徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

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白鷺館アニメ棟

福井美術館巡りの後、N響福井公演を聴くと大安寺温泉で宿泊する

 昼食を終えるとまずは市立美術館に立ち寄る。この科特待本部みたいな建物を訪れのは久しぶりである。それにしてもこの美術館、アクセスの不便な場所にある。

「アメリカン・ポップアート展~1960年代からのアメリカ~」福井市美術館で7/12まで

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 20世紀にアメリカで隆盛したポップアートの代表的な作品を展示した展覧会。

 定番どころが一堂に集合したという印象。ウォーホルのマリリン・モンローにキャンベルスープ缶、さらにリキテンシュタインのアメコミといったこのテーマの展覧会に必須の辺りは完全に網羅しており、それ以外も「どこかで見たことがある」作品のオンパレードである。この手に興味のある者ならかなり楽しめるだろう。私自身はこの手の大量生産アートには微塵も興味のない人間だが。

 

 市立美術館の見学後は再び福井市街に戻り、県立美術館に向かう。ここは本来は明日に立ち寄るつもりだったが、想定よりもスケジュールが早く回っているので今日に回すことにした。

 美術館に到着。しかし駐車場が満車のようで臨時駐車場(学校の校庭)に回される。ここも車が一杯。美術館で混雑するネタが「エジプト、浮世絵、印象派」と言ったのは私であるが、この法則は今回も当たっているようだ。なお子供の場合は「鉄道、恐竜、アンパンマン」である。

 

 

「古代エジプト美術の世界展 魔法と神秘」福井県立美術館で8/30まで

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 古代エジプト文明において、祭祀や魔術というのは非常に重要な要素である。特にエジプト文字であるヒエログリフは、単なる記録のための実用的な意味だけでなく、これ自体が呪術性を持つ魔術文字でもあった。死後の復活とあの世での永遠の命を望んだ彼らは、自らの遺体をミイラ化すると共にこれらの呪文をその棺に刻んでいる。このような魔術文字ヒエログリフや装飾、神像などを中心にエジプト文明に迫る。

 本展出展品は世界屈指のエジプト美術コレクションであるガンドゥール美術財団の所蔵品とのこと。今回の出展作はすべて日本初公開であるとのことだが、とにかく驚くほどにレベルが高いコレクションであるのは明らかである。内容が多彩であるだけでなく、非常に保存状態が良く、往時の色彩が残っている品が多い。

 圧巻は最後に展示されているミイラの棺。いろいろな物語やヒエログリフが描かれており、これが再生を願う魔術的仕掛けとなっている。このようなところに彼らの死生観が現れていて非常に興味深い。

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ハーモニーホールに移動する

 これで予定していたスケジュールはすべて終了してしまった。まだコンサートの開演時間までは余裕があるが、することもなければ立ち寄るところもない。とりあえずホールに向かうことにする。ホールは福井市街をしばらく南下した先にある。

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ハーモニーホール

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結構大きい

 結局はホールには開場時刻の30分以上前に到着してしまう。郊外の公園のようになっている中にホールはあるようだ。とりあえず駐車場に車をおいてホールに行ってみたが、このくそ暑いのにホールの中には喫茶店もないようだ。これでは仕方ないので向こうに見えるレストランにでも行こうかと思ったのだが、なんと今日の営業はもう終了とか。これからドカドカ人が集まるのに、こんな時に店を閉めているとは商売っ気がなさすぎるというか、単にどんくさいというか。実際にその間にも人は続々と集まり、レストランの前で追い返されている者も多数。開場時刻までかなりあるのに、ホールの手前で滞留する人数がドンドンと増えていく。場所が辺鄙にあるせいか、早めにやって来る者が多いようである(私も到着までに時間が読めなかったせいで早く着いた)。せめて加東市の会館のように図書館でも隣接していたらいくらか時間をつぶせるが、ここは小ホールと大ホールがあるだけというシンプルに過ぎる施設である。と言うわけで私もベンチでこの原稿を打っていたりする(笑)。

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内部のホール

 開場時刻は16時15分だが、16時前にはかなりの人数が集まってきて、ロビーは騒然とした状態に。例によって「完全指定席だから慌てる必要もないのに、なぜか入口前に行列を作って整然と待つ日本人」の習性が発揮されている。後から来て割り込みというのが常識の中国人には、この日本人の習性は理解できないだろう。彼らがこれを理解できるようになった時に初めて、念願の「中国が先進国として世界的に認められる」ことが実現するだろう。

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ザ・日本人

 ハーモニーホールの大ホールはシューズボックス型の二階建て。ただし二階席はそんなに大きくないので張り出しが少ないのが特徴。音響的には意外と悪くない。少なくとも西宮よりは随分と良い。ただし一番奥の席からはステージまでにかなり距離がある。

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シューズボックスで奥行きが深い

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天井からはシャンデリア

 

 

ワイラーシュタイン指揮 NHK交響楽団 福井演奏会

指揮:ジョシュア・ワイラーシュタイン
ヴァイオリン:オーガスティン・ハーデリッヒ

メンデルスゾーン:「夏の夜の夢」序曲
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲
コダーイ:ガランタ舞曲
チャイコフスキー:幻想序曲「ロメオとジュリエット」

 さすがN響と言うべきか、安定感に関しては抜群である。管があからさまにふらつくというようなことはないし、弦も弱音になっても整然として整っている。ただ逆に言えば安定しすぎ。本来は「真夏の夜の夢」などはもっと遊びがあっても良いのだが、そういう部分が全くない。俗な表現をすれば「クソ真面目でノリの悪い面白味のない演奏」ということに尽きてしまう。アンコールのハンガリー舞曲が「ああ、これで今日の仕事が終わりだ」という開放感でも出たかのような一番ノリの良い演奏であった。

 まだ20代半ばというワイラースタインは溌剌とした印象。大股の早歩きでステージに入場してくるのが印象的だが、指揮の動作も大きく、表現したい意欲に満ちているように感じられる。ただオケの方が日本のオケの中でも最も「冷めている」と言われているN響だけに、どこまで彼の指揮に従っているかが少々疑問。所々指揮者の独り相撲に感じられる部分があったりして少々痛々しい場面もあった。

 オーガスティン・ハーデリッヒは30そこそこの若手のバイオリニスト。テクニックはかなりあるようなのだが、演奏が繊細で力強さに少々欠ける印象。それがシベリウスのコンツェルトの曲想とも相まって、全体がピアニッシモな演奏というような感じになってしまった。こうなると演奏が客席のノイズの中に埋もれてしまう。なおアンコールでワイラースタインがバイオリンを持って出てきて、二人で重奏したのには驚いた。二人が並ぶと何となくマブダチに見える。

 

 コンサートホールはまずまずなのだが、気になったのは客層の方。やはりうるさい。他のホールよりも咳などが多いし、プログラムを膝から落としたり杖などを倒したと思われる大きな音が場内に響くことが一度や二度ではなかった。しかも床がカーペットを敷いていない木製なのでよく響く。同様に靴音の類もやたらに大きく響くので、革靴などで足踏みされるとその音が五月蠅くて仕方ない。また一番参ったのは私の後ろの席のオッサン。私は基本的に咳の類はあまり気にしない。出てしまうものは仕方ないし、私自身も喘息の気があるので運動などをすると咳の発作がよく出る(だから登山中の私はかなりやかましい)からである。ただこのオッサン、シベリウスのバイオリン協奏曲の間中、私の頭の真後ろで全く何の配慮もなく(口を手で押さえているような音ではなかった)毎分1回の割で咳をし続けたのである。さすがに今回だけは殺意を感じた。途中休憩で出ていった時、頼むからこのまま永久に帰ってくるなと思ったが、願い空しくしっかりと帰ってきて、後半の演奏中も回数こそ1/2~1/3ぐらいには減ったが、最後までその調子で咳をし続けたのである。

 これでN響を聴くのは2回目ということになるが、なるほど技術は高いのだがネットなどでぼろくそに言う者もいるのも頷ける。妙にクールで魂が乗っているような感じがないのである。彼らに一言聞きたいとすれば「音楽って楽しい?」。

 コンサート終了後はホールの駐車場からの道が大渋滞で、ホールから出るのに予想以上に時間がかかる。なるほど、まだ拍手も鳴り止まないうちにホールを駆け出す輩が結構いたのはこういうことかと納得。ザ・シンフォニーホールなんかであれをする意味は全く分からないのだが、このホールだと理由も頷ける。それにしてもホールの駐車場の大きさといい、周辺の道路状況といい、ここの大ホールが満席になることは最初から想定されていないような気もする。

 

 

越前蕎麦を夕食取ってから大安寺温泉で宿泊

 大渋滞の中を抜けて福井の市街まで戻ってきた頃には8時頃になっていた。今日は福井の旅館で泊まるが、夕食なしプランなのでどこかで夕食を摂る必要がある。セブンイレブンで夜食を仕入れてから車中で一人作戦会議。福井に飲食店がないわけではないのだが、車の場合は駐車場が問題。特に福井の繁華街は古いタイプの町並みなので駐車場は意外とない。どうするかと思ったが、今から店を探すのも面倒なので以前に行ったことのある「佐佳枝亭」を訪れることにする。注文したのは「越前そば」。腰の強いそばがなかなか。

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佐佳枝亭

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越前蕎麦を頂く

 簡単に夕食を終えたところで旅館に向かう。今日の宿泊先は「大安寺温泉萬松閣」。福井市外のはずれにある温泉旅館。しかしホテルにアクセスする道路はこの時間になると真っ暗である。旅館は家族経営の旅館らしく、日帰り入浴も受け付けている模様。なお今日の宿泊客は私一人らしい。

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翌朝に撮影した宿の写真

 とりあえず部屋で着替えると温泉大浴場へ。日帰り入浴が9時に終了ということなので風呂はほぼ貸切。アルカリ単純泉の肌当たりの優しい湯。またここの温泉は飲める温泉とのことで、風呂上がりには冷やした温泉水を頂ける。

 風呂から上がると部屋でマッタリしていたのだが、夜も更けてきた頃に体調に異変が現れた。急にのどがおかしくなって声がほとんど出なくなったのである。あのオッサンにコンサートの間中ずっと後から頭に咳を降りかけられていたせいか。参った。こんなところで風邪でもひいたら洒落にならない。体もダルいし早めに寝ることにする。

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