徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

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白鷺館アニメ棟

島成園ら女性画家の絵画を堪能してから、N響コンサートでソヒエフの興味深い「英雄」を

N響コンサートのために大阪へ

 この週末はN響のコンサートのために大阪まで出向くことにした。それにしてもN響のコンサートの情報はいつも唐突に伝わってくるのだが、今回もそうだった。やっぱりN響のチケットは何かコネでもないと入手しにくいのか?

 コンサートは土曜日だが、開演は16時と通常よりは若干遅いN響タイム。この日はとりあえず昼前に大阪に向かうことにする。交通費の節約のために今回はJRを使用して大阪まで。大阪には昼過ぎに到着する。

 まずは昼食を。ゴタゴタ考えるのも面倒くさいので阪神梅田西口の「ミンガス」「ロースカツカレー(860円)」を頂く。特別に美味しいカレーというわけでもないが、私には懐かしい味ではある。酸っぱい白菜のピクルスが口直しに良い。

阪神梅田西口の「ミンガス」

ロースカツカレー

 腹を満たすと肥後橋まで移動する。N響のコンサートの前に立ち寄っておきたい場所がある。それは大阪中之島美術館。ここで開催中の展覧会も今回の遠征の目的である。

中之島キューブこと中之島美術館へ

 

 

「女性画家たちの大阪」大阪中之島美術館で2/25まで

記念写真スポットはやはりあります

 やはり大阪画壇を代表する女性画家となると、島成園である。島成園は京都画壇の上村松園、東京画壇の池田蕉園らと共に「三都三園」と呼ばれ評判となった。その島成園の作品群が第一部となる。伝統的な浮世絵の流れを汲む美人画家から、大正期に時代の影響を受けた作品まで登場する。島成園が一躍有名となったのが女の情念を滲ませた「無題」。さらにもろに大正デカダンスの時代の影響を受けた「伽羅の薫」辺りが話題となった。この時期は甲斐庄楠音や岡本神草などの怪しげな絵画が登場し、北野恒富などもまさに黒恒富が登場していた時期である。ただ成園自身の創作活動は、この頃に銀行員の男性と結婚したこともあり、家庭と創作の板挟みの中で創作活動はやや低迷していくのである。

 第二部は島成園に加えて、彼女から刺激を受けた女性画家、岡本更園、木谷千種、松本華羊の四人の特集となる。彼女たちは「女四人の会」での展覧会を実施、未だ男尊女卑の気風の強い中で彼女たち「生意気な女性たち」は反発も受けたようだが、それでも展覧会はかなり話題となったという。本展ではその展覧会に出展した作品も展示されている。それぞれ個性があるが、岡本更園の作品は島成園と似たところがあるのを感じた。なお木谷千種は後に画塾を開いて多くの女性画家を育てている。

女四人の会の面々、左から岡本更園、木谷千種、島成園、松本華羊

 第三部に登場するのが南画の世界での女性画家たち。南画はいかにも男性の絵画のイメージが私には強かったのでいささか意外だったが、実はむしろ美人画などよりはこの世界の方が昔から女性画家は多かったのだという。もっともかなり形が決まっている絵画であるので、個々人の個性はやや薄い感がある。

 第四部は大阪の風俗などを描いた生田花朝の世界。やまと絵の流れを汲むと思われる柔らかいタッチで祭りの風景や寺院の風景など大阪の風俗を描いた好ましい絵画である。

 

 

 第五部がその後の女性画家たちであり、ここのセクションが撮影可。時代が変わってまさに百家争鳴のごとくに登場する女性画家たちだが、島成園に学んだという女性画家から、木島千種の画塾出身者と北野恒富の画塾出身者がやはり中心となっている。

 秋田成香、伊藤成錦、平山成翠、金澤成峰、三笠成雅、高橋成薇らは皆、島成園に習った画家たちである(だから雅号が成○ばかりなんだろうが)。

秋田成香「ある夜」

伊藤成錦「扇売り」

平山成翠「童女」

金澤成峰「哀しみ」

三笠成雅「王朝美人」

高橋成薇「秋立つ」

 

 

 一方、木島千種の門下からは菅野千豊、西口喜代子、三露千萩、石田千春ら。

菅野千豊「舞妓」

西口喜代子「淀殿」

三露千萩「編み物」

石田千春「めんない」

 

 

 北野恒富門下では雪月花星と呼ばれた星加雪乃、別役月乃、橋本花乃、四夷星乃ら。

星加雪乃「美人」

別役月乃

橋本花乃「七夕」

四夷星乃「少女」

 

 

 後は一時土田麦僊門下で20代後半で早逝したという鳥居道枝の独得の絵が印象に残った。

鳥居道枝「燈芯」

岩絵具で洋画的表現に挑んだという実験作「少女像」

 しかし結局は島成園に尽きるように思われる。

島成園「自画像」

 

 

 展覧会の見学を終えると駅に向かう。なお中之島美術館の隣の国際美術館では近々「古代メキシコ」展が、中之島美術館では「モネ」展が開催の予定。なおモネ展には今回のチケットを持参すると割引がある模様。これらの展覧会もいずれ訪問する予定である。

国際美術館の次の出し物

中之島美術館はこれ

 肥後橋駅まで移動すると、NHK大阪ホールへと地下鉄で移動する。既にホール手前には行列が。開場時刻になるとゾロゾロとエスカレーターで上がって入場ということになる。私の席は一階席のやや右寄りである。

NHK大阪ホール

エスカレーターをゾロゾロ

入場

 

 

NHK交響楽団演奏会大阪公演

本日の出し物

指揮:トゥガン・ソヒエフ
ヴァイオリン:郷古 廉(N響ゲスト・コンサートマスター)
ヴィオラ:村上淳一郎(N響首席ヴィオラ奏者)

モーツァルト/ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K. 364
ベートーヴェン/交響曲 第3番 変ホ長調 作品55「英雄」

 一曲目の協奏交響曲はとにかく郷古のノリノリの演奏が目立つ。郷古が前に出ようとするから、それに合わせて村上の方もそれにタイマンを張るにはかなり気合いの入った演奏をせざるを得ない状況になる。結果として極めてノリの良い陽性な、いかにもモーツァルトらしい爽やかな演奏になったという印象。

 二人の息のあったアンコールも披露されて大盛り上がりになったところで休憩、休憩後はソヒエフによる「英雄」である。

 ソヒエフは先のウィーンフィル来日公演でも見せたが、とにかくドラマチックな演奏をする指揮者である。あの時には見事にウィーンフィルをコントロールしていたが、今回もN響を見事にコントロールして、かなりメリハリの効いたドラマチックな音楽を展開した。それがまたこの曲のイメージを一新するような演奏である。非常に生命感に満ちた演奏なのであるが、それが故に今までの英雄の戦いや人生を描いたというイメージの第一楽章とは違い、ここに浮かび上がる英雄像はもっとシニカルでユーモラスでさえある。意外に「堂々たる英雄」というよりは、むしろ時流に乗っかって半分運で英雄になってしまった人物なんではないかという妄想が浮かぶのである。

 そしてさらに驚いたのが第二楽章の葬送行進曲。これが全く葬送でない。音楽が完全に重苦しい葬送曲でなく、もっとゆったりとした英雄が自身のこれまでを振り返るかのような印象である。まあすべてが思い通りに行ったわけではないが、それでもマズマズだったか。時折「こうすれば良かった」という感情が沸き上がったりするが、まあそれても概ねなるようになったのではないか・・・という感じである。

 音楽は軽妙な第三楽章を経て、堂々のフィナーレへ・・・なのであるが、音楽があまりに活き活きしていて堂々のというよりも、飄々としたという少々すっとぼけた印象さえ受ける。最後の最後になって、実はこれまで描かれたのは「英雄の一生」ではなくて「ほら吹き男爵の生涯」だったのではという印象さえ受けたのである。

 さすがにかつて白鳥の湖を映画音楽のように演奏したソヒエフらしく、今回もなかなかに個性的で壮大なドラマを展開してくれた。これだけカッチリと統制の取れたN響というのもあまり記憶にないし、演奏は極めてダイナミック、今回のような新しい英雄像も非常に興味深かった。なお私の表現の拙さのせいで、私は今回の演奏に非常にネガティブな印象を持っているのではないかと誤解される向きもあるかもしれないが、実は私は非常に楽しんでおり、「流石にソヒエフ」と感心したということを最後に記しておく。

本公演ではカーテンコールでの撮影可

ソヒエフも満足げである