徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

お知らせ

アニメ関係の記事は新設した「白鷺館アニメ棟」に移行します。

白鷺館アニメ棟

関西4オケ祭でブラームスの交響曲全曲演奏を堪能する(4時間の長丁場)

4オケ祭の前に美術館に立ち寄ることにする

 翌朝は7時半に起床。昨日の就寝が遅めだったのでやや睡眠不足気味。ここのホテルはとなり入浴施設が営業開始するのがチェックアウト時刻以降なので、朝風呂がないというのが難点である。無理矢理に体を起こすと朝食に出向く。

バイキング朝食を頂く

 朝食はとなりの施設の一階の喫茶になっている部分でバイキング。メニューは多くはないが、内容的にはまずまず。ご飯をシッカリと頂いてから、パンを2つほどつまむ。

 朝食を終えると荷物をまとめて10時にはチェックアウトする。今日は14時からフェスティバルホールで4オケだが、その前に大阪の美術館を回る予定。

大阪に到着したが、生憎の雨

 大阪まで突っ走るとホール近くにAkippaで確保した駐車場に車を置き、近場の美術館を回る予定だが、どうも生憎の雨でやや天候は鬱陶しい。

 この後は美術館の見学だが、その前に近くの中の島食堂(まいどおおきに食堂)で日替わり定食を昼食に摂る。今日の日替わりはハンバーグとのこと。まあ極めて普通の内容である。

昼食は日替わりのハンバーグ定食

 昼食を終えると最初に立ち寄るのは中之島キューブ(と私は呼んでいるがこれは正式名称ではない)こと中之島美術館である。

 

 

「佐伯祐三 自画像としての風景」大阪中之島美術館で6/25まで

展示は5階展示室で

 パリの画家として知られる佐伯祐三の生涯にわたっての作品を紹介する。元々大阪中之島美術館は最大級の佐伯祐三コレクションで知られているが、今回はそれを中心に各美術館から集めた作品を展示している。

 まず最初に登場するのはデスマスク・・・と思ったらこれはライフマスクらしい。どうやらノリで作ったものらしい。なお画家による自画像も展示されている。

佐伯祐三のライフマスク

そしてこれが自画像

 最初に登場するのは渡仏前に描いた作品。まだシンプルな作品である。

目白自宅付近を描いた作品

 

 

 次に第一回の渡仏後の日本で描いた作品が登場する。下落合の風景を描いたり、また滞船をモチーフにするなど、日本の風景と自身の画風の折り合いをつける努力をしていることが覗える。

下落合風景

滞船

 また彼が描いた人物画も展示。彼は身近な人々の肖像画を残しているが、これは娘を描いたものである。なお彼女は佐伯の死後にすぐに6才で亡くなったらしい。

娘の彌智子の肖像

 

 

 次のコーナーはまずは第一回渡仏の際の作品。初期の作品はセザンヌやヴラマンクなどの影響が顕著である。

この作品などはセザンヌの影響が見える

こちらはもろにヴラマンク

 その後、ヴラマンクと面会して絵を見せたところ「アカデミック」と酷評されたことを機に自身の画風を模索する時期がある。そしてパリの町並みを描き続けて、最終的にはパリの壁に自身の画風を確立する。

バリの街角を描きまくった

最終的にはこのような重厚な壁を描くように

 

 

 そして一旦帰国した時の絵画が先の下落合の風景なのだが、パリの町並みに適合しすぎていた佐伯は、様々な模索をするものの結局は日本の風景に描くべきものを見いだせず、再び渡仏してパリの風景を描き続ける。この時期の絵画は日本滞在中に滞船を描いた作品などで見られていた線へのこだわりから、結局は壁のポスターの文字をビッシリと描き込んだ独得の雰囲気が特徴となっている。

街角のポスターなどを描くようになる

細かい線の錯綜は滞船辺りからの流れ

 またパリを離れて地方の村で絵を描くなどもしたらしいが、この頃に体調を崩して寝込んでしまうことになる。

田舎の風景を描く

ほぼ最終形態

 

 

 結局はパリに戻ってきて郵便配達夫やロシア娘を描いた有名な作品が最終的に遺作となってしまう。享年30才。まさに駆け抜けるような人生で燃え尽きてしまった生涯だった。

遺作になった郵便配達夫

ロシアの少女

 正直なところ佐伯の作品はあまり好みというわけではないのだが、それでもこれだけ生涯にわたっての作品を並べられると圧倒される。自身の命を削りながら描いていた空気がヒシヒシと伝わってくるような印象を受ける。

 

 中之島美術館の次は中之島香雪美術館に立ち寄る。

 

 

「修理のあとにエトセトラ」中之島香雪美術館で5/21まで

中之島香雪美術館

 今回はやや趣向が変わっており、収蔵品を見せるというよりも、収蔵品の修理事業の家庭について紹介するといった内容。美術品も経年劣化により、汚損、虫食い、風化などさまざまな劣化が起こるが、それらの劣化を修復してなるべく良い状態で後世に残すための技術などについて紹介している。絵画などは以前の修復で裏から紙が当てられていたりすることもあるので、修復するとなるとそういうものを全て外してからの作業になるとか、極度に神経を使う細かい作業であることが良く分かる。

 掛け軸などの場合は軸装から外しての作業になるという。

作業内容が説明されている

修復なった作品

掛け軸の場合は軸装をやり直すそうな

 

 

 絵巻の場合は紙の接合部が劣化したり、巻じわに沿って傷んでいる場合などがあるので、その場合には裏から補強することもあるとか。

絵巻も細かい作業が必要

修復なった絵巻

絵巻の場合は補強作業などもあるとか

 また修復された絵画は日本画の掛け軸や絵巻だけでなく、洋画にも及んでいる。

洋画作品も修復される

修復された柘榴

 

 

 木像などの場合は虫食い部を樹脂で補強するとか、剥離している彩色の剥離止めを行うなどの細かい作業が必要となる。

木像は樹脂補強などが施される

そしてようやく展示に耐える状態に

 絹に書かれている絵の場合には、裏あてを剥がしてのかなり細心の作業になる模様。

絹の場合はさらに細かい作業が

鮮やかに甦った

 

 

 また刀剣の類いなどは錆が発生していたりするので、錆びた部分を最小限の研ぎ直しをするなどの細工が必要なようである。

刀剣の類いも修復作業が必要

鮮やかな光沢を放つ刀身

拵えなども作り直すらしい

 各美術品の修復の詳細について記されているので、修復とはいかなる作業であるのかということを実感できるなかなかに面白い試みであった。もっとも一回りしての一番正直な感想は「短気な私には到底不可能な仕事である」ということである。


 美術館2軒を回り終えたところで既に開場時刻を過ぎている。フェスティバルホールに向かうことにする。ホール内は大入り満員でほぼ満席に近い入り。私は3階の安席を確保している。なお本公演では演奏終了後の指揮者インタビュー時に撮影が可能とのこと。関西のコンサートでは珍しいが、SNSでの宣伝効果を期待してのものだろうか。もっとも現時点で宣伝しても今年の公演には間に合わないが、来年以降への宣伝効果を期待というところのようだ。

 

 

4オケの4大シンフォニー2023

◆山下一史指揮 大阪交響楽団
 曲目/ブラームス:交響曲 第3番

◆飯森範親指揮 日本センチュリー交響楽団
 曲目/ブラームス:交響曲 第4番

◆飯守泰次郎指揮 関西フィルハーモニー管弦楽団
 曲目/ブラームス:交響曲 第2番

◆尾高忠明指揮 大阪フィルハーモニー交響楽団
 曲目/ブラームス:交響曲 第1番

 

 在阪4オケでブラームスの交響曲を全曲演奏しようという力業コンサートの先頭を切って登場するのは大阪交響楽団である。大阪交響楽団といえば、ベートーベンチクルスの時にどうにも締まりのない7番を演奏したことで、今ひとつ良い印象を持っていないのが本音。今回山下一史の指揮でいかなるブラームスの3番を聞かせるか。

 冒頭からアンサンブルに今ひとつの精緻さがないのは、相変わらずのこのオケの弱点である。それでも山下の奮闘もあって「頑張っている」というのが正直なところ。山下の工夫により表現の中にはところどころ「おっ、やるな」と思わせるところが散見され、以前の緩みきった大響の演奏からはかなり進化が見られる。とは言うものの、まだ聴かせるというにはやや弛緩した部分も多いのは事実。一言で言えば「今後に期待」というところだろうか。

山下一史指揮の大阪交響楽団

 

 

 2番手に登場したのは飯森範親率いる日本センチュリー。以前のベトチクの時は小編成オケで室内オケ的田園を演奏という変化球を繰り出してきた飯森だが、やはり今回でも一番仕掛けが多いのは彼である。まずオケの配置がコントラバスを背後にズラッと並べた背面低音型配置。カーチュンなどが時折見せるが、最低音が中央から突き抜けてくるという仕掛けである。これで4番の重低音をブイブイと行かせようという狙いのようだ。

 オケの構成の方もこれに合わせて、ベトチクの小編成とは対極のトラを動員しての12-12-10-8-6という低音寄りの変則的大編成になっている。これで大迫力でブイブイという狙いも覗える。もっともこれは諸刃の剣でもあり、実際に冒頭では急造大編成の弱点も出て、アンサンブルの精度が通常のセンチュリーよりはやや落ちるという局面の覗えた。

 ただノリノリの飯森の元で、力強い演奏を繰り広げるセンチュリーは最近の演奏とはやや違った一面も見せた部分がある。まあ飯森自身も随所に彼特有の仕掛けを用意しており、演奏意図はそれなりに噛み合ったまずまずの演奏であった。

飯森範親指揮の日本センチュリー交響楽団

 

 

 休憩後の後半はベテラン飯守泰次郎率いる関西フィルによるブラームスの2番である。そもそもブラームスの2番はネットリシットリした弦楽陣を特徴とする関西フィルとは相性の良い曲である。ベテラン飯守もその関西フィルの持ち味を十二分に活かしつつ、彼特有のピリリとしたアクセントをそこに挿入していく。大病後にめっきりと衰えが見られ、特に足下が覚束なくなったことが懸念される飯守だが、その指揮にはまだ衰えを感じさせないメリハリが見られる。その挙げ句、自身も興が乗ったのか、第2楽章でいきなり立ち上がったのには驚いた。ここが聴かせどころとでもいうところか。確かに関西フィルも感情のこもった演奏を繰り広げる。

 シットリとした弦楽陣を中心に、甘くはあるが緩くはない音楽が展開された。今回の関西フィルは14型に拡大された編成となっていたが、トラを含んでの拡大にも関わらず、弦楽陣に乱れがなかったのは見事。また編成の拡大を単なる音量増加でなく、音楽としての密度を上げるのに利用していたという感がある。またオケの飯守に対するリスペクトのようなものも感じられ、ピンと1本線が通った演奏となっている。なかなかに冴えた演奏を展開したのである。

飯守泰次郎指揮の関西フィルは14型編成

飯守はまだ健在

 

 

 大トリは16型巨大編成の大フィルによるブラームスの1番。率いるは最近に進境著しい尾高忠明。

 冒頭からズッシリとしながらも重苦しくなく躍動感のある音楽が繰り広げられる。この躍動感が最近の尾高には非常に強く感じられるところであり、尾高と大フィルの意図するところがうまく噛み合っていることが感じられる。重厚であっても決してその重さに動きが阻害されることがなく、エネルギーを秘めて音楽が繰り広げられるのが、最近の尾高と大フィルの組み合わせの妙であり、それがもっとも効果的に発揮されやすい曲を得て見事に発現している。

 もう一楽章からかなりハイテンションで盛り上がったのであるが、その盛り上がりは曲が進むにつれてさらに深化する。そして最終楽章、強烈な緊張感の中で尾高の指揮の下で一糸乱れずに驀進する大フィルサウンドが実に圧巻。「大フィルってこんなに上手かったんだ」と思わせる圧倒的な音楽である。そのまま圧倒的なクライマックスを迎えて曲は終了。場内が爆発的な熱気に包まれたのも当然。私も時節柄「ブラボー」との絶叫は控えたが、思わず「これはすごい」という声が出てしまったのである。

尾高忠明指揮の大フィルは16型の大型編成

見事な演奏を聞かせた尾高忠明

 

 

新今宮の定宿で宿泊する

 大盛り上がりの会場を後にすると、車を回収してから今日の宿泊ホテルを目指すことにする。今日宿泊するのは私の定宿の一つ「ホテル中央オアシス」。毎度のようにセパレート部屋を予約しているので、ゆったりと入浴してくつろぐつもり。ただ丸4時間の長丁場コンサート終了後にホテルに到着した時は既に7時頃。部屋に荷物を置いたところでとりあえず夕食を摂りに出かけることにする。

ホテルに到着した時にはもう7時頃

 夕食といっても金のかかる新世界界隈に行くつもりはない。立ち寄ったのは近くの「らいらいけん」。ここでトンカツ定食(800円)を頂く。例によってCP最強。トンカツも専門店のような特別に凝ったものではないが普通に美味い。安くて美味い飯をしっかりと腹に入れるのである。

らいらいけん

小鉢のマカロニサラダを頂く

これで800円のトンカツ定食

 満足して夕食を終えてホテルに戻ってきてテレビをつけると、何やら「シン・仮面ライダー」の製作のドキュメントが放送されている。アクションシーン撮影の経緯についてかなり丹念に紹介しているのだが、現場のスタッフと庵野の意図するところが噛み合わずに四苦八苦しているのが伝えられている。庵野がもろに自身のこだわりを前に出しているのだが、それがあまりに漠然としすぎていて現場スタッフが理解できずに右往左往。「ややこしいオッサンだな」という現場の本音が滲んでいるのが笑えた。何やら庵野のこういう「とにかくややこしいクリエイター気質」ってのは、もろに師匠の宮崎駿から引き継いでいるようである。ただそこまでこだわった割には、今回の映画は巷では当のアクションシーンが極めて評判が悪い(何をやっているか分からないという声が多い)というのはいかなることだろうか。まあ私は以前から、庵野がオタ的なこだわりを出せば出すほど、一般が求めるエンターティーメントとはかけ離れてくるという傾向は感じてはいるんだが。

 この番組は家で録画しているはずなので、途中で風呂に入ることにする。タップリと湯を張った浴槽に体を沈めるとホッとする。そもそもそのために選んだホテル中央オアシスである。この週末の遠征は疲れ切った精神を癒やすという意味も込めている(の割には、体の方にはやけにハードなんだが)。

 入浴を終えるとしばしPC作業だが、やはり肉体的疲労は頭を鈍らせる。あまり作業がはかどらないので適当なところでベッドにゴロンと横になるが、こうなるとすぐに眠気が押し寄せる。結局この日はやや早めに就寝することになる。

 

 

この遠征の翌日の記事

www.ksagi.work

この遠征の前日の記事

www.ksagi.work