徒然草枕

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NHK-Eテレでカサド指揮のN響の第九を聴く

 この大晦日の夜はNHK-Eテレで放送されたクラシック名演・名舞台2020を見る(そもそも紅白なんて微塵も興味がないし)。前半は各地のローカルオケでのベートーヴェン交響曲全集だったが、これはダイジェストなのでまあ各オケの個性は分かるが(と言っても個性が際立っていたのは山形交響楽団ぐらいか)、音楽として聴くのはどうかというところ。

 後半はカサド指揮によるN響による第九。カサドと言えば以前に大阪でN響の公演を聴いたことがあるが、かなり個性的な演奏をする指揮者である。

 

NHK交響楽団第九演奏会

パブロ・エラス・カサド指揮
髙橋絵理(ソプラノ)
加納悦子(メゾソプラノ)
宮里直樹(テノール)
谷口伸(バリトン)
新国立劇場合唱団

 私が以前聴いた時には、チャイコの交響曲第1番「冬の日の幻想」が「夏の日の喧噪」という雰囲気で面食らったのであるが、今回の演奏も基本的にその時に近い。その指揮ぶりはエネルギッシュでキビキビとしてメリハリが強く、グイグイと非常に前進力の強い演奏である。また音色は基本的に陽性であるのが最大の特徴。第九の第一楽章は苦悩のようなものが漲る曲調であるのだが、カサドにかかると苦悩の影はなく、快速なテンポで軽快に音楽が進んでいく。それはそれでノリが良いので巻き込まれてしまうのだが、果たして第九がこれで良いのかという一抹の疑問は過ぎる。

 さらに第二楽章も全く同じ調子。かなりアップテンポでドンドンと進んでいく。決して音楽自体が浅いわけではないのだが、やはりノリはやや軽め。次の第三楽章はさざめく印象で通常は聞こえてこないような様々な音が聞こえてくるので、普通の演奏とはかなり異なる印象を受ける。

 そして第四楽章だが、合唱団はご時世柄総勢40名程度と通常の半数以下、それに合わせてかN響の編成も12編成とやや小さめのこともあり、パワーで押す第九とは対極的な、軽ろやかで明快な演奏を繰り広げる。合唱のみならず各楽器の音色も非常に明確でかつシンプル。装飾や虚仮威しを極限まで廃した淡々とした印象を受ける演奏である。そして常に基本的に演奏自体は常に陽性。ベートーヴェンの苦悩のようなものは全く見えない。

 いわゆるスペクタクルな高揚感というのが皆無な極めてクールでクレバーな印象を受ける演奏なので、非常に違和感は強い。とは言うものの、これはこれでありという気はする。とにかく異質かつそれでいて興味深い演奏であった。以前に大阪で聴いた時も思ったが、このカサドという指揮者、なかなかに一筋縄でいかないようである。将来的には「奇才」と呼ばれるようになる可能性大。


 なんて感想を書いているうちに新年が来てしまった。昨年はろくでもないことが非常に多かったが、新年こそは実り豊かな年となって欲しいものである。