徒然草枕

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白鷺館アニメ棟

麒麟がくる最終回「本能寺の変」

将軍暗殺の命に覚悟を決める

 いよいよ最終回となりました。

 家康饗応の席での修羅場で、信長の仕打ちに対して忸怩たるものを感じながら別室で控えている光秀。しかしそこに現れた信長は笑顔を浮かべながら「あれは家康が客の立場で饗応役を指名するという無礼をしたので、家康の反応を見たかったんだ」と悪びれずに言う。それを聞きながら「こいつは一体何を考えているのだ」と不審な様子の光秀。しかしその場でさらに、秀吉から長宗我部が邪魔だから何とかして欲しいという話が来ているので、長宗我部を討つことにしたと告げる信長。「長宗我部とは親交が厚いし、長宗我部は信長に心服しているから、これは明らかに秀吉の言いがかりだ。」と反対する光秀に対して信長は決まったことだと突っぱねる。

 と言うわけでここに来て突然に本能寺の変の理由の一つとして近年になって有力視されている四国政策説が登場。この作品、これまで様々な説を網羅してきましたが、これで世間で言われている説はほぼフルコンボでしょう。しかしここでさらに信長から一押しがある。光秀に対して鞆にいる将軍を殺害しろとの命を下す。この命にもろに動揺する光秀。恐らくこれが最後の一押しになったと思わせる瞬間である。

 

完全に退路は塞がれている光秀

 何か決意を秘めた様子で屋敷に戻ってきた光秀は、細川藤孝に面会を求めるんだが、そうこうしている内に世間では「いずれ光秀が謀反するのでは」という空気が広がってしまっている。例のパシリ関白の周辺といい、何やら既に本能寺が既定の路線になってしまった空気が漂いだしている。いろは大夫に至っては「背いて欲しい」とまで無責任に言い切る始末。もう完全に周辺から退路が断たれた雰囲気になっている。

 この後は光秀が信長との対話を思い出している。将軍がいなくなれば戦はなくなるから、お前と一緒に茶でも飲んで過ごさないかと言い出す信長。そして戦のことを考えずに子供の頃のように長く寝たいと。まさに子供のような表情で語る信長に対して、いよいよ持ってもう信長が分からなくなってきたと感じている光秀。「私に将軍は討てません」と答えた時の信長の表情が狂気を帯びたものに変わる瞬間が今の信長の全てを物語っている。

 

もろに日和っている藤孝

 藤孝と面会する光秀は、将軍殺害を命じられたが拒絶したと伝える。これに対して相変わらず藤孝の態度は何となく煮え切らない。以前に信長の行き過ぎを止める時は自分も声を揃えると言った決意はまだ変わっていないかと詰め寄る光秀に対し、どことなく挙動の怪しい藤孝。光秀は「こいつとうとう日和ったな」と内心で感じたたのではないかと思わせる様子がある。一方の藤孝はこれは光秀がいよいよ事を起こす決意をした可能性があると判断、そのことを秀吉に伝える使者を送る。やっぱりこいつは秀吉に通じていたようである。この番組では藤孝が秀吉と通じていて、事前に藤孝経由で本能寺の変の情報を入手、万全の準備で乱を待ち構えていたという説を採用している模様。しかしこれは実際にそうだったんではと私も思っている。とにかく秀吉の手際の良さが異常すぎたので。

 

しかし光秀は決意を固める

 悩む光秀は愛宕山にこもって思索中。信長との対話をまた思い出すが、信長に対して「あの優しかった方が戦で変わってしまった」と本音をぶつける光秀に対して、「変えたのは戦ではなくてそなただ」と言い切る信長。この時に帰蝶の「今の信長を作り上げたのは光秀であり、作り上げた者が始末を付ける必要がある」という言葉が頭を過ぎる。その挙げ句に狂気を帯びた瞳で「将軍を討ち、帝をも越えて自分が万乗の主になる」と言い切る厨二病が極限炸裂した信長と、それをもはや絶望しかない表情で見あげる光秀。この時に光秀の決意が固まる。

 愛宕山を出た光秀は重臣達に謀反の意志を伝える。そして密かに使いとしてやって来た女性の敵・岡村に家康への文を託す。本能寺の変の後、光秀の動きがやけに鈍かったのは家康がやって来るのを待っていたのではと私は考えているのだが、この番組も家康は内々に光秀に通じていたというようである。実際に本能寺の変の頃に一番危うい立場にいたのは実は家康である。それまで家康は武田への盾としての存在価値があったが、武田家が滅んだ今となっては信長にとっては同盟者としての家康の価値はない。家康は信長に殺害される危険を感じていたが、実際にその可能性もあった。家康にしたら、信長の同盟者であり義弟にまでなっていた浅井長政の非業の最期も頭を過ぎったろう。

 

そして本能寺の変が発生だが、一番の衝撃はその後

 一方、藤孝からの知らせを受け取った秀吉は半ば嬉々として「これで天下が回ってくる」と既に万全の準備を黒田官兵衛に命じている。うーん、これが真相だろうなと私も思う。それにしてもこの作品の秀吉って、君側の奸を極めたとことん嫌な奴だな。これは見事なほど。

 で、いよいよ本能寺を取り囲む明智勢。謀反を起こしたのが明智とあれば「是非もなし」と半ば諦めたような表情で最後の戦いに挑む信長。蘭丸らと共に獅子奮迅の戦いをするが多勢に無勢、銃でも撃たれてこれが最後と自害に臨む。切腹の前に、かつて光秀と初めて出会った頃の思い出が頭を過ぎる。共に笑い夢を語ったあの日。同じ回想は光秀も行っていた。どうしてこんな悲劇的な結末になってしまったのかという思いが両者の頭を過ぎったであろう。それまで無表情で事の成り行きを眺めていた光秀の顔に、この時には初めて悲しみの表情が浮かぶ。

 結局この辺りが一番の見せ場だったようである。乱が収束して駆けつけたいろは大夫に「必ず麒麟を呼んでみせる」と笑顔で言い切る光秀だが、しかし実は今回の一番の衝撃のシーンはこの直後。颯爽と馬で去って行く光秀に対してナレーションが重なり、その後の経過を説明。そして「光秀は敗れた」と一言で突然に乱の三年後。まさかの主人公ナレ死である。

 

綺麗に収めるための工夫ではあるんだろうけど・・・

 まあ斉藤義龍をナレ死させたぐらいだし、この後の回りに見捨てられて、あの嫌らしい秀吉に敗戦し、その挙げ句に落ち武者狩りにやられて命を落とすなんていう光秀の姿なんて見たくはないという思いは、多くの視聴者が持っているところだろう。ただ本能寺の変を光秀の最高到達点として、後はナレ死で終わらせるというのはかなり大胆な展開。しかもこの後登場したお駒に「光秀が生きているという噂もある」と語らせ、なぜかラストシーンでは光秀が登場するという謎展開。もしかして光秀天海僧正説まで網羅か?

 うわー、やりよったというのが正直な感想だが、まあ光秀の最後を綺麗にまとめようとしたらあのくらいしか手はなかったかな。あれだけ嫌らしい扱いをした秀吉が天下を手に入れるところなんて見たくもないところだし(だからこそ、本能寺の変以降、秀吉は一切登場していない)。

 

一貫して厨二っぷりの炸裂していた悲しき信長

 結局は本作での信長は最初から最後まで首尾一貫してマザコン厨二男の範囲から飛び出さず、その厨二男が想定外の巨大な権力を手に入れたせいで狂って自滅していくというドラマになっていた。本作では画期的というほどに信長の器量の小ささを描いていたが、そのためには信長の先進性の象徴である設楽が原の合戦での鉄砲三千丁での勝利と、鉄甲船を使用して毛利水軍を壊滅させた第二次木津川口の合戦を完全に省いてしまうという徹底ぶりだった。

 まあこのような扱いはかなり極端なものに感じるが、信長がかなり厨二臭い部分があったのは事実だろうと思うし、狂気を帯びていたというのも事実だろう。光秀を主人公として美しく描けば、必然的に信長のそう言う部分をクローズアップするというバランスになったと言える。

 また権力の魔物性をかなり強調しているのも本作。登場時は確かに素朴で心優しきところのあるマザコン男だった信長が、権力と共に豹変して狂気を帯びてくるという描写はなかなか秀逸だったように感じる。またその裏面として、やはり一時は権力に魅入られて狂気の馬鹿殿化していた義昭が、鞆に行ってから憑き物が落ちたように清々しい表情となり、かつての「心優しき人」に戻っている様子を見せている。これを見ていると、もしかして信長も権力を捨ててさえいたらかつての心優しき男に戻れたのだろうかと悲しさを感じさせるものになっている。この辺りの権力というものの描き方も本作の胆だろう。玉三郎が言っていたように、木を登っていった武士は誰も帰ってこなかったのである(なぜか義昭だけは途中で落っこちて戻ってきたが)。

 それにしても本作では厨二信長もすごかったが、結局のところは全ての黒幕は帰蝶という展開はどうなんだという気もするところだが。これも斬新と言えば斬新なんだが、実際の史実では帰蝶は安土時代の前にとっくに死んでいるとも言われており、これはあまりに大胆なんでは。結局は厨二信長は権力と帰蝶にもてあそばれた悲しい男だった。

 

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