徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

インバル指揮ベルリン・コンツェルトハウス&津城

 この週末は名古屋方面へ遠征することとした。と言ってもそもそもの目的地は実は名古屋ではなくて津。と言うのはここでベルリンコンツェルトハウスのコンサートがあるから。この度、インバルがベルリンコンツェルトハウスを引き連れて来日、全国でツアーがあると聞いたので私も是非とも行きたいと思っていた。しかし発表されたスケジュールを見ると見事に関西だけがスルー。思わず「?」という状態になってしまったが、仕方ないので関西から一番近い場所を調べたら津だったという次第(名古屋公演もあるのだが、京都市響とスケジュールが衝突している)。で、津まで行くなら名古屋に足を伸ばしても同じ。調べてみるとこの時期にちょうど名古屋で名フィルの定期公演があるとのことなので、ついでにこれも聞いてやろうと言うところでの計画立案である。

 津までは近鉄を使うことにする。名古屋だと新幹線なんだが、津になると名古屋経由でのアクセスだと所要時間はさして変わらず料金だけが跳ね上がるということになってしまうので近鉄を使用。津だけならいっそのこと車で行くという手もあるのだが、今回は帰りに名古屋や大阪に立ち寄るのでやはり鉄道。

 金曜日の仕事を午前中で終えると津に向けて出発する。この働き方改革の時代に一人でスーパープレミアムフライデーをしている私。つくづく私は愛国者だ(笑)。それにしても政府主唱のプレミアムフライデーって全く実施されることもないまま廃れたな。まあ予想通り。

近鉄特急で津に向かう

 鶴橋から近鉄の賢島行き特急に乗り込む。座席はビスタカーの2階だが、驚いたことに完全貸し切り状態。そう言えば乗り込む客もほとんど見かけなかったような。

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賢島行きの特急

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ビスタカーだ

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二階建て車両の階段

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なんと一部屋貸切(笑)

 ビスタカーは車高が高いせいかよく揺れる。それにやはり近鉄特急は遅い。新幹線との比較はそもそも無理があるが、新快速と比較しても遅い。列車はいかにも奈良という山の中を最初は走るが、それでも駅周辺などを中心に所々いかにも新興住宅地な集落はある。

 沿線でも一番大きい集落は大和高田から大和八木にかけての辺りか。この辺りは大都会というか大住宅地。乗り換え拠点でもある大和八木で初めて乗客が乗り込んでくる。この後はまた再び山間で榛原では乗降なし、次の都会は名張。遠くにイオンがあるのを見ると、なぜかホッとする。ここでも乗降は数人というところ。そこからとんでもない山の中を抜けた先が伊賀神戸。ここは伊賀鉄道との乗り換え駅。伊賀鉄道の松本零士がペイントを手がけたくノ一列車が見える。

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伊賀は忍者の里

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松本零士デザインのくノ一列車

 青山の辺りになるとトンネルの連続。ここら辺りから外の雨がかなり激しくなってくる。山を抜けてしばし進むと乗り換え駅の伊勢中川。ここで名古屋方面行きの特急に乗り換えると次の駅が津である。

 

津に到着

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津駅に到着

 津駅で降りるとホテルにチェックインする。今日の宿泊ホテルはドーミーイン津。津駅前にある天然温泉付きホテルである。今回はシャワーなしのエコノミールームのプランだったのだが、シャワー付きの部屋に振り替えてくれたようだ。部屋は洗面台がトイレと別になったドーミーインの最近のタイプ。

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ドーミーイン津

 とりあえず部屋に荷物を置くとすぐに外出する。幸いにして今は雨はほとんど降っていない。とりあえず駅前からバスで三重会館まで移動。コンサートの開演までにこの近辺にある津城を見学がてら夕食を摂りたいと考えている。

 夕食はやはり津と言えばうなぎということで近くの鰻屋に立ち寄ったのだが、なんとまだ準備中。今の時間は4時半、多分5時から夜の部なんだろう。こんなところで30分も無駄な時間を費やすわけにもいかないので津城の見学に行くことにする。

 

津城 藤堂高虎の手になる続100名城

 津城は織田信包が築いて、後に築城の名手としても知られる藤堂高虎が輪郭状の近代城郭として再整備した城郭である。今では城域の大半は市街に埋もれてしまって、本丸が公園化して残るのみと聞く。なおこの度続100名城に選定されたとのことである。

 私は津城訪問は実は初めてではない。かなり昔に訪問したことがあるが、その時には「特に何もないところ」という印象だけが残っている。だから続100名城に選定されたと聞いた時、「なんで?」と疑問を感じていた。そこで今回改めて見学してみようという考え。

 津城は建築物の類いは全く残っていないが、現在石垣上にかつての隅櫓を復元してある。ただこの復元櫓、なぜか本来隅櫓が乗るべき石垣隅の櫓台でなく、入口の脇に立っている。確かに見栄えはするのだがいささか疑問もある。ただこの辺りの石垣はかなり立派である。かつては東之丸を経てここから本丸に入るようになっていたようだ。

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復元櫓

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本来は一番奥の櫓台の上に乗るべきなんだが・・・

 ここをくぐって進むと中は完全に公園化しており、ここに城主である藤堂高虎の騎馬像がある。周囲は石垣で囲まれており、南側に入口があるがこれは後付けの模様。

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本丸内部は公園化している

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藤堂高虎の像

 西側の庭園になっている西の丸跡の先に枡形のある門らしき構造がある。なおここに立派な赤門が設置してあるが、これはかつての藩校の門を移築したものであるという。

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西の丸横の堀

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元々は藩校の門だった入徳門

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西の丸先端の枡形

 この枡形を抜けると城の外に出るが、外から見るとグルリをかなり立派な石垣が取り囲んでいるのが分かる。正直なところ今回訪問してこれには驚いた。これだけ立派な堀と石垣が残っているところはそう多くはない。となると確かに続100名城は妥当であろう。前回の訪問時のことはよく覚えていないが、東側から城の中に入って、内部をグルリと見ただけで「何もない」と判断していたのだろうかと考えて当時の記録を読み返してみたら、一応は内堀の石垣なども見ているようだ。どうも当時の状況がよく分からないのだが、その直後に松阪城を訪問してその石垣に感動していることから、そっちの印象に紛れて津城の石垣があまり記憶に残らなかったと思われる。

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西の丸の枡形を外から

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周囲はかなり立派な堀と石垣

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ほれぼれするような石垣と堀

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かなりの規模である

 というわけで浅はかの限りというか、自身の愚かさを痛感すると共に津城には実に失礼なことをしていたと思う。津城は文句なしに押しも押されぬ続100名城であるとここに断言しておこう。

 

津でうなぎを頂く

 かなり駆け足ではあったが津城の価値を再認識したところで再び目的のうなぎ屋に戻ってくる。立ち寄ったのは「つたや」。到着した時にはまだ5時前であったが、覗いてみるともう入店可とのことなので入店することにする。私が夜の部の最初の客である。注文したのは「ひつまぶし(2400円)」

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つたやは二階にある

 うなぎ屋に入店したものの実は不安なことが一つある。と言うのはうなぎ屋はやはり少々時間がかかること。今日はこの後、三重県文化会館で6時半開演のコンサートに駆けつけないといけない。ホール行きの臨時バスが津駅西口から出るのが開演の35分前。となるとそれまでには津駅に戻らないといけないのだから、5時半には三重会館からのバスに乗りたい。となるとトータルで30分程度しか時間的余裕がないのである。もしうなぎが出てくるのに30分かかってしまったら、ホールに直接タクシーで乗り付けることなども考える必要がある。

 何てことをウダウダ考えながら待っていたら、案に反して10分ちょっとでうなぎが出てきた。順番が最初だったことも幸いしたか。ひつまぶしは薬味は別で出てくる場合が多いのだが、ここのは最初から薬味が乗せてある。そこで半分に分けて、半分はそのままで残りの半分をうな茶で頂くことにする。

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ひつまぶし

 うなぎがパリッとして実に美味い。こういう香ばしいうなぎは関東などでは味わうことが出来ない。後でご主人に聞いたところによると、この辺りのうなぎはそのままタレをつけて焼くだけなので香ばしさが強くて皮もパリッとしているとのこと。関西のうなぎも焼いてから蒸すところが結構あるとのことなので、うなぎの香ばしさに関してはこの辺りが一番とのことである。蒸し行程がないことが予想外の調理の早さにもつながっているのかもしれない。美味い、早いは飲食店にとっては重要な要素。

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まずは薬味付きを頂き

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さらにうな茶で頂く

 うなぎの香ばしさが実に美味で食が進む。薬味付きはその鮮烈さ、そしてうな茶はあっさしてそれでいてコクのある味わいと2タイプが楽しめて実に美味。

 夕食をすっかり堪能した時には5時半前になっていた。三重会館からバスに飛び乗ると津駅でホール行き臨時バスに乗り継いでホールに向かうことになる。

 三重県文化会館は美術館からさらに先に進んだいささか市街からはずれた高台にある。ホールは少し昔の地方の典型的な文化会館といったところだが、かなり大きなものである。しかしそのホールに大体8割方は客が入っている。高校生の団体らしい姿も見かけたが、音楽関係の部活か? それとも動員でもかかったか?

 

ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団

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エリアフ・インバル[指揮]
アリス=紗良・オット[ピアノ]

モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番
マーラー:交響曲第5番

 アリス=紗良・オットは難病を患ったと聞いているが、目下のところはまだ演奏には支障はないようで何よりである。ただどうも今回は弾き急いでいるような印象を受けた。序盤は音が飛びにくいホールの音響特性もあって、やや籠もった感じの演奏である上にオケとも微妙なズレが感じられたが、それは次第に修正された。ただ彼女の演奏は元々軽妙でエレガントでそう深い情感を込めるタイプではないが、モーツァルトの曲想とも相まってより一層あっさりした印象の演奏になっていた。そのために深い感銘を受けるというタイプの演奏ではない。どちらかと言うと、アンコールのショパンの方が彼女の良さが現れていたか。

 アリス=紗良・オットの相変わらずのチャーミングな印象もそのまま。拍手に促されて舞台袖から小走りで飛び出してくるところなどが実に可愛い。熱烈なオッサンファンらしき者が花束を渡していたがあれはありなのか? ホールによっては完全禁止のはずだが。

 休憩を挟んで後半のマーラーの5番は一転して圧倒されるような演奏だった。序盤から緊張感ありありの金管がすごかったが、ここに美しい弦も乗っての切々とした情緒溢れる第一楽章には思わず涙が出そうになった。そしてまるで息絶えるように第一楽章が終わると、続いて激しい第二楽章が始まる。しかしインバルは決して急ぐことなく、抑えめのテンポでじっくりと音楽を描いていく。それに応えてのオケの表現も実に緻密である。そして第三楽章から曲に明るさが見えてきて、続いて弦を中心としたうっとりするような美しい第四楽章。これはまさに極上のアンサンブルだった。そして夢見心地のまま怒濤の最終楽章でフィナーレ。インバルの演奏は実に情感に溢れ、非常に表現の深さを感じた。ゆっくり目のテンポでとことん音楽を美しく描く。そして決して雑になることもなくそのインバルの目指す表現を最上の演奏で実現したオケの技倆。実に感服した次第。

 かなりの名演に場内は結構な盛り上がりとなった。終わらない拍手にインバルが引っ込めなくて、最後には客席に向かってバイバイする姿も。下手すると冗長になりかねない曲なのだが、今回は非常に印象深い名演であったと感じる。実際に私は非常に疲れ切った状態でホールまでやって来たにもかかわらず、最後まで一瞬も睡魔が襲うことがなく音楽に浸りきったのである。わざわざ津くんだりまで出てきた価値は十二分にあったというものだ。

 

 

 コンサートを終えた時には外はかなりの雨になっていた。津駅まで臨時バスで戻ると飲み物を買い込んでホテルに飛び帰る。

 ホテルに戻った時には9時過ぎになっていた。少々小腹が空いているが、こういう時にありがたいのがドーミー名物夜鳴きそば。何てことない醤油ラーメンなんだが、こういうのが夜には美味い。

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ドーミー名物夜鳴きそば

 小腹を満たすと大浴場で入浴。ここの浴場はアルカリ系の単純泉とのこと。泉源は「トマト温泉」との記述があり、運び湯のようである。浴感としては若干のネットリした印象がある。塩分が入っているのだろうか。とにかくこういう時の風呂は快適、特急とコンサートで座りっぱなしだったので背中が少々おかしくなりかけているから、それをゆったりと風呂でほぐす。ああ、やっぱりこれがあっての日本人よ。

 風呂からあがると部屋でこの原稿の入力。眠気が押し寄せてきたところで明日に備えて就寝する。