徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

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アニメ関係の記事は新設した「白鷺館アニメ棟」に移行します。

白鷺館アニメ棟

国立博物館の「加耶」展を見学してから、アクロスでポリャンスキー/九響の名演を堪能する

今朝は早朝出発

 その晩はかなりグッタリと寝てしまっていて、朝の6時半に目覚ましで起床する。さて今日の予定だが、今日の九州交響楽団のコンサートは午後2時からアクロス福岡で。だから当初の予定では昼頃までここでグダグダするつもりだったんだが、さすがに福岡くんだりまで遠征してそれだとあまりに情けなさすぎるということで、その後の調査で九州国立博物館で「加耶」展が開催されているとのことから、それを見学することにする。九州国立博物館が開館するのが9時半、大体その頃には向こうに到着したいと考えたら、こちらを8時15分のバスで天神に向かった方が良さそう。というわけで今朝は6時半という最近の遠征ではあまりやらない早朝起床にした次第(最近は8時近くまで寝ていることが多い)

 時間に余裕がないのでさっさと行動する必要がある。まだ眠気がある上にあちこちに痛みも残っている身体にむち打って、まずは朝食へ。朝食はバイキング形式だが、正直なところ品数もいまひとつだし、内容も出来合感が強い。ホテルとして考えた時のここの難点は、このイマイチの朝食と部屋に冷蔵庫がないこと。さすがに万葉倶楽部は風呂は整っているのだが、料金とその他を照らし合わせると選択が難しいところ。長時間待機するつもりだったらアドバンテージがあるのだが、今回のように夜にやってきて翌朝早朝出発だったらメリットは薄くなる。

残念ながら朝食はイマイチである

 朝食で腹を満たすと朝風呂に出向く。とりあえず鈍りきっている体にこれで活を入れておく。体が温まってきたことでようやく少し動けるようになってきた。そうなったところで荷物をまとめると8時頃にはチェックアウト手続きを済ませる。

 シャトルバスで天神までは20分ほど。天神のバス停は市役所の前で、ちょうと斜め向かいアクロス福岡が見える。

バス停からはアクロス福岡が見える

 

 

西鉄で太宰府に移動

 まずは邪魔なキャリーは帰りの動線を考えて地下鉄天神駅近くのコインロッカーに入れ、身軽になって西鉄福岡駅を目指す。西鉄に乗るのは何年ぶりだろうか。以前に全国鉄道乗りつぶしをやっていた頃にここに来たことはあるが、ボンヤリとした印象しかもう残っていない。西鉄福岡駅はいかにもターミナルという印象で、線路数は少ないが阪急梅田駅を連想させる構造である。

西鉄福岡駅は2階にある

関西人の私としては阪急梅田を連想する

 ここから大牟田行き特急に乗り込んで西鉄二日市を目指す。クロスシートの特急車はやはりイメージとしては阪急に近い。

特急列車が到着

何となく阪急京都線特急を連想させる車内

 特急は高架をぶっ飛ばし、途中で地上に降りたりなどしながら二日市に到着、ここで太宰府線に乗り換え、到着した太宰府駅はいかにも観光路線の終着ターミナル駅ということで、構造といい雰囲気といい阪急嵐山駅を連想させるもの。何となく非常に馴染みがあるような印象を受ける。

二日市で乗り換えると二駅で太宰府到着

太宰府駅

 

 

太宰府参道筋をプラプラする

 まだ比較的朝早い時間帯にもかかわらず観光客が多いのに驚く。途中でやはり太宰府といえば名物の梅ヶ枝餅を買い求め、それを頂きながら太宰府の参道筋をプラプラする。甘い焼きあん餅が実に心地よい。

太宰府名物梅ヶ枝餅を頂く

参道筋は早朝から観光客が多い

 太宰府には大勢の観光客が押しかけている。耳を澄ませるとどうやら観光客のかなりの部分が中国人である印象。そのせいか自撮り棒を振り回している輩も。鳥居をくぐって参道の太鼓橋を越えると正面が太宰府の本殿だが、私が目指すのは博物館なのでそこを右折。

参道の太鼓橋を越える

梅が咲いている

正面が本殿だが私はここで右折

 

 

 博物館は太宰府南の丘の上にあるので、ここから虹のトンネルを抜けることになる。ここを通るのは初めてではないのだが、こんなに高いエスカレーターを登るということは完全に忘れており、ひたすら長い動く歩道を抜けたというように記憶が書き換わっていた。実際は2段構成の高いエスカレーターを登ってから動く歩道だった。

これが虹のトンネル

いきなりかなり高いエスカレーターを登る

登り切った先が長い動く歩道

 歩道を抜けると目の前に巨大なガラス張りの建物が見えてくるが、これが九州国立博物館。国立博物館といえば、東京、京都、奈良にあるが、ここは一番新しいだけに建物も一番近代的である。

実に巨大な博物館の建物

内部は巨大な吹き抜け

 

 

特別展「加耶」 九州国立博物館で3/19まで

「加耶」展会場

 加耶とは3世紀から6世紀頃に朝鮮半島南部に存在した金官加耶、阿羅加耶、小加耶、大加耶などの国々の総称である。加耶は鉄を産することと倭国との交易などで栄えたが、やがて新羅と百済による圧迫を受け、532年に金官加耶が新羅に服属すると、562年に分裂して力の弱まった大加耶が新羅に服属することになり、ここで加耶は消滅する。その加耶の最近の発掘の成果に基づく出土品などを展示した展覧会である。

加耶の地図

 最初は鉄の産地であった加耶らしい鉄製の武具や鎧などが展示されている。

出土した鉄器類

鉄製の鎧

 鉄器だけでなく須恵器などの陶器も出土しているようで、文化のレベルは高かったことが覗える。

土器や鏡なども出土している

 剣の類いも多く出土していて、出雲などで大量に出土している銅剣と類似しているものも出土している。

見たことのあるような銅剣も出土

これは装飾品のようである

 装飾を施した鉄の矛なども発見されていることから、実用はやはり鉄剣だと思われることを考えると、これらの銅剣は儀式用か何かだろうか。確かに無粋な鉄剣よりは、金ピカに輝く銅剣の方がいかにも儀式的には派手で見栄えが良いが。

鉄製の大刀

柄頭には龍と鳳凰が刻まれている

 

 

 倭を始めとする東南アジア広域との交易で栄えた加耶には、倭人も移住していたと考えられるという。また倭国に渡来人の形で訪れている加耶の人々もいて、その姿も伝えられている。

渡来人埴輪

埋葬されていた女性の飾り物

船をかたどった埴輪

 また当時の倭国に牛馬はいなかったと記録にあり、それらを持ち込んだのも渡来人だったという。馬は軍事用に重宝され、権力者は名馬を豪華に飾ったようである。

埴輪牧場

名馬はこのように飾った

 日本と朝鮮半島の深い関わりを示す発掘品が多いのだが、この辺りの歴史は未だに諸説あり(あのアホな戦争の悪影響がまだ残っている)、未だに不明な点も多々あるようであるが、今後さらなる発掘調査で歴史的事実が明らかになることを願うのみである。

 

 

 特別展の鑑賞後は上の階の常設展の方も覗くが、とにかく会場が広い上に足の方が既に終わりかかっていて集中力も続かないということでザッと一回りするだけで終わり。丹念に見学していったら実に見応えのある逸品ぞろいだが、残念ながら時間よりも集中力が完全に底を突いている。

「縄文は爆発だ」の火焔型土器

国宝「三角縁神獣鏡」

伊万里焼きの名品

 

 

太宰府に立ち寄ってから戻る

 博物館の見学を終えると11時頃だった。とりあえず引き返す途中で太宰府天満宮に立ち寄って宝物殿を覗く。

太宰府の宝物殿

 宝物庫では太宰府ゆかりの名品の展示に合わせて、神戸智行展を開催中で大判の自然を描いた作品を数点展示。琳派的な装飾性を持ちながら、それでいて画面に独得の奥行き感があるという独得の静謐な絵画。しーんという音が聞こえるような静けさはかなり独自性の高い風情である。

宝物殿では太宰府ゆかりの名品を展示

 宝物殿の見学後は本殿に立ち寄ろうとするが、ご本殿が改修中で仮殿を建設するとかの工事中の模様で、今は本殿の写真の前で拝むしか仕方ないよう。手早く参拝だけを済ませておく。今更私は受験はないが、この年になって新たな技術を学習して習得することを迫られているので、その習得が上手く行くように祈っておく。どうも一生いわゆる学問と離れることはなさそうである。ついでにおみくじを引いたみたら、見事に大吉で満願成就とのことだが、本当だろうか?

 太宰府の見学を終えると観光客でごった返している参道筋を太宰府駅まで。当初予定ではここらのどこかで昼食を摂ることも考えていたが、とても店に立ち寄るという気にならないので天神まで引き返してから昼食を摂ることにする。

帰りの参道筋はとんでもないことに

 

 

昼食は天神地下で

 30分ほどで天神まで引き返してくると、昼食を摂る店を探して地下をウロウロ。飲食店街の地下2階をうろついたがどこも行列、そんな時に「かつ心」が入店できそうだったので飛び込む。

地下の「かつ心」

 注文したのは「カツ丼(1100円)」。いかにもとんかつ屋のカツ丼らしく、分厚いロースカツの入ったカツ丼。まあ特に可もなく不可もなくといったところで普通に美味い。場所柄やや価格は高めに感じるが、まあ悪くはない。

カツ丼はまずまず

 昼食を終えると何だかんだで1時前ぐらいになっていた。地下伝いでアクロス福岡に向かうことにする。ホールに到着したのはちょうど開場の数分前。1時を2分ほど過ぎたところで開場になり、ゾロゾロと入場する。

アクロスは開場直前

 昨年改装なったホールは綺麗である。自分の席に着いてしばしボンヤリとしていたら疲れがドッと押し寄せて眠くなる。そこで開演までしばし意識を失う。次に気がついたのは隣の席が来てゴソゴソ始めた時で、開演10分前になっていた。まだ完全に頭がスッキリしたわけではないが、目を覚ましてコンサートに挑む。

ポリャンスキー&小山実稚恵

 

 

第32回名曲・午後のオーケストラ 巨匠ポリャンスキー 魅惑のシェエラザード

改装なったアクロス福岡は綺麗

指揮 ヴァレリー・ポリャンスキー
ピアノ 小山 実稚恵

ベートーヴェン/ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 作品73「皇帝」
リムスキー=コルサコフ/交響組曲「シェエラザード」 作品35

 小山実稚恵のピアノソロは相変わらずかなりタッチの強い硬質な演奏である。これがベートーヴェンの4番であればここまで強い演奏では違和感が出るのであるが、こと5番となればこの小山の荒々しいタッチでも問題なくマッチする。まさに堂々たる皇帝という雰囲気になる。

 これに対してバックのポリャンスキーは、小山の硬質の音色を受け止めるかのように、やや柔らかめの音を出してくる。この辺りが単にパワー全開にバリバリだけでないポリャンスキーの柔軟性である。結果としてオケとピアノが絡み合っての見事な皇帝と相成ったのである。

 満場の喝采を受けての小山のアンコールは定番の「エリーゼのために」。さすがに小山も硬質一辺倒ではないですよとばかりに女性らしい軟らかいタッチを披露するのだが、それで随所に妙な力強さがあるのが彼女らしいとも言える。

 後半はいよいよポリャンスキーが本領発揮となるのだが、もう冒頭の金管の咆哮を聴いただけでも「おっ、来た!!」と言いたくなるような演奏。まさにポリャンスキー節である。ただ残念ながら九響の技倆の限界があり、腰砕けになりかねないギリギリの危うさを感じさせる。

 ポリャンスキーの演奏の真骨頂はそのピンと張りつめた緊張感なのであるが、それを醸し出しているのが実に徹底したピアニッシモの表現である。ただ残念ながらポリャンスキーの手勢のロシア国立交響楽団と違って、九響の場合はどうしてもその部分が若干甘めになる。そのせいで緊張感が張りつめるというところまではいかない。もう少し緩めであるが陽性な演奏となる。まあこの辺りは九響のカラーでもあるんだろう。まさにフォルテッシモはガンガンと行くという印象。

 リムスキー=コルサコフの極彩色のオーケストレーションが冴え渡るのがこの曲なのであるが、それをまさに原色でぶちまけてくる演奏であり、華やかでありながら決して虚仮威しの底の浅いものではなく、心の底にまでグイグイと迫ってくる演奏。この辺りはさすがにポリャンスキー、なかなかに巧みである。九響の限界ギリギリの表現力を引き出していることが感じられる。

 壮絶にして美麗というシェエラザードに場内は大盛り上がり。それに応えてのアンコールはチャイコフスキーの「四季」より「秋」。これは以前の公演でも演奏した記憶があるが、とにかくメロメロのメロドラマで甘美の極み。厳ついオッサンから飛び出す予想外の超ロマンティック演奏である。これで場内は再度盛り上がり。


 ここまで聴いたところで、カーテンコールもそこそこにホールを飛び出す。実は帰りの新幹線の切符を既に確保してあり、その時刻がギリギリである。私と似たような状況なのかやはり飛び出している客が数名。慌てて地下2階まで駆け下りると、地下伝いで地下鉄天神駅へ。途中でキャリーをロッカーから回収すると博多駅に移動する。博多駅では完全に方角を見失って迷ったりしたが、何とか帰りの新幹線に間に合ったのである。

 結局は博多とんぼ返りという強行軍になってしまったが、さすがにポリャンスキーは博多にまで出張った甲斐を感じさせる見事な演奏を聴かせてくれた。なお2023年度にもポリャンスキー指揮の九響のコンサートが11/9に開催され、プログラムはラフマニノフのパガニーニの主題による狂詩曲と交響曲第2番ということで興味津々なんだが、開催が木曜日と平日であることから当日午後から翌日まで1日半の休暇を取る必要がありそうだし、この日はちょうど大阪フィルのメンデルスゾーンチクルス(それも私の大好きなスコッチの回)とブッキングすることから、残念ながら次回はパスするしかなさそうである。正直なところ、ポリャンスキーがまたロシア国立交響楽団を率いてやって来てくれないかと思うが、このご時世下ではそれは無理か。私としてはせめて大阪フィル辺りで客演してくれないかと思うところ。フェドセーエフが指揮したら見事にロシアサウンドになった大フィルが、ポリャンスキーの指揮でどのような音を出すのかに興味がある。

 

 

この遠征の前日の記事

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