徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

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白鷺館アニメ棟

二日目は美術館をハシゴしてから大フィルのコンサートへ

大阪浮世絵美術館を初訪問することにする

 翌朝は目覚ましを7時半にセットしていたが、体から疲れが取れておらず、結局8時前までゴロゴロと動け出せずにいる。なんとか気力を振り絞って、ようやく起き出すと昨日買い込んだ食料を朝食に摂りつつ朝風呂のお湯張り。朝食が終わる頃には湯が溜まっているので朝風呂と洒落込む。

 さて今日の予定だが、15時からフェスティバルホールで大阪フィルのコンサートである。駐車場はホール近くに確保してあるが、ここのチェックアウトの10時から開演までをどうつぶすかである。とりあえず中之島美術館で開催中の「長沢芦雪展」を訪れることは予定済みだが、それだけだと時間が余りすぎる。そこでザッと調べて大阪浮世絵美術館に立ち寄ることにする。この美術館について知ったのは比較的最近。心斎橋の商店街のビルの中なので、車で行くと置く場所がないことから、車は遠くに置いて地下鉄で移動するのが賢明だろう。

 10時前にホテルをチェックアウトすると、車はアキッパで確保した駐車場へ。まずは大阪浮世絵美術館から訪問することにする。美術館は心斎橋だから肥後橋から地下鉄で四つ橋に行って、そこからプラプラ歩くことにする。心斎橋周辺のいかにも若者向けという町並みを抜けると、10分程度で美術館に到着。美術館はビルの3階なので階段を延々と登る必要ありで、これが若干しんどい。美術館はこじんまりとして落ち着いた雰囲気。また虫眼鏡を貸してくれるので、近くで細かい摺まで確認出来るというマニアックな美術館でもある。

浮世絵美術館はビルの3階

延々と階段を登った先

 

 

「二人の天才-葛飾北斎・月岡芳年-」大阪浮世絵美術館で'24.2/18まで

 月岡芳年と北斎の作品を展示。と言っても、北斎と芳年では活躍した年代も大きく違うし、互いに接点はほぼない。まあ不動の人気を誇る浮世絵の大家と、最近になってとみに注目されている「最後の浮世絵師」の作品を紹介という主旨。

複製画の北斎「凱風快晴」

 北斎の方は今まで何度も見た富嶽三十六景とかであり、それも特別に刷りの状態が良いというほどのものでもないので、改めて感心するものはない。やはりメインは月岡芳年の方になる。

こちらも複製の神奈川沖浪裏

 月岡芳年の作品は連作の「月百姿」や「大日本名将鑑」などの人物を描いたものであるが、やはり人物の内面まで描き出す卓越した描写力が光るところである。

 月岡芳年の作品以外にも師匠である歌川国芳や弟子である月岡耕魚や水野年方などの作品も併せて展示してある。芳年の作品に比べると能楽に取材している耕魚などはやや優美な感が強まるが、この辺りは明治と大正の時代の変化も反映されているかもしれない。近代版画の影響も入ってきているようで、いわゆる浮世絵の影響がかなり薄れている感も受けた。この辺りが芳年が「最後の浮世絵師」である所以かもしれない。

 浮世絵の細かい技法などにまで注目しているのがこの美術館の特徴だが、正面摺という技法を目にすることが出来る作品が展示されていた。黒一色に見える衣装が、光の角度によって模様が浮かび上がるという仕掛けであり、これは実に興味深かった。また年方の作品はエンボス加工のように用紙に凸凹をつけた仕掛けがあり、これなども近くで拡大してみないと気付かない技法であった(恐らく絵画を手に取ったら一目瞭然で気付くんだろうが)。こういうのを体感出来るのがこの美術館の面白さ。

 

 

 美術館の見学を終えると地下鉄で肥後橋に戻ってくる。次は中之島美術館だが、その前に昼食に立ち寄ることにする。金もなければ何を食いたいという希望も特にないので、目についた「中の島食堂」に入店して、カツ丼で手っ取り早く済ます。特別に美味いというものでもないが、やや甘めの味付けは私向きで、何よりも安上がりではある。

昼食は手っ取り早く美術館近くの中の島食堂

可もなく不可もなくでCPは良いカツ丼

 昼食を終えると目の前の美術館に入館することにする。それにしても入場料1800円はいささか高い。海外からの巡回展が高くなるのは円安の影響かもしれないが、国内作品ばかり集めた展覧会でも入場料が高騰しているのは、やはりいわゆる物価高である。

中之島美術館はすぐそこ

 

 

「生誕270年 長沢芦雪 -奇想の旅、天才絵師の全貌-」中之島美術館で12/3まで

会場入口

 長沢芦雪の生涯を通じての作品を展示しているが、芦雪にとって大きな転換点となった紀州訪問時の作品に結構重点を置いているのが特徴。

 展示は芦雪が応挙の元で研鑽を重ねた時期の初期作から始まるが、この頃の芦雪は応挙の画風を習得しながら、独自の画風の模索を重ねていた時期に当たる。応挙にそっくりの緻密な絵を描いているのが特徴。この辺りには参考で応挙の作品も展示されており、その中に応挙らしい子犬の絵(別名モフモフ画)なども展示されている。

 その芦雪が一皮むけるというか、はっちゃけるのが応挙の名代として紀州に行ってからである。この時に芦雪はそれまでと違って襖絵などの大作に取り組むことになるのだが、それが余程楽しかったのか気持ちよかったのが、それまでの応挙風の緻密な描写から、一転して豪快で大胆な筆遣いに転じる。実際にこの時期は、興が乗れば依頼に答えて即興的に描くなんてこともあったと聞く。とにかく描くことが楽しそうである。

 この後は晩年の作品となるのだが、ここで先に同時代の画家である曾我蕭白と伊藤若冲の作品が展示されている。やはり共に奇想の画家であって傑出している人物であるだけに、その作品も印象深い。この時代の京都画壇の華やかな空気が伝わってくるようである。

 晩年になると芦雪は、安定した技術の上に自由な精神を体現した独自の境地に至った作品を製作する。伸びやかにザクッと描いているような作品でも、構成的な安定感が揺るがないのはやはり卓越した基礎的な能力の高さであろう。結局は芦雪は大阪で45才で突然に客死する。あまりに突然すぎる死に暗殺説まであるようであるが、あまりに惜しすぎる早逝であるのは間違いない。

これが写真撮影コーナーだそうな

 

 

 なお現在は前期展示中で、11/7から展示作を入れ替えて後期展示になる模様である。作品目録を見るとほとんどの展示作が入れ替わりになるようなので、これは後期展示も見る必要があろう。なお本展の半券で来週から開催されるテート美術館展の入場料300円引き特典があるようなので、来月に合わせ技で見学したいと思っている。

テート美術館展は間もなく開催される

 美術展の見学を終えた時には開場時刻が近づいてきているのでホールに向かうことにする。今日は尾高の指揮で彼の得意なイギリスもののウォルトンである。比較的レアなプログラムではある。

フェスティバルホールへ

本日の催し物

 

 

大阪フィルハーモニー交響楽団 第572回定期演奏会

最初のモーツアルトは小編成

指揮/尾高忠明
ヴァイオリン/岡本誠司

曲目/モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲 第3番 ト長調 K.216
   ウォルトン:交響曲 第1番 変ロ短調

 一曲目はモーツァルトのヴァイオリン協奏曲。モーツァルト向け小編成の大フィルが思いの外まとまったアンサンブルを披露する。アンサンブルの精度としては昨日の関西フィルよりも上を行っている。尾高の指揮はメンデルスゾーンチクルスでも見せるようなモダンアプローチである。良い音色でなかなかに叙情的なモーツァルトという印象。

 岡本の演奏も基本的に尾高と同じアプローチで、実に綺麗な音色で情感の籠もった演奏である。ややロマン派寄りのモーツァルトという印象を受ける。

 大歓声を受けての岡本のアンコールはトルコ行進曲。ピアノ曲をヴァイオリンで弾くというのに驚いたが、基本的にメロディラインが1本のはずのヴァイオリンで、貧弱になったという感を受けずにピアノ曲が弾けるということに驚き。

 休憩後の二曲目は私には初めての曲のウォルトン。正直なところ、かなり激しい曲というかうるさい曲という印象。第一楽章なんかは終始ドンガンばかりだし、緩徐楽章かと思っていたら、それが後半になったらやっぱりドンガン始めるのでかなり面食らう。同じイギリス音楽といっても、エルガーともヴォーン・ウィリアムズともかなり違う。まあ作曲者が違うんだから曲が変わるのは当然といえば当然であるが。

 そういう曲調なので、下手すれば騒音だけで滅茶苦茶な演奏になる危険もあるのだが、流石にそこはイギリス音楽が得意と言われていて、わざわざこの曲を選んだぐらいだから尾高はこの曲をキチンと把握しているようであり、要所要所を押さえて引き締まった演奏をしている。

 大阪フィルの演奏もかなり冴えている。特に近年はアンサンブル力の向上がめざましいように感じられるのであるが、それがふんだんに発揮されたかなり明快でキレのある演奏であった。結局は終わってみれば見事の一言。

 

 

この遠征の前日の記事

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