翌朝は7時前に自動的に起床。体に怠さは少しあるもののおおむね快調。ただ今日も暑くなりそうだ。東海地域には軒並み熱中症警報が発令中である。
朝食はバイキング。ここのレストランはシェフがベトナム人で、ベトナム料理などがあるのが特徴らしいが、私のチョイスは和食中心。ジジイには南方系料理はあまり相性が良いとは言えない。昨晩が軽めだったせいか食が進む。朝からガッツリと燃料補給しておく。
朝食後は入浴。体をシャッキリと目覚めさせる必要がある。さて今日の予定だが、2時から清水で開催される静響のコンサートがメイン。後は諸々考えていることもあるが、天候次第というところがある。外が命の危険を感じるほどの灼熱地獄なら、予定を大幅に省略する必要がありそう。
ホテルをチェックアウトしたのは9時過ぎ。さて今日の予定だが、静響のコンサートは2時からなのでそれまでは諸々考えている。キャリーを静岡駅のロッカーに放り込むと、まずは久しぶりに駿府城に立ち寄ることにする。
駿府城 今川の拠点から家康の居城になった城
「駿府城」は言わずと知れた徳川家康がらみの城郭。現在の形は家康が天下を掌握してから天下普請で整えられたもの。ただ元々は今川氏の城郭だったはずだが、町の中にも今川のいの字もない。「海道一の弓取り」と言われた戦国の傑物も、最期が良くなかったせいでどうしても扱いが悪い。昨今は今川義元よりもむしろ、その後に戦国の動乱の中をユラユラとしぶとく生き残った蹴鞠の達人「ファンタジスタ氏真」こと今川氏真の処世術が注目されていたりする。彼を見ていると、中途半端なプライドは捨ててしまうことが生きていく上での一番有効な戦術ということを物語っているのだが。
駿府城は明治の廃城後に陸軍の駐屯地になったとのことで、その時に内堀が埋め立てられているが、その周辺は残っている上に、最近になって櫓等が復元されていてかつての偉容を取り戻しつつある。また現在、かつての天守台周辺が発掘調査中とか。
県庁の周辺にはかつての外堀の一部も残存している。駿府城は典型的な輪郭構造になっており、この堀が一番外側に当たる。大手門の虎口跡などはかなり立派で見応えがある。さすがに100名城に指定されている城郭ではある。
駿府城入城の前に県庁別館の展望ロビーに立ち寄ろうと思っていたのだが、開場が10時からとのことでまだ時間があるので、先に駿府城の見学をすることにする。駿府城の東御門から入場すると、櫓や庭園のセット入場券を購入して見学に回ることにする。
東御門及び巽櫓はとにかく立派な木材を使用しているのが目立つが、これらの木材は静岡県内だけでは調達できず、一部は吉野から取り寄せたらしい。ということは国家的プロジェクトとして復元したということか。
東御門の奥にはかつての本丸堀の一部がまるで池のような状態で残っている。よくよく見ていると駿府城内部はほとんどが空き地なので、その気になれば本丸堀を掘り起こして復元することも可能なように思えるが・・・。
巽櫓の次は紅葉山庭園の見学。ここは駿府の自然をミニチュア化した庭園で内部には駿河湾から富士山、さらには箱根の山まである回遊型庭園である。なかなか変化があって面白い。
そこから西の方では天守台の発掘作業中。かなり掘り起こしたらしく土砂の山が出来ている。発掘現場は見学でき、掘り起こされた天守台の石垣を見ることが出来る。かなり大規模な石垣を持った城郭であったことが覗え、さすがに天下普請。
最後は坤櫓を見学。ここもかなり気合いの入った復元ぶりでなかなか見応えあり。
これで一周。最後はセット券に付属していたおでん引換券を持って駿府城の売店へ。灼熱地獄の中で熱々の静岡おでんを頂くことになったが、水分と共に不足しかけていた塩分を補給するにはちょうど良いかも。おでんの味はまずまず。
駿府城を一回りしてから県庁の展望ロビーに立ち寄るが、登ってみるとガラガラ。それに冷房があまり効いていなくて生ぬるいのであまり快適とは言えない。また晴れにも関わらず煙っていて富士山は見えず。面白いのは上から見る駿府城ぐらいか。
静岡市内の人気店「河童土器屋」で海鮮丼を頂く
駿府城の見学を終えたところで昼食を摂ることにする。立ち寄ったのは市役所の近くの「河童土器屋」。海鮮丼で有名な店らしい。私は「上海鮮丼セット(1950円)」。
季節のネタを盛り合わせたという海鮮丼はまずまず。意外にうまかったのが添えられていた天ぷら。サクッと揚がっていてなかなかのもの。これは天丼を頼んだ方が正解だったかも。最近は私の住んでいる地域でも新鮮な海産物が比較的容易に入手できるようになっているので、海鮮丼の類いで感動することは少なくなってきた。
人気のある店らしく、私が店を出る時にはかなりの行列が出来ていた。分からないでもないが、そこまでするほどの店かは若干疑問もあり。これも所謂口コミサイトなどの影響か。それにしてもカッパドキアと海鮮丼の結びつきが今ひとつ分からない。
それにしても暑い。駿府城を歩き回っただけでかなり消耗してしまった。完全にミネラル麦茶がライフラインになってしまっている状況。当初予定ではJRで近郊の城に繰り出すことも考えていたのだが、そんなことをしていたら熱中症になりそうなので、その予定は放棄することにする。となったら代わりのプランが必要だが、静岡市立美術館で「ミュシャ展」を開催しているのでそれに立ち寄ることにする。この展覧会は京都の伊勢丹で開催された時に行っているのだが、どうやら静岡会場限定展示などもあるらしいし、会場スペースの狭い京都伊勢丹では展示内容が省略されていた可能性も高い。諸々を勘案すれば立ち寄る価値はあると判断した。
静岡市立美術館は久しぶりの訪問。駅前ビルの中にある近代的な会場で、白主体の内装がいささか眩しい(笑)。今回は展示に合わせてサラ・ベルナールの一連のポスターがホールに展示してあって華やかな雰囲気。
「ミュシャ展~運命の女たち~」 静岡市立美術館で7/15まで
ミュシャの初期作品から最晩年の作品まで、ミュシャの画業を振り返る展覧会。
明らかに京都展よりも展示点数が多く、特に初期作品などに初めて見た作品が多く含まれる。とにかくこれらの作品を見ていると、ミュシャのデッサン力の高さが覗われる。
ミュシャが世間に出るきっかけとなったサラ・ベルナールの一連のポスターなどはまあよくある展示であるが、面白かったのが実際のモデルの写真も展示されていたこと。写真と絵画を比べると、ミュシャがモデルの特徴を活かしつつも巧みに美化していることが分かり、さすがに20世紀最強の萌え絵師と呼ばれるだけのことはあると妙に感心。
またスラブ叙事詩をスライドで展示していたのも面白い。かつて東京で実際に見た光景を思い出しながら懐かしい気分となった。
最後は静岡展独自企画の尾形寿行氏のOGATAコレクション。これは絵画と言うよりもミュシャの装飾を集めたものであり、アール・ヌーヴォー見本市のようになっていた。
スラブ叙事詩が何とも懐かしかった。これの実物を見ることは一生叶わないと思っていたのだが、今から思えば東京で実物を見ることが出来たのはまさに奇跡だったように思われる。今までいろいろな願いのほとんどはことごとく叶うことのなかった私の人生だが、この願いだけは珍しく叶えられたものになる。
展覧会を一回りしていたらちょうど適当な時間になった。コンサートに出向くためにJRで清水駅まで移動することにする。マリナートホールは清水駅から陸橋で直接つながっている。
マリナートホールは二階席まであるそこそこの大きさのホールだが、そこの一階席にだけ観客を入れていて、それでも埋まっているのは座席の5~6割というところ。いささか寂しい感もある。
静岡交響楽団 第80回定期演奏会
【指揮】野平一郎
【ソリスト】五位野百合子、河野克典
【合唱指導】戸﨑裕子、戸﨑文葉
【合唱】県民参加による合唱団、音楽青葉会・静岡児童合唱団
ビゼー/アルルの女「第2組曲」
ビゼー/交響曲 ハ長調
フォーレ/レクイエム op.48
10-8-6-4-4の小編成のオケだけに、どうしても弦などの音圧が不足気味。マリナートホールが意外に響くホールなので、それがオケにはかなりの助けになっている。
一曲目のアルルの女に関しては、ホルンや金管がボァーとやけに締まりのない音を出すせいで、今ひとつ精彩を欠く演奏。通常編成よりもトラなどで増量したと思われる金管陣が逆に徒になっている。フルートが孤軍奮闘していた印象。
交響曲の方は編成がスリムになった分だけまとまりのある演奏になっていたが、それでも全体的に演奏の精度を欠くのは相変わらず。この曲の持つ華やかさだけは伝わってくるが、全体としてはやや面白味に欠ける演奏となってしまった。
フォーレのレクイエムに関しては、合唱団が意外に健闘している。ただ編成的に混声合唱ではなく女声合唱+α程度というイメージになってしまっているのはバランス的には少々しんどいところ。それでもソリスト二人の美しい歌唱などもあってこの曲の魅力を伝えるのには成功していたと感じた。
静響の実力に関してはもうひと頑張り欲しいと感じたのが正直なところ。なおマリナートホールが意外に良いホールであることには驚いた。かなり静響に向いているホールだと思う。もし西宮のようなデッドなホールだったら、静響の音量では後まで音が届かないだろう。
観客がなかなか温かい拍手を送っていたようなので、東海地域ではそれなりに認識されているオケなんだろうと思われる。今後、着実なレベルアップを図って欲しいところである。もう少しアンサンブルの精度を上げれば、室内オケ的な方向性が出るだろう。モデルにするとしたらアンサンブル金沢か。名古屋辺りで合同コンサートなんて考えはないのだろうか?
それにしても図らずしてレイクエムの連チャンとなってしまった。これで後はモーツァルトのでもあればフルコースである。ただ同じレクイエムと言ってもやはり性格はかなり違う。ヴェルディのもろにオペラ調のに比べて、フォーレのはひたすらに美しい。レクイエムとしてはこちらの方が正解か。ヴェルディのだと死者が棺桶蹴飛ばして復活しそうだから。
コンサートが終了すると、直ちに静岡まで戻ってからキャリーを回収して新幹線で浜松に移動する。ここからはレンタカーでの移動になる。今日はかんざんじ温泉のホテル山喜で宿泊する予定。
かんざんじ温泉までは車で1時間弱だが、道路が結構混雑していて特に浜松市外を抜けるのに時間がかかる。しかも結構起伏もある。ようやく浜名湖が見えてきたらかんざんじ温泉はすぐ。
堀江城 舘山寺温泉に埋もれてしまった直虎ゆかりの城郭
かんざんじ温泉は浜名湖に着き出した半島状の土地にある温泉地。小高い山があるが、この山上にはかつて「堀江城」という城郭があり、大澤氏が拠点としていたという。大澤氏は井伊家と同様に今川の家臣であったが、後に徳川家康の侵攻時には井伊家とは対称的に家康と戦うことになる。しかし結局は和睦して徳川に下ったとのこと。と言うわけでここも井伊直虎ゆかりということで最近になって看板が立てられた模様。
とは言うものの、肝心の城郭自体は完全に遊園地とホテルの敷地になってしまっていて見る影もない。どうやら本丸は現在は観覧車が立っている下のようだ。ホテル九重の駐車場から堀江城跡の看板だけが見えている。
舘山寺温泉で宿泊
ホテル九重の駐車場をスルーして、今日の宿泊ホテルに向かうことにしている。私は残念ながらホテル九重みたいな高級ホテルに宿泊できるような財力はない。今回の宿泊ホテルはホテル山喜。
ホテル山喜は室数も多くはないかなりシンプルなホテルである。向かいの巨大ホテルサゴーロイヤルの系列だが、周辺の弱小旅館が買収されたのだろうかという雰囲気。サゴーロイヤルでカバーできない個人客などをこちらがカバーする形になっている。部屋はシンプルだがなかなか綺麗で良い部屋である。そう高くはないホテルで、浴場と食事はサゴーロイヤルを使用できるというのが最大の売り。
ホテルにチェックインした時にはもう6時過ぎ。夕食は7時過ぎからサゴーロイヤルでバイキングとのことなので、その前にサゴーロイヤルに入浴に行きたい。チェックインの時に「屋上露天風呂がお勧めですので是非」と聞いているので、とりあえず屋上露天風呂に直行することにする。
露天風呂は浜名湖に面した開放感抜群のもの。湖からの風を受けながらの入浴はなかなか快適。ただ泉質はナトリウム・カルシウム・塩化物強塩泉ということで一般的なもの。また加水・加温・循環・塩素消毒ありなので、湯自体にはあまり特徴はない。どちらかと言えば湯を楽しむと言うよりも雰囲気を楽しむ温泉か。
入浴を終えて湯上がりどころでしばしマッタリした頃には夕食の時間。レストランへと出向く。到着したレストランでは既に大勢の客が臨戦態勢。ここのレストランは座席に案内してもらえるので席取りの必要はない。それもあって伊東園のような殺伐とした雰囲気はない。
料理も品数豊富でなかなかうまい。売りの一つはうなぎ食べ放題。まあ国産ではないと思うが、このご時世うなぎ食べ放題は気分的には豪華。蒲焼きにうな茶漬けとたっぷり頂く。もっともうなぎの蒲焼きはそればかりそうべらぼうに食えるものでもない(これこそが食べ放題が出来る最大の仕掛けでもあるのだろうが)。
そのうちにカンパチの解体ショーが始まるので、カンパチの刺身も頂く。コリコリとして新鮮で美味。後はデザート類を頂いて終了。制限時間は90分あるのだが、私は40分ほどで怒濤のごとく食いまくってさっさと引き上げる。ただこのまま真っ直ぐ引き上げるのも何なので、サゴーロイヤルの内風呂の大浴場に入浴してから帰る。こちらも内風呂と言いつつも湖の眺望がある風呂(と言っても今は真っ暗だが)。湯に関しては、やはり露天よりは消毒がややマシな気がする。
風呂はなかなか良かったが、しこたま食べた直後に入浴というのはあまり良くなかった。若干気分が悪くなってきて口からうなぎが出てきそうな状態なので、とりあえずホテルの部屋に戻ってから一休みする。
布団を敷くと(セルフサービスである)そこにゴロンと横になって「人類誕生」の後半を視聴。今回はいよいよクライマックスで、日本にホモサピエンスが渡ってくるという話。彼らは南方から丸木舟に乗って渡ってきたという結論。そして彼らをかき立てたのはホモサピエンスが世界中で繁栄する原因となった「好奇心」。それにしても考古学も古生物学もすべてこの数十年でかなり進化し、かつての定説が完全に変わってしまった。何やらこんな世界も諸行無常である。
腹が膨れて入浴も済ませ、ドッと疲れが押し寄せてくるのでこの日は早めに就寝する。