徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

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アニメ関係の記事は新設した「白鷺館アニメ棟」に移行します。

白鷺館アニメ棟

モネ展、古代メキシコ展などを見てから、大阪フィルの井上道義ファイナルの大熱演に触れる

朝食は近くの喫茶店で

 翌朝は8時に起床。とりあえず着替えると朝食のために朝の町に繰り出す。この界隈は昔ながらの早朝から営業している喫茶店が多いのが特徴の一つ。既に営業していた「ロミ」に立ち寄ることにする。

喫茶店「ロミ」

 ここは喫茶店と言いながらも食事メニューもあるようである。モーニングメニューに「朝ご飯定食(500円)」なるものも含まれている。私は「玉子サンドのモーニング(400円)」を注文する。

珈琲と卵サンド

 意外にボリュームのあるモーニングである。サンドが卵焼きなのがうれしい。これで400円というのは驚異だが、さすがに昨今の物価高騰が影響したようで、店内には3月から価格を上げるという張り紙がでている。どこもここもアホノミクスのせいでとんでもないことになっている。

 

 

 朝食を終えるとホテルに戻る前にドン・キホーテに立ち寄ってバスタオルを入手しておくことにする。私はドンキは24時間営業だと思っていたのだが、どうやら朝9時から翌朝5時までとのことで、営業開始まで5分ほどある。入り口前には既にスタンバイ状態のアジア人らしき面々が。ちなみに隣のパチンコ屋にも開店待ちの連中がいるが、一様に目に生気がない廃人のような表情をしている。競馬の場外馬券売り場などで見かけるタイプの連中だ。なお大阪をこういう連中だけの町にするのが、カジノ利権最優先の維新の理想のようである。

ドンキとパチンコ屋が同居

 バスタオルを購入してホテルに戻ると、それを持って早速朝風呂に。本当は真新しいタオルは大抵汚れ防止に撥水処理をしているので一度洗濯してからの方が良いんだが、この際は贅沢を言っていられない。風呂で体をほぐすが、昨晩に湯の中で結構徹底的にほぐしたのが幸いしたのか、目下のところは体に特に異常はない。もっとも「忘れた頃に症状が出る」のがジジイの特性だから油断ならんが。

 さて今日の予定であるが、メインは15時からフェスティバルホールでの大フィル定期演奏会。今回は井上道義のファイナルである。ただその前に周辺の美術館に立ち寄るので、今日は肥後橋周辺をウロウロすることになる。

中之島美術館へ

 まずは中之島美術館からである。ここではモネ展が開催されており、先程の大阪の女性画家達展の半券持参で100円引きになる。と言っても入場料2400円とかなり高い展覧会である。なお会場は大混雑で驚く。そう言えば日本で混雑する展覧会のお約束は「エジプト、浮世絵、印象派」だった。最近はコロナの影響でしばらく大規模展覧会がなくなっていたのですっかりボケていた。

エレベーターからこの混雑

 

 

「モネ 連作の情景展」中之島美術館で5/6まで

会場入口

 国内外から70点以上ものモネの絵画を集めた久々に大規模な展覧会である。かなりのキラーコンテンツと言えるだけに場内は人で一杯。おかげで美術品鑑賞のコンディションとしてはかなり悪い。

 最初はモネが印象派を確立する以前の初期の作品から始まる。もう既にこの頃から後の絵画の特徴は現れているが、まだ光が煌めくところまでは行っていない。そうなるとアカデミズム派の連中から「未完成の絵画」と酷評された荒さが目立つことになる。決して雑に描いている絵ではないが、アカデミズム系の絵と比べるといかにも簡素な絵画に見える。

 それが光の揺らめきを捕らえる印象派へと進化する。モネは光を捕らえるためにかなり実験的な作品にも挑んだので、同じ構図の絵画を量産している。同じ場所での光の移ろいを記録したわけだが、中にはほとんど違いの分からないような作品も存在する。この辺りが表題ともなっている連作の情景である。

ウォータールー橋、曇り

ウォータールー橋、ロンドン、夕暮れ

ウォータールー橋、ロンドン、日没

 光の状態が様々なので、いかにも印象派という煌めく絵画もあれば、どんよりした重い色調の絵画もある。まあ一般受けするのは間違いなく前者であると思われるが、その手の作品は意外に日本の美術館の所蔵品が多い。こうして見ると、日本の美術館は結構モネの傑作を押さえているなと妙なところに感心する。

 

 

 最晩年は有名な睡蓮の池の連作になるが、延々と睡蓮ばかり展示する展覧会が多い中で、本展は意外とそれ以外の作品の比率が高いということを感じる。まあモネを把握するのに非常に適した展覧会であるという感想である。モネを堪能するには十二分。もっとも私の場合は今までに何度かモネ展の類いは見学しているので、同じような絵画ばかりなのはいささか食傷気味になるのは本音。また国内出展作の場合は「見覚えがある」という作品が多数。これは致し方ないところ。

睡蓮、柳の反影(北九州市立美術館所蔵)

睡蓮の池

睡蓮の池(石橋財団所蔵)

睡蓮(群馬県立近代美術館所蔵)

芍薬

 

 

 会場では物販の方も力が入っていたようであるが、何と行列が階下まで続いている状態で、果たして購入までどれだけ待たされるやらというところ。これだとネット通販でもやった方が良いような気もするが。なお私はグッズには興味がないのでスルー。

物販コーナーはこの様子

 本展は一部作品が撮影可であったが、それはラスト部分(睡蓮の会場)に固まっており、その会場では大撮影大会。こんな時にはサッと撮ってさっさと退くのがマナーだが、なぜかモタモタとしている者もいる。画角がどうとか言うようなものでもないし、ピントや絞りはスマホにお任せのはずなのに。ちなみに以前には写真でなくて動画を撮影している意味不明の輩に出くわしたこともある。なお一つだけ要注意は印象派の絵画はピントをスマホにお任せしていたら、たまにピンぼけになることがある。一応は撮影後に確認しといた方が良いだろう(絵の前から退いてから)。


 モネ展の見学を終えると次は隣の美術館に立ち寄ることにする。元々現代アート系の催しが多いことから、ここも長いこと来ていない気がする。

隣が国立国際美術館

 

 

「古代メキシコ-マヤ、アステカ、テオティワカン」国立国際美術館で5/6まで

美術館入口

 太古よりメキシコ地域で興隆してきた文明の産品を紹介する展覧会。まずは歴史的には一番古いメキシコ中部の山岳地帯で栄えたテオティワカンについての産物を紹介する。

 時代的には一番古い年代の当たるからか、かなり素朴でシンプルな物が多い。しかしその割には意外に凝っている。また動物の描写などは正確であるし、絵画には中南米に特有の力強いタッチがこの頃から既に現れていて、いわゆるプリミティブアートとしても興味深い。

テオティワカンのモザイク立像

造形が秀逸な鳥形土器

これは香炉らしい

羽毛の蛇ピラミッドの地下トンネルで見つかった品々

 もっともこの地域の文明を語る上で避けて通れない暗黒面である生け贄文化を象徴する品も展示されている。これこそがこの地域の文化が「未開な野蛮なもの」と排除される大義名分にされたものでもある(もっともそれを行ったヨーロッパはさらに野蛮な略奪と虐殺を行ったのだか)。

生贄の肩に刺さっていた儀式用の翡翠の錐

 

 

 次はマヤ文明に関する事物。様々な点でより洗練されたような出土品が多い。

支配者層の土偶

吹き矢を使う狩人の土器

貴婦人の土偶

 また天文学が進化していたマヤらしく、天文に関する出土品も。

金星周期と太陽暦を表す石彫

 

 

 マヤは広範囲に及ぶ都市国家の連合体のようなものであるようである。その中でも勢力を誇ったパレンケに関する展示が多数。先のテオティワカンと類似している部分も多い。

パカル王の頭像(複製)

香炉台

 なお近年に発掘された翡翠のマスクを付けた王妃の墓の様子が再現されている。この地域ではやはり翡翠は身分の高さを示すものであったようだ。

発掘された王妃の墓

翡翠のマスクを付けている

 

 

 次が年代的には一番新しいアステカにまつわる事物。いきなり目につくのがガッチャマンの像(笑)。鷲の戦士らしいが、やっぱり「大鷲の健」?

ガッチャマン 鷲の戦士の像

 神殿から出土の神をかたどった壺などが展示されているが、やはり造形の妙がすごい。

雨神トラロク神の壺

プルケ(発酵酒)神パテカトル像

 以上、正直なところメキシコの文明に関する知識も大してなく、興味はさらにないという私であったが、実際に見学をしてみるとどうしてどうして非常に面白かった。先程の人の背中ばかりを見ることになる「モネ展」よりは充実していたかもしれない。

 

 

昼食は近くの定食屋で

 メキシコ展を堪能し終えた時には既にお昼時を完全に過ぎていた。とりあえず次の移動の前に昼食を摂りたい。この辺りで思いつく店と言うことで「ちいやん食堂」に立ち寄って「一日定食」を頂く。今日のおかずは鯖の竜田揚げ。

ちいやん食堂

 例によって何かと野菜が多くて栄養バランスの良い内容。この年になってくるとこういうメニューが一番ホッとする。

野菜豊富な一日定食

 昼食を終えるとホールに向かうが、その前に今日の最後の美術館に立ち寄る。

 

 

「刀と拵の美」中之島香雪美術館で3/17まで

中之島香雪美術館に立ち寄る

 同館が所蔵する刀剣コレクションを展示した展覧会。日本刀とは単なる殺人兵器を越えた美術品的美しさを持っているという難解な代物である。日本刀を眺めていると「こんなものに斬りつけられたら洒落にならん」と思いつつも、その美しさに魅せられるという相矛盾する感情を抱かされる。

山城吉家作の太刀

備前正恒作の太刀

和泉守藤原兼定作の刀

 なお会場には刀の種類に関する説明があり。平安後期から室町初期までは馬上で使用することを想定した太刀と呼ばれる70~80センチの刀を刃を下にして腰から吊すというのが主流だったらしい。しかし室町中期からは徒歩での集団戦が増えたことから、刀(打刀)と呼ばれる60センチぐらいのものを刃を上にして帯に指すというのが主流になったとか。なお脇差しは長さ30センチぐらいの補助刀(相手を組み伏せたときに首を取るのに使ったと聞いたことがある)で、短刀はそれ以下の短い刀で護身用などに使われる平作りのものが多いという。

長船修理亮盛光の脇指

相州国光の短刀

 

 

 拵なども工芸品の極みである。このような装飾を施すというのがまた日本刀の特有のところではある。

金梨子地菊三蝶紋蒔絵糸巻太刀拵

木地呂雲文蒔絵刀拵

鍔も展示されている

このようなタイプも

 以前は刀剣乱舞の影響とかで、刀剣展の類いは妙に場違いなミーハーな雰囲気の女性が多数押しかけるなんてこともあったが、そのブームも落ち着いたのか、静かにゆっくりと刀剣を鑑賞するというタイプの観客が多かったようである。もっともやはり刀剣の類いは私にはややマニアックに過ぎる感はある。

 

 

 これで美術館の予定は完全終了である。既に開場時刻を過ぎているのでホールに入場する。開演までは例によっての堕落の象徴のホール内喫茶での一服。アイスコーヒーを頂きながらの毎度のような原稿執筆だが、以前にも言ったようにここの喫茶は座席がないのがツラい。もう既に1万歩を越えている私の足腰はガタガタである。

アイスコーヒーを頂きながらしばし時間つぶし

 開演時間が近づいたところで座席に着く。場内は大入りでほぼ満席の状態。チケットもほとんど捌けていると聞いた。今回が井上の大阪フィルファイナルと言うことで観客の方も気合いが入っている模様。恐らく長距離遠征組もいるだろう。

本日の出し物

 

 

大阪フィルハーモニー交響楽団 第575回定期演奏会

かなりの大編成用の用意がある

指揮/井上道義
バス/アレクセイ・ティホミーロフ
合唱/オルフェイ・ドレンガー

J.シュトラウス2世:ポルカ「クラップフェンの森で」
ショスタコーヴィチ:ステージ・オーケストラのための組曲(ジャズ組曲第2番)抜粋
          交響曲第13番「バビ・ヤール」

 後半に特大級の重たい曲が来ることに備えてか、前半はかなり軽妙なプログラム。最初はいささかおふざけもあるポルカ。カッコウがあちこちで鳴きまくる趣向で楽しませてくれる。大阪フィルも軽いノリの演奏。

 二曲目は今日のメインとのつながりでショスタコだが、これが完全に予想外の雰囲気の曲。私は初めての曲なんだが「ショスタコってこんな俗な曲も書いてたのか」と驚いた次第。1曲目なんてオリンピックマーチみたいだし、2曲目以降はキャバレーでの生演奏を連想させるような艶めかしさと色気のある曲。大阪フィルと井上がそれを茶目っ気タップリの演奏。

 休憩後の後半はメインであるバビ・ヤールである。とにかく初っ端から驚くのは合唱とソリストの上手さ。力強い男声合唱は圧巻であるし、よく通るティホミーロフの歌唱がすごい。

 朗読詩のようなところのある曲なので、ステージ上に訳詞を字幕で出していたのは正解。恥ずかしながら私は初めてこの曲の意味を知った。第1楽章はユダヤ人のホロコーストを批判している多分に政治的な内容だが、第2楽章以降はソ連の日常生活の一コマを連想させる内容で、第2楽章などはショスタコのかなり風刺が効いている。

 ロシアものを得意としてきた井上として、現在のロシアのウクライナ侵攻、さらにはかつてホロコーストを体験したユダヤ人が現在ガザでホロコーストを実行する側になっているという社会情勢には思うところもあるだろう。第1楽章の叩きつける激情と鎮魂が入り交じったような凄まじい曲調は、ティホミーロフと合唱陣の能力の高さも相まって凄まじい演奏になった。大阪フィルもそれに負けてはいけないのでかなりの気合いの入った演奏。

 ややシニカルな第2楽章を経て、最後は「私の立身出世は立身出世をしないこと」というやや厭世的な響きも持った最終楽章へと流れていく。ティホミーロフの歌唱の凄さもあって最後まで圧倒されたところがある(この曲はソリストの表現力が低ければ、間違いなくお経になる)。

 終演後の場内の拍手はすごいものがあった。井上は何度もステージと往復して拍手を浴びることに。また合唱団とソリストに送られた歓声もすごいものであった。しかも通常ならゾロゾロと会場を後にする観客がいるものだが、この時点で会場を去る観客は数人。しかもその歓声は楽団員が引き上げても終わらない。驚いたことに観客の半分以上が会場に残って拍手を続けている。この状況に井上がコンマスの崔とティホミーロフを引き連れて再登場、場内は興奮の坩堝となって大盛り上がりとなったのである。ここまでの熱狂はフェスティバルホールでは近年目にしたことがない。それだけ今回の演奏がいかに名演であったかということをも示している。

 

 

夕食は新世界でビフカツ

 大興奮の会場を後にすると新今宮まで戻ってくる。さてとりあえず夕食であるが、新世界に繰り出すことにする。新世界はアジア人を中心に大混雑。私はその大混雑を避けるように裏通りに。私が向かったのは久しぶりの「グリル梵」

裏通りの「グリル梵」

 大混雑の表通りと違っていつもこの界隈は静かである。未だに「知る人ぞ知る」という店なんだろう。客が少なくて閉店されても困るが、ガイド本片手に観光客がゾロゾロ行列を作るようになっても、こっちとしては困るところである。私の来店時にはまだ客は一人。入店して席に着くと注文するのはいつものように「ビーフカツ(2420円)」である。

関西の正しいビフカツ

 例によっての「正しい関西のカツ」の姿である。揚げ方もミディアムの見事なもの。久しぶりに堪能したのであった。

ミディアムの火の通りが見事

 

 

 夕食を終えるとホテルに戻る前に夜食の購入をしておくことにする。ローソンに立ち寄ったがどうにも今ひとつであることから、ホテルを通り過ぎて南海新今宮の東にある庶民の味方の安売りスーパー「玉出」を覗くことにする。結局は桜餅(3個入で200円ちょっと)を購入する。

庶民の味方スーパー玉出

本日のおやつ

 さらにホテルに戻る途中で、大阪名物551の肉まんを購入する(改札は「ちょっと551まで行きたいので」と通してもらった)。これも久しぶりである。部屋に戻ってから頂いたが、いかにも懐かしい肉まんである。

南海新今宮駅改札内の551

大阪名物551の肉まん

 部屋に戻ると「さて今日の原稿の仕上げを」と思ったが、あまりに疲労が溜まっていてベッドに倒れたまましばし動くことが出来なくなった。途中で流石に風呂はしんどいのでシャワーを浴びたがそれが限界。この日は何も出来ることなくそのまま寝てしまった。

 

 

この遠征の翌日の記事

www.ksagi.work

この遠征の前日の記事

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