徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

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白鷺館アニメ棟

関西フィル定期演奏会は、38年ぶり再演の貴志康一の「仏陀」と神尾による伊福部の協奏曲

関西フィルの日本人作曲家シリーズである

 今日は関西フィルの定期演奏会である。今回は日本人作曲家シリーズという一種の珍曲シリーズ。メインである貴志康一の「仏陀」は関西フィルが1984年に日本初演した曲で38年ぶりの再演。とはいっても、当時のメンバーは既に誰もいるはずもなく、藤岡幸夫にしてもまだ指揮者デビュー前で慶應義塾大学で学生生活をエンジョイしていた頃だろう。かく言う私もまだ大学生である。

 さらに伊福部昭のヴァイオリン協奏曲という、これも滅多に聞く機会のない作品も登場。神尾真由子の出演は「出演者変更」となっているが、そう言えば元々の予定は関西フィルの元コンマスの岩谷だったか。彼は違法な草を自宅マンションでガーデニングしていた咎で逮捕されるという羽目になった(本当に馬鹿なことをしでかしたものだ)ので、藤岡が親交のある神尾を引っ張ってきたというところだろうか。こちらのプログラムも興味深いところ。

 金曜日の仕事を早めに切り上げて直ちに車を出すと大阪に向けて出発。しかし阪神高速がまたも途中で全く動かなくなってしまう。この道路は根本的に手を打つべきである。結局はここでかなりの長時間拘束される羽目になり、ようやくホール近くにまで到着した時には既に18時過ぎ。いつも使っている駐車場は満車で、高いが仕方ないかと向かったホール駐車場も満車。結局は辺りをフラフラと駐車場を探して回って、ホールから遠い高い駐車場を使う羽目に。これが車の場合の最大のリスクである。

 おかげで到底夕食を摂る時間などないわけであるが、さすがに何かを腹に入れておかないと途中でガス欠でぶっ倒れそうである。慌ててホール北の阪急オアシスに飛び込むと、ミネラル麦茶とパンを購入してホールに入る前に流し込む。

かなり多くの観客がやって来てます

 ホールは既にゾロゾロと入場中。ホールの入りは8~9割というところで思っていた以上に結構入っている。仏陀とかを聞きたいと思った観客が意外といるということか。

 

 

関西フィルハーモニー管弦楽団 第332回定期演奏会

[指揮]藤岡幸夫
[ヴァイオリン]神尾真由子
[管弦楽]関西フィルハーモニー管弦楽団

木島由美子:Pleuvoir~あめふり~
伊福部 昭:ヴァイオリン協奏曲 第2番
貴志康一:交響曲「仏陀」

 一曲目は木島由美子の曲。彼女の曲は先日、山形交響楽団のさくらんぼコンサートで耳にしているが、あまり現代が表に出てこない聞きやすい曲である。今回の曲は子供をモチーフにしたという前半と、育児によって生じた自身の心象風景を描いた後半とのことである。キラキラしたところある曲であり、この躍動感はやはり子供を描いたものであるのか。美しさも秘めた曲であるが、曲自体のインパクト自体はあまり強くない。

 二曲目は伊福部のヴァイオリン協奏曲。協奏曲と言いながら、ヴァイオリンがソロで音楽を進めてしまう部分が多いので、ソリストの技倆にかなり左右される曲である。その点ではさすがに日本のヴァイオリニストの第一人者である神尾の表現力は実に見事。有無も言わせずに観客を引き込むだけの魅力とパワーを秘めている。ヴァイオリンがソロで音楽を組み上げていくところに徐々にオケが絡んでいって、最終的には大きな音楽が出来上がるという構成で、曲自体の節回しやリズムなどはいかにも日本的であり、そういうところがいわゆる伊福部節である。

 この曲についてはもう神尾の名演に尽きる。技術云々のレベルなどは既に遥かに超越した表現力の次元で実に雄弁な演奏である。神尾の演奏は聞く度にその雄弁さに舌を巻くのであるが、今回もまさにそうであった。

 20分の休憩後の後半は「仏陀」。この曲も基本的には尖った現代音楽ではなくてもっと馴染みやすいもの。第一楽章などは結構格好良いし、第二楽章はゆったりと叙情的で、次にデュカスの「魔法使いの弟子」を連想させる軽妙さを秘めた第三楽章。最終楽章は厳粛で幽玄さを感じさせる音楽が繰り広げられ、まさに夢幻の世界で終息という曲。

 雄大さを感じさせるが、その雄大がインドのイメージと言うよりはあくまで日本の風景であるように感じられ、その辺りはやはり日本人作曲家による曲というところ。なかなかに魅力的な曲であり、もっと演奏機会があっても良い曲のように思われる(この曲をテーマにして手塚の「ブッダ」をアニメ化して欲しい)。

 藤岡指揮の関西フィルの演奏も、シットリとした弦楽陣を中心にかなり魅力的な演奏を繰り広げており、全く馴染みのない曲にもかかわらず最後まで実に興味深く聞くことが出来た。今回は珍しい曲を優れた演奏で体験することが出来て実に満足である。


 これで今日の予定は終了。空腹を抱えつつ夜の阪神高速を突っ走って帰宅したのである。帰宅前に近くのラーメン屋に飛び込んでかなり遅めの夕食を腹に入れてようやく人心地ついたのであった。