徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

カーチュン・ウォン/PACオケ&「下村良之介展」「黄昏の絵画たち」

 翌朝は早朝に中途覚醒なんかがあったせいで2度寝になってしまい、気がついたら8時になっていた。老化に伴う睡眠力の定家を感じる今日この頃。目覚めはかなり悪い。さて今日の予定だが、今日は西宮で開催されるPACオケの定期公演に出向くつもり。これが15時開演なので、それまでは近隣の美術館を回る予定である。

 とりあえずチェックアウト時刻の10時までの間に「健康ボックス」の録画をチェックして、教ドキュ用の原稿を仕上げてアップ。ドタバタと荷物をまとめると朝食を摂る間もなくチェックアウトする。

 今日の最初に向かうのはBBプラザ美術館。とりあえずキャリーは三ノ宮に置いておこうと思ったのだが、三ノ宮周辺は大規模な工事中でコインロッカーが全く見当たらない。仕方ないのでそのままゴロゴロとキャリーを引いたままの移動になってしまう。

 

美術館の前に昼食に洋食を摂る

 灘駅に到着したのは11時前。ちょうどのタイミングなので先に昼食に洋食SAEKIに立ち寄ることにする。私が到着した時には待ち客は10人ほど。とりあえず開店同時に入店できそうである。私が並んで待っている数分の間に、私の後ろには10人以上の行列が出来ている。とにかく毎度の事ながら人気店である。

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この店には常に行列がある

 開店と同時に入店すると、昨日食べ損ねた「ヘレビーフカツ定食」を頼む。実は昨日は「グリル梵」に立ち寄るつもりでいたのだが、私の到着時には既に閉店時間だった次第。あそこのミディアムカツとここのレアカツではタイプが違うが、ここのはここので美味い。柔らかいレアカツを堪能する。

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ヘレビーフカツ定食

 昼食を終えるとBBプラザ美術館に立ち寄る。今日は関西美術の日とかで入場無料という太っ腹。

 

「下村良之介 遊び礼讃」BBプラザ美術館で2/16まで

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 京都を中心として独創的な芸術活動を展開してきた下村良之介の画業を紹介するとのこと。

 下村は初期は強烈ではあるがオーソドックスな絵画を描いていたようだが、第二次大戦で復員後、画材もない中で陶芸用の土をもらって絵を描いている内に新しい境地に至ったようである。鳥をモチーフにまるで象形文字のような線を紙粘土で立体的に浮き上がらせた独特の作品の時代に至る。

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こんな感じの作品

 なおこの頃に陶芸にまで手を出したらしく、陶器作品も多数展示されている。またこれらの創作活動の一方で版画や挿絵を手がけたり、舞台美術に至るまでかなり幅広い活躍をしている。

 展示室内には還暦を迎えた地震の肖像を描いた作品もあるが、これがコラージュも組み合わせた独特で強烈な感性はあるものの、意外にオーソドックスで緻密な絵画も描いていたりなどとにかく捉えどころのない画家である。

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これが還暦の自画像

 美術館の見学を終えると阪神と六甲ライナーを乗り継いで次の目的地へと移動する。

 

「黄昏の絵画たち-近代絵画に描かれた夕日・夕景-」神戸市立小磯記念美術館で1/26まで

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 黄昏と言っても、絵画界が低迷して画家が黄昏れているという意味ではない。古来より光の変化が微妙な黄昏時の表現というのは画家にとっては挑戦的な題材であったと共に、夕暮れは一日の仕事の終わりの休息や終焉に向かいつつある人生の情緒などを感じさせる題材でもあり、洋の東西を問わずこの題材に取り組んだ画家は多い。

 まず最初は西洋編で、ターナー辺りから始まって、逆光を使って暮れなずむ風景を描いたコローらバルビゾンの画家たち、さらに彼らと交流のあったクールベの力強い波の作品なども登場。ミレーなどは夕暮れ時を農夫たちが仕事を終えてホッと落ち着く時と捉えて作品を描いているのが分かる。

 次は光そのものを追究した印象派になり、ここではモネやシスレーなどが登場する。さらに近代の辺りでカンディンスキーやファイニンガーといった辺りまでが登場するが、この辺りになると最早夕暮れの光を書くことが目的ではなくなっている感がある。なお同じ黄昏時の表現でも、時代が下ると共に明るく表現されるようになっているのは偶然だろうか。

 日本の洋画においても逆光を用いた夕暮れ時の表現は一つの課題だったという。最初はこの課題に真っ向から取り組んだ高橋由一の作品から始まり、浅井忠や和田英作ら初期日本洋画の力作が並ぶ。

 その後は黒田清輝に始まる自然主義的な夕日の描写から菱田春草や小野竹喬といった日本画まで登場。段々と混交した世界になっていき、最終的に梅原龍三郎あたりまで時代が下るが、ここまで来ると本当に夕暮れ時の絵なのかに疑問を感じるような状態。さらにはもう一つの流れとしての歌川広重の浮世絵から大正版画につながる流れも紹介。吉田博や川瀬巴水の作品が目を惹く。

 黄昏をモチーフにテーマがあるようなないような雑多な展覧会だったという印象。まあいろいろ見れてよしという考え方もあるだろうが。

 

コンサートの前に岡本駅前の喫茶で休憩

 展覧会の見学を終えると六甲ライナーとJRで摂津本山へ。ここから歩いて阪急岡本、ここからは特急で西宮北口にアクセスできる。ただ岡本到着時ではまだ時間に余裕があるようである。そこで少しお茶をしていくことにする。駅前の「belle-ville pancake cafe」に立ち寄って、スフレパンケーキとアメリカンコーヒーを頼む。

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岡本駅前の喫茶店

 スフレパンケーキは結構あっさりしており、バターには塩気があるのだが、そこに添えられている生クリームと小豆を加えると猛烈に甘くなる。ガムシロップまで添えられているが、これを使う状況は私には想像できない。これは小豆の追加は余計だった。なお珈琲はやや苦味が立ってるタイプで、アメリカンにしたのは正解。

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フワフワのスフレパンケーキ

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アメリカンコーヒー

 一息ついたところで岡本から西宮北口まで移動。ホールに到着した時には観客がゾロゾロと入場中だった。今日は新鋭カーチュン・ウォンにチェロがメネセスとのことだが、どんな演奏を聴かせてくれるやら。

 

PACオケ 第119回定期演奏会

指揮:カーチュン・ウォン
チェロ:アントニオ・メネセス
管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団

ショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲 第1番 変ホ長調 op.107
マーラー:交響曲 第1番 ニ長調 「巨人」

 メネセスのチェロは圧巻の一言。音色が深くて表現の幅が広い。さすがの説得力があるチェロ演奏であり、メネセスのチェロが加わるだけで全体がグッと締まる。この曲は難曲とも聞いているのだが、このクラスのチェリストになると何事もないように軽々と弾いてしまうので簡単な曲に聞こえてしまう。しかもチェロがソロになっても、オケに対して音色的に聞き劣りがしないというのは驚きであった。

 後半の巨人はカーチュン・ウォンの指揮に圧倒される。とにかく表現力豊かであり、細かい仕掛けが無数にある指揮である。それが単なる虚仮威しではなく、細かい計算に基づいているのはよく分かる。全体のバランスも明らかに調整しており、ゆっくり目のテンポの中で金管を抑えめにして細かい旋律までも浮き上がるような設計になっていた。そして浮き上がってきた旋律は徹底的に謳わせており、そこには細かいニュアンスが施してある。非常に精緻な細工のような演奏である。

 しかしそれ以上に驚かされるのはオケの統率力。正直なところあまり上手いオケと言い難いPACオケの場合、これだけ仕掛けの多い指揮をされるとバラバラになりかねないところなのであるが、それをパシッと統率するのには舌を巻く。彼の指揮の挙動自体がメッセージを明確に伝えており(客席からもオケにどういう指示をしているのかが分かるぐらい)、それがオケのまとまりを崩さなかった大きな要因でもあろう。おかげで今日のPACオケは通常よりも一枚も二枚も上級のオケのような印象を受けた。

 

 これでこの週末の遠征は終了、帰途についたのである。とりあえずこれでウィーン、ベルリン、コンセルトヘボウの三大オケを網羅したことになるが、やはりキャラクターの強いのはウィーン、演奏技術の高いのはベルリン、これらに比べるとコンセルトヘボウは今ひとつカラーが薄いという印象を受けた。実際に三大○○と言えば、大抵は1と2には誰も文句を言わないようなものを持ってきて、3つめに自分が入れたいものを入れるというのが定番。例えば「世界三大天才と言えば、アイザック・ニュートン、アルバート・アインシュタイン、そして鷺だ」と言っておけば良いのである(笑)。

 そう考えるとNo3に入れるオケは人によって違いそうである。ちなみに私が30年ほど前にクラシックを聴いていたころには3つめにはニューヨークフィルを入れる人が多かった(バーンスタインが指揮した黄金時代である)。またシカゴフィルを上げる人もいた(こちらもゲオルグ・ショルティが指揮する黄金時代)。またニューヨーク、シカゴ、ボストン、クリーブランド、フィラデルフィアを指して「アメリカBIG5」という言い方もあった。しかしいずれも遠い昔の話である。ちなみにニューヨーク、シカゴ、フィラデルフィアについてはここ数年で来日公演を聞いているが、いずれも既に昔日の面影はないという印象であった。諸行無常、盛者必衰はこの世界でも真理のようである。