徒然草枕

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九州まで行けなかった昨日のポリャンスキー九響の公演をライブアーカイブで堪能する

カーテンコールでポリャンスキー指揮の九州交響楽団

 先日、大フィルのメンチクに大阪まで出向いたところであるが、ちょうど同じ時間帯に福岡ではポリャンスキー指揮の九州交響楽団のコンサートが開催されていた。ポリャンスキー一推しの私としては、本来なら福岡まで出向きたいところだったのだが、残念ながら大フィルとスケジュールが衝突してしまったのと、そもそも現在は福岡まで出向くだけの財力が無い。と言うわけで、カーテンコールで行われるライブ配信のチケットだけを確保していたという次第。

 そのアーカイブ配信が本日の夜から行われた(11/23までである)。そこで本日、早速それを視聴することにした次第。

curtaincall.media

 

 

九州交響楽団第417回定期演奏会(アクロス福岡大ホール)

指揮:ヴァレリー・ポリャンスキー
ピアノ:牛田智大

ラフマニノフ パガニーニの主題による狂詩曲
ラフマニノフ 交響曲第2番ホ短調

 ラフマニノフプログラムの一曲目はソリストに牛田を迎えての狂詩曲。デビュー当時はまだ子供だった牛田も既に体格も立派な青年になっている。それに連れて明らかに演奏の性格も変化している。かつては上手くはあるが優等生的で今ひとつ特徴の無い演奏という印象であったが、近年の牛田はその演奏も円熟味を増してきて、表現もかなり濃厚になってきている。

 今回の演奏もその延長線上にある。いきなり今までこの曲で聞いたことのないような緊迫感のあるおどろおどろしい演奏で始まったから度肝を抜かれる。私のこの曲に対する印象はもっと軽妙なものだったので、このような演奏を耳にするのは初めてである。牛田は時には激しく、時には素っ気ないぐらいに淡々と目まぐるしい表情をつけながら演奏をする。

 しかもただ単にガンガンと弾くだけではない。状況に応じてしっかりと美しく歌う。そこには独自のアクセントなどもあり、かなり個性の出た演奏である。

 ソリストがこういう自在な演奏を始めると、往々にしてバックのオケは戸惑って四苦八苦するものである。しかしそこは大物ポリャンスキー、全く動じる様子は微塵もなく、牛田からの呼びかけに応じて巧みな指揮でオケをコントロール。オケもポリャンスキーの指揮の下で全く迷いのない演奏を繰り広げる。おかげで今まで聞いたことのないような緊迫感がありつつ美しい狂詩曲と相成ったのである。

 

 

 後半は交響曲第2番。近年になって演奏機会も増えてきたというものの、まだまだ知名度が高いとまでは言い難い曲である。私はこの曲については今まで何度かライブでも聴いているが、正直なところあまり良い印象は持っていない。と言うのも、とにかくガチャガチャとして五月蠅い、音楽自体がいささか粗野で下品である、構成が冗長に感じられるなどである。

 しかしポリャンスキーの手にかかると、いきなり「あれ?ラフマニノフの2番ってこんな曲だったっけ?」と驚く羽目になる。あのやかましくてダラダラしたように感じられる音楽が引き締まって、しかも弦楽陣を中心に非常に美しい。第一楽章などその美しさに戸惑っているうちに音楽に引き込まれてしまった。また九州交響楽団の演奏も見事。私の今までの体験では、このオケは元気ではあるがやや雑な鳴り方をするところがあったのだが、ポリャンスキーの手にかかるとそこにピンと1本の筋が通る。

 野蛮な大行進になりがちの第二楽章についても、豪快ではあるが決して粗野にならない。かなり繊細にコントロールしている様子が覗え、この辺りがポリャンスキーが単なる爆演指揮者ではないという証明でもある。そして第三楽章では弛緩することなく天国の如き美しさを繰り広げる。

 そしてこれも単なるドンチャン騒ぎになりがちな最終楽章であるが、ここでも要所要所をしっかりと引き締めてくる演奏。また音楽の所在を失って冗長に感じられがちのこの楽章を、見事にオケをコントロールすることで美しさに満ちて退屈をする暇のない高密度な音楽へと展開する。結局は最後までポリャンスキーマジックに翻弄されたまま終曲と相成ったのである。


 ポリャンスキーが単なる爆演指揮者でないことは既に公知であると思うが、やはり只者ではないということを再確認させられたのである。なんせポリャンスキーの手にかかるだけで、九州交響楽団の鳴り方一つとっても明らかにワングレードアップする。ほぼ満員のようであったアクロス福岡は大盛り上がりのようだったが、私も「ああ、やっぱり生で聞きたかったよな・・・」とどうしても思ってしまったのである。