徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

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白鷺館アニメ棟

タダ券で出かけた江陵市交響楽団のコンサートは予想外の内容であった

タダ券をもらったのでコンサートに出向く

 今日は大阪まで江陵市交響楽団のコンサートに出向くことにした。このコンサートのことは知ってはいたが、韓国の地方都市のオケとなるとS席6000円と言われても食指が動かず、パスする予定でいた。しかし私と同じ感覚の者が多いのか、予想以上にチケットの売れ行きが悪かったと見える。さすがに直前になってあまりにガラガラだと体裁が悪いと考えたか、チケットぴあなどで派手にタダ券を配っていた。そこで私はプログラムに興味があったことから「まあタダなら良いか」と応募した次第。ちなみに指揮は巨匠チョン・ミョンフンの息子のチョン・ミンだが、彼の演奏は以前に聞いたのはイタリア交響楽団の時で、その時にはあまりにオケが下手すぎる(確か、私はこの公演をその年のワーストに挙げている)せいで、チョン・ミンの真価を判断する以前の状態になっている。

 水曜日の仕事を早めに終えると阪神高速を大阪まですっ飛ばす。前回の大渋滞でギリギリという悪夢から、早め早めに動いたのだが、案に反して阪神高速は極めて順調。結局最後まで渋滞というような渋滞はなく、しかも高速を降りてからの下道も極めて順調というあり得ない事態のために、予定よりもかなり早めに大阪に到着したのだった。

 

 

夕食はいつもの通り

 まだまだ暑いので熱中症を避けるべく阪急オアシスでライフライン(麦茶)を入手すると夕食へ。最近は夏の疲労で食欲がイマイチのこともあって、洋食やラーメンという気は起こらないので、毎度毎度の「もし私が命を狙われたら、間違いなく待ち伏せを食らうだろう」いつもの「福島やまがそば」に入店する。今回は「親子丼」に温そばをつける(900円)。

福島やまがそば

あまりに腹が減っていたので、写真前に親子丼に手を付けてしまった

 ここの丼は以前にカツ丼を食べたことがあったが、明らかに親子丼の方が美味い。鶏肉はふわっとして味もまとまりが良い。これは今後のメニューの選択の幅が増えた。

 

 

ホールはあまり人がいなかった

 ゆっくりと夕食を取るとホールに入ったのは開場からしばしたった18時15分頃。しかしホール内に人影はまばら

ホールに向かう人はあまり多くはない

 とりあえず開演までを喫茶でつぶすことにするが、これも人気の公演ならこの時間なら席が全く空いていないなんてのが普通なのに、今日は客もまばらで空席だらけ。アイスコーヒーを注文したら、合わせてサンドイッチを勧められたところを見ると、売れ残る気配が濃厚なんだろう。何やらチケットぴあがタダ券ばらまいていた理由が垣間見える。果たして演奏の方は大丈夫だろうかといささか不安が過ぎる。

アイスコーヒーでマッタリする

 しばしアイスコーヒーを頂きながらマッタリした後に入場する。場内は2階席3階席は全く使用せずに、1階席だけを使用のザ・シンフォニーホール中ホール仕様。この1階席を格好がつくように埋めたというところのようである。1階席だけを見るとほぼ満席に近く入っているが、果たしてこの中のどれだけが有料客かは不明。なお私の席は前から3列目というかぶりつき席。私の基準ではかなりクソ席だが、人によっては良い席だと考える者もいよう(コンサートを聴きに行くのでなく、見に行くような類)。どらちにしてもタダ券なので不満はない。

ステージが滅茶苦茶近い

 なお現在日本では「コロナはなくなった」ことにしているが、実際は感染者数などを詳細に公表しなくなっただけで、その裏では既に以前のピークをはるかに超える感染者がでているという。それだけにこっちも要注意である。5類になっただけで「コロナはタダの風邪」とコホコホ言いながら脳天気に表を歩き回っている生物兵器のような輩も増えてきているので。とりあえず日常ではマスクを使用しない私(私はぜん息で肺が弱いので極力マスクは使用したくない)も、ここでは自衛のためにマスクを着用せざるを得ない。もっともそれでも、真後ろにゴホゴホ言っているような奴がいたらアウトだが。

 

 

江陵市交響楽団 2023年 日本公演

[指揮]チョン・ミン
[ピアノ・オルガン]チョ・ジェヒョク
[管弦楽]江陵市交響楽団

ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲
サン=サーンス:ピアノ協奏曲 第2番 ト短調 op.22
サン=サーンス:交響曲 第3番 ハ短調 op.78 「オルガンつき」

 江陵市交響楽団は、1992年に発足し、1999年に全楽団員を正規雇用として再編したとのことだから、この時点でいわゆるプロ楽団として成立したのだろう。現在は年間60公演ほどをこなしているという。

 さてまず一曲目の「運命の力」だが、正直なところイタリア交響楽団やベルリンシンフォニカーのような演奏を予想していた私は、冒頭の金管で「おやっ」と意表をつかれる。なかなかに立派な音を出しており、演奏開始と同時にズッコケた上記の楽団などとは一線を画している。

 金管に続くさざめく弦楽などもまとまりが良く、哀愁を帯びた木管の調べもなかなかに美しい。この時点で私は「すみません。嘗めてかかってました」と懺悔である。明らかに技倆的に日本のオケに劣るものではない。またチョン・ミンの指揮も細かい仕掛けもあり、この曲のロマンティックなムードを盛り上げる。

 2曲目はソリストにチョ・ジェヒョクを迎えてのサン=サーンスのピアノ協奏曲。このチョ・ジェヒョクだが、ピアニストにしてオルガニストでもあるというまさに「鍵盤奏者」。叩くピアノと押さえるオルガンでは同じ鍵盤でも奏法が違うと思うが、この両者ともに問題なくこなす器用な人物らしい。

 サン=サーンスのピアノ協奏曲は私にとっては初めての曲であるが、第1楽章は最初からやや悲劇的な哀愁をこめたメロディーだが、チョ・ジェヒョクはそれをオルガン的な堂々とした演奏で盛り上げる。中盤以降に曲想が軽やかに転じると、そこはかなり軽快に弾きこなす。バックのオケとの連携も取れている。

 ややユーモアのようなものを感じる第2楽章、怒濤のような第3楽章。テクニックをしっかりと駆使しつつも、決して機械的な演奏に落ちないのはなかなかに見事。フランス音楽的な煌めきのようなものもしっかりと現れていた。

 さらにその妙技が炸裂したのはアンコールの「白鳥」。軽妙かつキラキラとした演奏でまさにフランス音楽そのものである。またテクニックを見せつけた感がある。

 

 

 20分の休憩の後の後半がいわゆるオルガン付き。チョン・ミンの大きめの動作でニュアンスを含んでくる指揮は相変わらず。演奏の方は第1部と第2部の前半はやや早めのテンポで重くなりすぎない演奏。第1部後半はかなり歌わせてくる。そして第2部終盤の堂々たるフィナーレにつなぐというオーソドックスであるが、よく聞いているとあちこちに細かい仕掛けやアクセントが覗える小技のある演奏。またオケも指揮者とよく連携が取れている。鉄壁のアンサンブルとまではいかないが、アンサンブルが崩れるような局面は全くなかった。なお音圧バランス的に管楽器優位に感じられたが、それは私の席がかなり極端な席であるために、ホールの他の位置でもそうかは分からない。

 あえてケチをつけるなら、演奏全体にもう少し茶目っ気ややら色気のようなものが欲しいと言うことはある。まだ「遊ぶ」だけの余裕がないのか、いささか演奏がくそ真面目な印象を受ける。恐らくチョン・ミンももっと歌う演奏を志向しているのではと感じる。

 そういう点ではアンコールで演奏した「カルメン序曲」がかなり遊び心も入ったうねるような演奏で、なかなかにこのオケのダイナミックさも感じさせた。

 

 総じての感想は「やるな」というもので、最初にイタリア交響楽団レベルを想定していたのは失礼の極みであった。私はネトウヨのような韓国人に対する差別心などは微塵も持ち合わせていないつもりだが、それでもやはり偏見のようなものがあったのは否定出来ないようだ。しかしよくよく考えると半世紀前ならいざ知らず、今や韓国や中国などは次々と優秀な奏者を輩出して、彼らが世界に飛躍している状況であることを考えると、韓国のオケが侮れなくても当然である(まあ江陵市が韓国の地方都市ということも私が舐めてかかった原因だが)。

 結果としてはタダだから満足というレベルでなく、恐らく6000円払っていても損をしたとは思わないレベルの演奏であったということである。私としては諸々の認識を新たにした次第である。こういう機会を得られたことは非常にラッキーだったと言える。