徒然草枕

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白鷺館アニメ棟

年始の怪しいドラマ「ライジング若冲」なかなか面白かった

全編に漂う強烈なBL要素は何なんだろう?

 正直なところ特に見るつもりがなかったのが、ザッピングしていたところたまたま放送していたこれを見つけて軽く見始めたのだが、案に反してなかなかに面白かったので見入ってしまった。

 要は若冲が大作「動植綵絵(どうしょくさいえ)」を描くに至った経緯を大胆なドラマで表現しているのだが、若冲がこの作品を描くに至ったのは相国寺の僧侶・大典との深い友情がその根底にあるというドラマ。ただこの二人の関係が深い友情と言うよりはあからさまに深い愛情。男同士が手を取り合って見つめ合っているようなシーンが結構あり、「オイオイ大丈夫かNHK、正月からこんなもの流して」という雰囲気である。

     
若冲の作品に興味のある方にはこういう本があります

 もっともこういうBL的な雰囲気というのはNHKでは初めてではなく、かつて大河ドラマ「平清盛」でも前半にもろに登場しており、その時は腐女子中心に異様に世間が盛り上がっていた。しかしその盛り上がりすぎにNHKがひるんだのか、普通の歴史ドラマになってしまった途端に視聴率も人気も急落して、歴代ワーストというところまで行ってしまったなんてこともあった。

 なお「西郷どん」では脚本が恋愛小説専門の林真理子だっただけに、最初から意図的にそういう要素を取り込んだそうだが、元々の話自体が駄目すぎたせいでそこまで行く前に作品自体がずっこけてしまっている(あまりにひどすきで、私は第一話で見切りを付けた)。

 

中村七之助を起用したせいか、妙に乙女な若冲

 若冲を演じているのが歌舞伎の中村七之助ということもあって、細かい挙措のところどころに女っぽさが出てしまって、そのことが余計に二人の関係の怪しさを匂わせるようなところがある(笑)。旅に出る大典に対して「必ず帰ってきてくれ」と言ってから別れるシーンがあるのだが、この時の見つめ合う姿が完全に「愛し合う二人」になっている上に、大典を残して一人石段を降りていくシーンの若冲の挙措が完全に女性のそれであり、妙にナヨイ若冲になっていた感はある。

 そして3年+3年後、ついに動植綵絵が完成して、相国寺に戻ってきた大典に披露するのであるが、このシーンが美しすぎて完全にクリスマスナイトのカップルの状態(笑)。大典の永山瑛太がグラスをかざして「君の瞳に乾杯」とか言い出しそうだった(笑)。最後に33幅の内で仏に捧げるのは31幅で、最後の2幅はあなたに捧げると雁の図と鳳凰の図を示し、この絵は対になっていて雁はあなたでそれを迎える鳳凰は私だと言い出した時には、あまりにストレートすぎて流石に背筋がゾワゾワとなった(笑)。そもそも若冲の鳳凰の絵って、ハートマークが飛びまくっているものだし(笑)。最後のシーンなんて船の上で大典がなぜか乙女な若冲の手を取るという意味深すぎるシーン。

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ハートマークが飛び交っている若冲の鳳凰

 

しかし実は各絵師の特徴も良く捉えている

 と言うわけでどうしてもBL要素に目が行ってしまう腐女子ドラマのようにも思えるのだが、同時代にライバル関係にあった池大雅や円山応挙なんかも登場して三者三様の様子を紹介しているところなんかがなかなかに面白かった。いかにも風来坊的な池大雅とか、若冲をもろにライバル視して火花を散らす円山応挙なんてのは楽しい内容。三人で写生に出かけた時なんかも、いかにも自由な絵を描いている池大雅に、子犬のスケッチをしている円山応挙、そして植物と虫を凝視している若冲なんてのはもろに彼らの作品を意識していて、美術のことを一渡り勉強したスタッフがドラマを製作したのだなということを覗わせる。

 そして最後には絵師番付の一位になり、ようやく若冲に勝ったと多くの弟子達の前で狂喜する円山応挙に対し、一応順位が気にならないわけではないが、まあそんなもの特にどうでも良いかという風情の若冲なんてのも、うん、こいつらはこういうタイプかもと妙に納得できるところがあった。なお長沢芦雪のファンでもある私としては、円山応挙の弟子達が出て来た時に、こいつが後の長沢芦雪だと分かる1シーンでもあれば完璧だったが(笑)。

 それにしてもこの時代って、実際にこの3人が京でしのぎを削っていたわけである。考えてみればまさに文化が爛熟したいかにも贅沢な時代だったんだなと溜息の出る次第。なお若冲は一番年長なのだが、一番最後に没している。

 なお1/16の夜9時からBSプレミアムで「完全版」が放送されるとのことなので、若冲に興味のある方なら、BL要素は絶対駄目という方以外にはお勧めします(笑)。

     
伝記なども含めて総合的に若冲を知りたい方はこちらを