行くところがないので尼崎歴史博物館に立ち寄る
翌朝は8時前に起床、昨日買い込んでいた朝食を腹に入れると朝風呂。その後はチェックアウト時刻の11時まで原稿執筆などをしながらゴロゴロ過ごす。
さて今日の予定だが、15時からのPACのコンサート以外はキチンと定まっていない。ちなみにPACのコンサートは井上道義の公演のはずだったのだが、井上が体調を崩したらしく、急遽若手指揮者に振り替えられた模様で、その時点で「なんだかなあ」である。また開演までやや時間があるのだが、その間のつぶし方もまだキチンと定まっていない。もう半分以上は出たとこ勝負である。
11時にホテルをチェックアウトすると、まずは尼崎を目指す。昨日の夜に調べたところによると、尼崎市立歴史博物館なるものが復元された尼崎城の近くにあるという。
歴史博物館は明らかに元々学校だった建物を流用したもの。入場料が無料なのは良いが、駐車場は有料。2階の教室が常設展示室となっており、6つの教室に古代から近代までの展示だが、古代から中世をかなりすっ飛ばして近世の尼崎城の時代になっており、中世辺りがあからさまに手薄。どうも収集資料に少々偏りがありそう。
3階に企画展示室があり、内容は尼崎ゆかりの武将、細川高国、三好長慶、佐々成政にまつわる資料だが、文書中心であってマニアックで地味。そこまでコアな歴史マニアではない私には、あまりにもマニアックすぎるのでザッと流すような感じ。
歴史博物館の見学を終えると次に向かうのは大谷美術館。何やらボダニカルアートの展覧会をやっているという情報を得ている。ボダニカルアートに特に興味はないが、どこかでボーッと時間をつぶすよりは有用だろうとの判断。
「英国キュー王立植物園 おいしい ボタニカル・アート 食を彩る植物の物語」西宮市立大谷美術館で7/23まで
英国キュー王立植物園は18世紀に熱帯植物を集めて作られた広大な植物園で、同時にボダニカルアートコレクションも収蔵している。本展ではそのようなボダニカルアートコレクションから、イギリスの食について観察する。
最初は序章として農村風景を描いた作品から始まる。次は野菜の絵。中には新大陸から伝わって広がったジャガイモ、トウモロコシ、トマトなども含まれている。これらはイギリスの食生活をも大きく変化させたという。そしてイギリスで人気の果物達。イギリス菓子の定番がアップルパイだと言うが、リンゴだけでもかなりの種類が描かれている。
そしてイギリスに不可欠の茶の習慣について。最初は上流階級の楽しみだったようであり、豪華なティーセットなども展示されている。
しかしそれはやがては市民レベルにも浸透する。この頃ちょうど民藝運動が起こった時代とのことで、モリスの壁紙を背景にした素朴なティーセットが展示されている。
さらには茶だけでなく、コーヒー、カカオ、砂糖、アルコールなども様々登場したとのことで、それに関するボダニカルアートなど。
最後はハーブにスパイスの図鑑のようなものが登場するが、それを見ると一体何種類のスパイスが存在するのかと呆れるばかり、なおショウガも登場したが、なぜか根がかかれてなかったのが謎。そしてレシピ本の類いなんかも登場するようになったとのことで、一番最後はそこから雰囲気を再現した豪華ディナーの風景で終わり。
まあ正直なところ、図鑑の絵が並んでいるような感じなので、いわゆる芸術的感慨は皆無ですが、博物的興味と食から透けて見える当時のイギリスの社会なんかが結構興味深かった。
何だかんだでここで1時間弱をつぶしていた。時間が余っていたのでゆっくりじっくりと見学したのが反映したのだろう。あまり期待はしてなかったのだが、意外に面白かったので良しだろう。
昼食は洋食店に立ち寄る
そろそろ一時頃、ホールに車を置いてから西宮ガーデンズ辺りで昼食でも摂ろうかと考えていたのだが、交差点で車線を間違えて右折できず、そのまま直進したら阪急の高架まで来てしまったので、このすぐ近くにある「ダイニングキノシタ」で昼食を摂ることにする。
幸いにして車を停めるスペースも店内の席にも空きがあった。ザッとメニューを見渡して「エビフライとハンバーグの盛り合わせ雷鳥ランチセット(1500円)」を注文する。ちなみに雷鳥なのはここのマスターか誰かが鉄オタだからの模様。これ以外にもトワイライトエクスプレスセットなんかもある。
しばし待った後にまずはカボチャのポタージュスープ。これが口当たりがまろやかで実に美味である。
次は野菜サラダ。酸味のあるドレッシングがかなり多めにかかっている。
そしてメイン到着。エビフライが3本も入っているのがなかなかに豪華。また肉の感覚のしっかりしたハンバーグが美味。以前にここでハンバーグを食べた時には、ジューシーなのはともかくとしてそれが脂でベチャベチャする感覚があったが、今回はそういう不快さは感じられなかった。
正直なところ前回のアスパラカツがややハズレだったので、ここはあえて選択肢から外していたんだが、いざこうやって来てみるとなかなかに大正解だった。満足して洋食ランチを堪能したのである。
いざ、兵庫芸文へ
昼食を終えるとホールに移動、車を駐車場に置いて上がってきた時には開場間近であった。
ホール前には井上道義の体調不良で指揮者交代の案内が出ている。私は事前にtwitterで知ったのだが、会場に来て初めて知った者はドッチラケだろう。なんせコンサートのタイトルが「井上道義 最後の火の鳥」となっているんだから。なお井上自身も今回はかなり気合いを入れていた企画らしく、土壇場でのキャンセルは忸怩たるものがあったようで、プログラムパンフにかなり長々とした井上の説明書き(言い訳である)が付けてある。腎臓から来るかなりの体調不良に苦しめられてどうしようもなかったらしい。
ちなみに本日代演をする横山奏なる指揮者は、正直なところ初めて聞く人物である。1984年生まれとのことだから39才か。若手と言うよりはやや中堅にかかってきた辺りの指揮者で、国内オケのあちこちに客演歴はある模様。今回の公演はバレエ付きというかなり変則的なものだし、その内容も井上と森山開次がかなりミッチリと打ち合わせして詰めたものであるようだから、それからはみ出してしまうと破綻するので、指揮者としてはあまりやりやすい条件ではないとは感じられる。
井上の最後の公演と銘打っていたためか、チケットはほぼ完売とのことで、確かに場内にはかなりの観客が入っていたが、指揮者交代を聞いて来るのもやめた客もチラホラといるような印象は受けた。
第142回定期演奏会 井上道義 最後の火の鳥
指揮:横山 奏 (※当初発表より変更)
管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団
【キャスト】
★バレエ音楽「火の鳥」のみ出演
男 森山 開次 ★
王女の亡霊 本島 美和 ★
火の鳥 碓井 菜央、梶⽥ 留以、南 帆乃佳、浅沼 圭、⽔島 晃太郎、根岸 澄宜 ★
スタッフ
【バレエ音楽「火の鳥」】
総監督:井上 道義
演出・振付・出演:森山 開次
舞台監督:酒井 健
照明:足立 恒
衣装デザイナー:武田 久美子
衣装製作:武田久美子・工房いーち・内田智子・飯高絵莉聖・根岸麻希
金属装飾:森 千尋
美術プラン:森山 開次
プログラム
<オール・ストラヴィンスキー・プログラム>
ディヴェルティメント(バレエ音楽「妖精の口づけ」による)
バレエ音楽「火の鳥」(1910年原典版)
バレエをする関係で、ステージ奥の音響反射板を外して、オケ自体はかなり奥目に配置してステージ手前を開けた上に、センターに花道を作っているというかなり変則的な配置になっている。また音響反射板を外すことによって反響音がなくなることを補うために、電気的な音響システムを使用して補完しているらしい。もろもろ意欲的に初めての試みがなされている。
プログラムによると、オケとバレエの両メインという形にするために、あえてオケをピットに入れずにステージ上に配したのだという。井上的にはバレエ公演ではなくてあくまでオケのコンサートであるということにこだわったようである。
さて一曲目はストラヴィンスキーのこれもバレエ音楽なのだが、こちらは踊りなし。オマージュとしてチャイコフスキーのメロディを多数組み込んでいるという曲であり、そのせいかストラヴィンスキーの曲にしては非常に馴染みやすい。随所にチャイコ節の断片が入り込んでいるので、普通のストラヴィンスキーのイメージとはやや異なる感じの曲である。
横山の指揮については可もなく不可もなくというところか。今回は彼としてはあまりに自分の色を出すわけにもいかないから、どうしてもそこは抑制的にならざるを得ないだろう。オケの演奏の方は力強いし安定感もあり、なかなかに鮮烈な音色を出しているのが印象的。PACの若さが良い方向に出ている。
後半がいよいよメインの火の鳥だが、音楽に森山演出のバレエが加わることになる。シナリオはパンフに書いてあるが、元々のシナリオにかなり矛盾点があるので森山なりの解釈を加えてストーリーをアレンジしたという。
バレエを見ない私としては、今回初めてバレエの付いた火の鳥を鑑賞したのだが、こうして見てみるとなるほど、この曲はバレエの音楽だと言うことが改めて再確認された。というのも音楽を聴いているだけだとグダグダしていて意味があるように思えないシーンが、そこにバレエの踊りが加わると「ああ、こういう意味のシーンだったのか」とすんなりと納得できるのである。
全編を通して、このような「腑に落ちる」という箇所が非常に多かった。それは森山の演出が巧みにツボを突いていることも示しているのだろうと思われる。踊りについては何とも分からない(バレエ公演を見たことはなく、せいぜいオペラに付随しているバレエを見たことがあるぐらい)私にはバレエに関して云々できる資格はないが、とにかく音楽に関してはPACオケがなかなかに頑張って気合いの入った演奏をしていたように思われる。また横山もかなりしんどい条件だっただろうと思われるが、どうにか無難に井上の代役を務めきったという感を受けた。少なくても終わってから「金を返せ」になるという最悪の事態からはほど遠い見事な出来であった。
実際にいつものコンサートとは雰囲気の違ったショーに、場内の盛り上がりもなかなかだった。
これでこの週末遠征は終了である。今回はコンサートの内容がかなり充実していたというのが印象に残る。こういう「ハズレのない回」というのはありがたいところである。
この遠征の前日の記事