新年最初のコンサートはプラハ交響楽団
さて長かった年末年始連休も本日が最終日と言うことで、かなりドヨーンとしたブルーな気持ちを引きずっているところである。で、今日はその気持ちを引きずったまま西宮まで遠征することにする。目的は兵庫芸文で開催されるプラハ交響楽団の新年コンサート。例年この時期ぐらいに開催される「コスト的にお得なコンサート」である。
開演が14時とやや早めであることから、午前中には家を出て阪神高速を突っ走る。高速はまだ世間的には仕事始めになっていないところが多いことからか、いつもよりはかなり車両数が少なく、毎回必ず渋滞の発生する京橋周辺までスムーズに走り抜けることが出来る。おかげで昼頃には西宮に到着する。
さて昼食を考える必要がある。まだホールの駐車場に車を入れるのは早すぎることから、西宮ガーデンズに車を置いてレストラン街を散策。しかしどこの店も大行列、10組以上はどこも待ち客がいる状態。さらに私が目を付けていた店は閉店(私が良いと思った店に限ってこれが多い)という羽目で、どこにも入店する気が起こらない。結局は30分ほどレストラン街を散策しただけで出る羽目になってしまう。
仕方ないのでホールに向かって地下駐車場に車を置くと、ホール周辺を徒歩で店を探してウロウロ。しかしそもそもこの界隈は店自体はあまり多くない上に、肝心の私自身が何を食べたいという食欲が全く起こらない。確かに今日はやや遅めにカッチリ目の朝食を摂ってはきたが、どうもそれだけではないようだ。意欲の低下というやつである。例年この時期には冬ウツの症状が出てきたりするが、それがさらに諸般の環境のせい(公私共にかなり状況が悪化して精神的に追い詰められつつある)で悪化していて、バイタル及びメンタルの双方が落ちている状態なので、根本的な生命力自体が極度に低下している感じである。現在の状況を一言で言えば「自ら死のうとは思わない。しかし死が向こうから迫ってきた時、積極的に逃げようという気も起こらない」という状況である。
ホールは4階の天井桟敷
結局はホールの周辺を一回りウォーキングしたような状態で戻ってきてしまう。仕方ないのでホール隣接の喫茶室に入ってアイスコーヒーを飲みながら、この原稿を打ちつつ時間をつぶすことに。かなり不毛ではある。
開場時刻を過ぎたところでホール入りする。今や「コスト的にお得なコンサート」と言ってもアホノミクスによる狂乱円安のせいで、私が買える妥当な価格のチケットはC席ぐらいと言うことで、今回は4階のまさに天井桟敷である。延々と階段を登る必要がある(一応はエレベーターもあるが)。途中の3階には空中庭園があるのがこのホールの特徴。
4階席はとんでもなく高い位置にある。それでも見切れでないのはホールの設計の良さと言うべきか。4階席はほぼ満席の印象だが、上から見下ろす下層階席には空席も目立つ。これも政府の施策で意図的に貧困化させられた庶民の光景である。高価なチケットを買う金などはすべて竹中平蔵らに中抜きされたということだろう。その内に安席さえ庶民に手が届かなくなり、外来オケの来日もなくなるという時代の到来か。
プラハ交響楽団「新世界」
指揮:トマーシュ・ブラウネル
チェロ:岡本侑也
ドヴォルザーク:「伝説」op.59より 第3曲
ドヴォルザーク:チェロ協奏曲
ドヴォルザーク:交響曲第9番<新世界より>
アンコール曲
ドヴォルザーク:スラブ舞曲 第10番、第15番
チェコはチェコフィルを頂点に多くのオケが存在するが、その1つがこのプラハ交響楽団。一曲目は私の知らない曲なので、演奏内容に云々はしにくいが、言えることはやはりアンサンブルの精度という点ではチェコフィルなどとは比較にならない。どうしてもややガチャガチャするところがある。演奏自体の印象はかなり元気な演奏というもの。やや早めのテンポでブイブイと演奏している。
ブラウネルの指揮についてはかなり特徴が薄いというのが特徴である。指揮もオーソドックスにテンポを取るのが中心に思われ、特別にオケに指示を飛ばしているという様子が見受けられないように思われる。
オケを14型から12型に縮小してのチェロ協奏曲も同じ調子で、結構早めにサクサクと進んでしまいそうになるので、そこに味やら情緒やらを加えるのが岡本の仕事。彼のチェロ自体は情緒を込めて謳ってくるので、バックのオケをそっち方向に引っ張る役割を果たしている。
メインはこのオケにとっても十八番だろうと思われる新世界。この曲になるとチェコのオケはどこでも新世界ブーストがかかって、アンサンブルの精度が1ランク上昇するという加護が得られることになっている。このオケもその通りで、殊更にブラウネルが何かを指示しているようにもうかがえないにも関わらず、第一楽章などはメリハリがついて切れ味も鋭く、さらに謳うべきは謳わせるという極めて印象深い演奏をする。
ただ第二楽章になると、どうも本来のこのオケの特性であるサクサクと進めたがるという傾向が現れる。もう少しネットリと謳わせれば良いのではというところで、サクサクと音楽が先に進んでしまう印象で、どうにも淡泊である。
その一方で逆に第三楽章でところどころテンポを落として謳わせていたのに驚いた。これはテンポを取っているブラウネルの指示だろうか? 正直なところ私にはいささか極端気味に感じられた。
そして最終楽章。予想通りではあるが、オケはいきなりノリノリでバリバリに格好良く演奏してくる(実はギリギリ危ない場面もあったのだが)。そして最後まで終始一貫でノリノリの演奏でクライマックスまでというところ。ブラウネルはノリノリのオケの邪魔をしないようにという大人しめの印象の指揮。
結構な盛り上がりにアンコールは二曲。予想通りにスラブ舞曲である。10番はお約束と言えるが、15番は若干珍しいか。もうこの曲になるとオケが完全にノリノリで、ブラウネルも「どうぞご自由に」という雰囲気。要は終始ノリが良くてややせっかち気味のオケに、印象の薄い大人しめの指揮者の組み合わせという感覚を受けたのである。
なお新年早々に能登が地震で大変なことになっているが、西宮のホールの4階席もチェロ協奏曲のクライマックス手前で微妙な揺れが感じられた。恐らく能登で今でも続いている余震の一環だろうと思われる。早い終息を願いたいところ。