うが)。その時の太子の姿をかたどったという像である。ふっくらした顔つきだが、険しい表情はとても幼児のものではない。

 またこの時代の観音像も展示されているが、白鳳時代のものらしく全体的にフックラとしたシルエットの像となっている。この柔らかさに時代を感じる。

 次に展示されているのが今回修理が完了した聖徳太子像である。柄香炉を持って立つ少年太子は、父である用明天皇が病で倒れた時に、それを心配して見舞う姿であるという。背景まで細密に描かれているのが異色であり、その中には極めて不鮮明であるが水墨山水画まで描かれている。なお本作は鎌倉時代に描かれた重要文化財であるが、後の南北朝時代に模写されたのではと思われる作品も併せて展示してある。細部の表現などを変えてあるのが面白い。

 修理作業の詳細について紹介するコーナーなどもあったのであるが、短気でイラチの私にはとても不可能な作業である。まさに絹糸の一本一本までチェックするような極めて精緻な修復作業を施し、しかも後の世に今回の修復部分を容易に判別できるような配慮までしているようである。こういうところは修復作業に携わる匠の技術とこだわりが感じられるところである。

 メインが聖徳太子絵伝の展示。香雪美術館が所蔵しているのは全9幅中の3幅で残りのうちの5幅をボストン美術館が所蔵し(海外流出したんだろうな)、1幅は所在不明とのこと。なおほとんど同じ構成の作品が愛知の本澄寺が所蔵しており、これと併せて展示されていた。内容は太子の生涯を描いたものであるが、これがまさに伝説満載である。

 結局は聖徳太子とはいかなる人物であるかというのは、絵巻の類いでは分からないようだ。それにしてもここまで伝説となる理由はどこにあるのかという辺りも興味深いところではある。

 

 展覧会を一回りしたところで14時半頃になっていたので、向かいのフェスティバルホールへと急ぐ。厳重なゲートを抜けると館内は通常配置で7割の入りというところか。ステージ上も完全に通常配置に戻されていて、マーラー用の大編成オケがステージに並べるようにセットされている。そう言えばコロナ以降、マーラーを聴くのは初めてではなかろうか。

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16編成のオケを配置できるようにしてある

 

大阪フィルハーモニー交響楽団 第543回定期演奏会

指揮/尾高忠明
曲目/G. ウィリアムズ:海のスケッチ
   マーラー:交響曲 第5番 嬰ハ短調

 一曲目はイギリスのウェールズスの女性作曲家グレース・ウィリアムズの弦楽合奏曲。イギリスものを得意とする尾高らしい選曲である。20世紀の作曲家ではあるが、あまり現代音楽臭い曲ではなく、普通に美しい曲である。ただしあまり旋律的ではないので、ボンヤリと聞いていると眠気を誘うところがある。3曲目の「セイレーン海峡」など、まさにセイレーンに魅了されたかのごとく私もウツラウツラしかけたのであったが、ハッと気づいて周りを見渡せば、前方ではカップルが互いに寄りかかって熟睡中で、私の周辺も大半が完全に落ちてしまっていた。あまりに心地よすぎるのもいかなものかというところ。大フィルの弦楽陣はなかなかに良い音を聞かせていた。

 休憩後の後半はマーラーの交響曲第5番。冒頭のトランペットから安定感があって大フィルの演奏はなかなかに冴えている。尾高の指揮はドッシリとしたやや遅めの安定したテンポで進めていくが、さざ波が立つような独特のリズムを感じさせる。

 第1楽章は葬送行進曲とも言われているが、悲愴な曲と言うよりはズッシリと安定感のある重い曲という印象。第2楽章は少々気分が変わるがそれでも低重心の重さは相変わらずである。

 第3楽章のスケルツォもゆったりと謳わせていた。有名な第4楽章は徹底的に美しい曲。結構なメロドラマだった印象である。最終楽章は乱痴気騒ぎにはしないで落ち着いて節度の効いた演奏で終了というところであった。ゆったりとスケールの大きな演奏というのが全体を通してのイメージである。ただ私としては、最後はもう少し馬鹿騒ぎしても良かったのではという気はする。

 総じて大フィルの演奏には安定感があり、大フィルも上手くなったもんだなと感心した次第。尾高自身の演奏には私は今まであまり面白いものを感じたことはないが、オケビルダーとしての能力は間違いないようである。


 場内はなかなかの盛り上がりだったように感じられた。やはりマーラーは観客に対してもアピールするものはあるだろう。私も久しぶりに堪能したというところである。

 この後は車を回収すると帰宅と相成った。狭いエリアを動いただけなんだが、美術館巡りは意外と歩くので、これでも7000歩程度は歩いていたようだ。帰りになって疲労が出てきて正気を保つのに苦労したが、何とか無事に帰り着いたのである。十分に注意はして行動したつもりではあるが、後は2~3日後に突然に発熱したりしないのを祈るのみ。もしそうなれば持病のある若くない身では命も危ない。