翌朝は7時半に起床。目が覚めたところで朝食へ。朝食は伊勢うどんなどのご当地食も含むドーミーバイキング。今日は朝から食が進む。
さて今日これからどうするかだが、今日の予定は午後4時から愛知県芸術劇場での名古屋フィルのコンサート。それまでがフリーである。松阪辺りに立ち寄ることも考えていたが、気象情報を見ると向こうはかなり雨が降っている模様なのでチェックアウト時刻近くまで部屋でグダグダすることにする。
いざ、松坂へ
しかしチコちゃんを見ながらウダウダしている内に「こんな無駄なことしてても不毛だよな」という気持ちが沸き上がってくる。そこでもう一度気象庁のHPをチェックしてみると、先程とは状況が変わって松阪周辺は小雨かうまくすると降らないのではという状態に。ここで意を決して松阪に向かうことにしてホテルをチェックアウトする。
松阪へは急行で20分ちょっと。松阪に来るのはかなり久しぶりなので駅前の様子などは全く覚えていない。とりあえずキャリーを駅のコインロッカーに入れるとGoogle先生にお伺いを立てながら松阪城を目指す。
松坂城 蒲生氏郷の手になる100名城
松阪城周辺は路地が入り組んでいて、歩いている内に方向を見失ってしまうような構造。この辺りはかつての城下町の防御構造だろう。Google先生の案内がなければとてもまともに到着できなかったところだ。路地迷路を抜けると唐突に松阪城の石垣が目に飛び込んでくるが、あまりの立派さに息を呑む。そしてこの時に思いつく「ああ、やっぱりこれのせいで津城の記憶がぶっ飛んじまったんだな」。かなり可愛い子に会っていたにもかかわらず、その直後にトップ女優クラスの美女と出会ってしまったというようなパターンか。いや、これではあまりに私の状況とズレすぎていて例えにならんか。私の回りにはかなり可愛い子どころか、そもそも女性が不在なんだから。独身キャラの春風亭昇太が結婚したと話題になっていたが、やはり名前と金があれば50過ぎの城オタでも結婚できるということだろう。しかし私のような名前も金もない50過ぎの城オタに寄ってくる物好きな女性はいない。
松阪城はこの地を見下ろす独立丘上に蒲生氏郷が築いた城で、蒲生氏郷が福島に移った後は城主が転々として、江戸時代初期に紀州藩の藩領となって城代が置かれるようになり、そのまま幕末を迎えたようである。天守は江戸時代に台風で倒壊後に再建されることなく放置されたようだが、残りの建物は明治期に消滅した模様である。今日では石垣のみが当時の偉容を伝えるが、現在100名城に選定されている。
表門のところから見上げるような石垣が正面にあって圧倒される。思わず興奮して先を急ぎそうになるのだが、その前に脇にある歴史民俗資料館を覗くことにする。こちらでは昭和と平成の生活なるものを展示してあるが、昭和の家庭用品が懐かしいと言おうか何と言おうか。私自身がまさに使ったことがあるものから、古すぎて私には分からないものもあったが(笑)。
民俗資料館を見学した後は本丸に向かう。ここからまっすぐ進んだところが本丸下段。もう既にここでかなりの高度があるが、ここからさらに上に本丸上段がある。
ここはこの城の最高所。辺りを見渡せることが出来るし石垣上には櫓台もある。櫓台からは下の正門方向を見下ろすことが出来る。もし正門を突破してくる軍勢がいれば、ここから矢玉の雨を降らせるというわけである。
この本丸上段には天守台もある。本丸上段の南西部にきたい丸が続いているが、こちらはかなり広い上に周囲を石垣に囲まれておりかなり堅固。また石垣の角ごとに櫓台があり、下を見張っている。松阪城裏手の守りの要とも言えるだろう。とにかく城全体が死角がないように組み立ててあることがよく分かる。
ここから一段下の隠居丸に本居宣長の生家である鈴屋が移築保存されている。ここから一段降りたところに本居宣長記念館があるが、この間の門は埋門とあることから、有事の際にはここの門は完全に封鎖してしまうのだろう。本居宣長記念館には国学者であった宣長の功績を伝える展示がされているが、文書中心であるので展示としては地味。
隠居丸の向かいにあるのが二の丸でここはかなり広大。先程の隠居丸と共に、最前線で城を守る防御拠点である。かなりの大兵が詰めることが出来るだけのスペースもある。
ここから裏門に出ることが出来るが、本丸までの距離は正門よりもむしろこちらの方が近いことからか、巨大な枡形を備えたかなり防御が厳重な門である。とにかく松阪城の鉄壁の守りを実感することが出来た。さすが押しも押されぬ100名城、石垣だけでもお腹一杯というところ。
この裏門を出たところには御城番屋敷の長屋があり、かつての武家屋敷街の面影が残っている。一部が公開になっているが、ここには今でも住んでいる人もいるようである。
城下町をプラプラと散策しながら松阪駅に向かうが、途中で原田二郎旧宅が公開されていたのでそこを覗く。原田氏は先程の御城番屋敷の住民よりは下級の武士になるらしいが、この屋敷は明治以降に建て増しなどもされており、明らかに先程の御城番屋敷の長屋より立派な屋敷になっている。屋敷の主の原田次郎氏は実業界で成功し、社会福祉のために公益財団法人を設立した篤志家であるとのこと。明治維新のガラガラポンでそれまでの身分制度がひっくり返った典型例とも言えよう。
昼食は松阪牛弁当を購入
松阪城と城下町を後にすると松阪駅近くまで戻ってくる。そろそろ昼食のことを考えないといけないが、頭の中には実はプランがある。松阪と言えば以前に訪問した時に食った松阪牛弁当が非常に美味であったことが記憶に残っている。そこで商店街の弁当屋の新竹商店に立ち寄って元祖松阪牛弁当(1500円)を購入することにする。弁当なら駅の売店でも買えるのだが、ここで買うと温かいご飯を詰めてもらうことが出来る。
温々の弁当を持ってそのまま名古屋行きの特急に乗車・・・したかったのであるが、私が駅に到着したのはちょうど特急の出た直後だったようなので、津まで急行で移動した後、そこでアーバンライナーに乗り換えることにする。弁当を開いたのはアーバンライナーに乗車してから。記憶にあった通り、冷えても柔らかくて美味い松阪牛が最高。さすがにこの弁当は美味い。
名古屋には1時間弱で到着する。さてこれからの予定であるが、今日は4時から愛知県芸術劇場コンサートホールで名古屋フィルのコンサート。開演まではザクッと2時間以上の余裕がある。そこでこの間に名古屋城の見学をすることにする。目的は最近になって再建がなった本丸御殿の見学。
名古屋城 言わずと知れた天下普請の巨大城郭
名古屋駅地下のコインロッカーにキャリーを置くと市役所前駅に移動。ここから名古屋城の東門はすぐである。
さすがに天下普請の城だけあって、石垣も堀も松阪城よりもさらにワングレード上。それにしても一体どれだけの人員を動員したら、重機もないあの時代にこれだけの巨大建造物を建築できるんだろう。権力とはすごいものである。それだけに権力とは正しい者が行使する必要があるのだが、現在の日本では私欲のためにしか権力が行使されていない。
立派な東門枡形を抜けると二の丸。この敷地内に巨大な体育館がある。どうやら大相撲名古屋場所が開催されているらしく多くの幟が立っている。ここを先に進むと入場ゲートがある。入場料は500円。
二の丸を進むと細くなった通路を抜けて本丸表門の前。こういう構造は鵜の首というらしい。こういったところで敵軍の侵攻を妨げるような構造になっているようである。なお西の丸方面は広大な広場になっているが、実はこちらにもこのような構造があったのだが、明治になって名古屋城が天皇の別荘として使用されるに当たって、馬車を通行させるために埋めてしまったと観光ガイドが説明しているのが聞こえてきた。まあ何にせよ、本丸の櫓が正面の一段高い位置から見下ろしているので、この辺りで敵軍が渋滞したら見事に狙い撃ちの的である。
本丸表門の枡形もまた巨大であるが、ここの内側にまた巨大で頑丈な門があったようであり、守りは鉄壁。表の高麗門を突破して枡形内に突入しても、前方を巨大な櫓門で阻まれた上に十字砲火を浴びるという構造である。とてもではないが突破は容易ではなかろう。
本丸御殿はキンキラキンの世界
本丸に入るといきなり本丸御殿にご対面。天守と違って高さはないのであるが、かなり巨大な建物で圧倒される。御殿に入場するには行列が出来ておりしばし待たされる。内部がごった返さないように入場規制をかけているようである。内部は豪華絢爛のキンキラキンの世界。とにかく襖絵だとか浮き彫りだとか、装飾が極めて豪華。しかも奥に進めば進むほど部屋の格式が上がって装飾も派手になる。これも年月が経てばもっと落ち着いてくるんだろうが、今はとにかく派手なのでいささか成金趣味にも見える。名古屋のハデ婚の精神の大本は実はこの辺りにあるのかもしれないなどと感じる次第。
いささか呆気にとられながら本丸御殿から出てくると、外は灼熱地獄である。本丸内には土産物屋もあり、多くの観光客で賑わっている。私は暑さでまいりかけていることもあり、抹茶ソフトを買って一服する。
本丸御殿の先に天守があるが、現在天守は耐震性の問題及び復元のための調査で立ち入り禁止。それにしてもあの本丸御殿を見た後に、このエレベータを後から外付けした鉄筋コンクリートの天守を見ると見劣りすること甚だしい。これは河村市長でなくても天守の木造復元ということを思いついても当然のような気もする。もっとも予算の裏付けがあるかが重要なのだが。それにしてもその木造復元天守にエレベータをつけろとゴテている自称障害者団体があるようだが、何の意地なのか利権が目当てなのか目的は不明だが、いかにも無粋な主張だと感じる。歴史的建造物の復元の話とバリアフリーを一緒にするべきではない。そんなことを言うのなら、エベレストの頂上に体力のある登山家しか登れないのは不公平であるから、私でも登れるようにロープウェイをつけて欲しい。
この後は本丸の不明門から出て立派な本丸石垣を堪能しつつ、グルリと回ってまた表門に戻ってくる。すると西南隅櫓が公開中との情報を得たので、再び本丸へ入場、西南隅櫓の見学をしていくことにする。
この西南隅櫓は一度倒壊したものを古材を中心に再び復元したらしい。当時のままの階段なので非常に登りが急。で、ここにもエレベータを付けるのか? 3階建ての最上階には消防法の関係で一度に登れるのは10人に限定されているとのことで、入場券を受け取って登る形式。ここからは西門までを見晴らすことが出来、本丸前の隘路で渋滞している敵を狙い撃ちすることになる。
隣では湯殿書院の公開もしているようだが、こちらは10人ずつしか入れないとかでかなり待つ必要があるようなので、そろそろタイムアップ時刻が近づいていることもあり断念。
久しぶりに名古屋城を堪能したがさすがに天下普請の城だった。ハッキリ言って、戦国時代の武器では正面から軍勢で攻め落とすことは不可能であると感じた。大軍で包囲したところで完全に睨み合いになってしまうだろう。こんな城を落とそうと思うと計略しかない。幕末になって大砲などが進化した時代になるとまた話は変わってくるが。
名古屋城の見学を終えるとホールに向かうために栄まで移動する。毎度のことながら栄は賑やかなところである。今日も広場で何かイベントでも開催されているのか大騒ぎになっていた。コンサートホールはここの横のビルの4階にある。
コンサートホールへは大勢の観客が来場していた。なおこのホールは最近まで改装工事を実施していたが、どの辺りが改装されたのかはあまりこのホールに詳しくはない私にはよく分からない。ただ少なくとも以前よりも洋式トイレの比率が増えたことは分かった。
名古屋フィル 第470回定期演奏会
マーティン・ブラビンズ(指揮)
ジャン・チャクムル(ピアノ)
藤倉大: オーケストラのための『グローリアス・クラウズ』
メンデルスゾーン: ピアノ協奏曲第2番ニ短調 作品40
エルガー: 交響曲第1番変イ長調 作品55
最初の藤倉の曲は、何やらキラキラとした煌めきを感じる曲であるが、正直なところ今ひとつ私にはよく分からない。プレトークで作曲者自身が「微生物のネットワークをイメージした」との類いのことを話していたが、そのようなイメージがあると言われればあるような気もしないではない。ただし実際はどうにでも解釈できる曲。ただそれでもブラビンズの演奏は非常に冴えのあるものであることは分かる。
二曲目はメンデルスゾーンの珍しい曲である。若気の至りが随所に見られたような1番と異なり、晩年の曲であるために完成度は高い。特にやや哀愁を帯びた旋律で始まる第1楽章は魅力的。そのためもっと演奏機会があっても良いように思われるのであるが、そうならない理由は曲を聴けば明らかでもある。とにかくピアノセクションが極めて高難度であるから実際に演奏するのは大変である。さてチャクムルの演奏であるが、その高難度のピアノセクションを何事でもないように易々と弾きこなしてしまうテクニックには唖然とせざるを得ない。それでいて単にガンガンと弾くだけでなく、硬軟自在で謳わせるべきところは謳わせてくるので表現も実に濃厚。この耳慣れない曲を非常に魅力的に弾ききった。
爆発的な場内の盛り上がりに対してのチャクムルのアンコールは、以前に演奏を聴いたことのあるファジル・サイ。ビアノの弦を手で押さえて民族楽器か何かのような奇妙な音を出すところに特徴のある曲。初めて聴いた時にはわけの分からない曲のように思ったが、今回聴いてみると意外に面白い。
休憩後のラストはエルガーであるが、これは非常にメリハリの強い情熱的な演奏。名古屋フィルも所々アンサンブルに雑さが垣間見える部分がありはするものの、爆音気味の元気の良い演奏。なかなかに高密度な表現は下手をすれば冗長になりがちなこの曲を、緊張感を持って最後まで聴かせることに成功している。
なかなかの演奏。さすがにブラビンズというところか。名古屋まで出てきた価値を感じさせるものであった。
夕食に名古屋名物味噌煮込みうどんを頂く
コンサートを終えると一旦名古屋駅まで戻ることにする。キャリーを回収すると夕食をどこにするかだが、毎度のことで全く工夫がないながら、名鉄百貨店のレストランフロアの「山本屋総本家」に入店して「親子煮込みうどん」を注文する。
初めてここに来た時には固いうどんと異常に濃厚な赤味噌に戸惑ったものだが、どうも最近はこれがクセになってしまったのか、時々異様にこの味が懐かしくなる。最近は名古屋に来ることがあったら必ず立ち寄っている感じ。私もかなり赤味噌帝国の侵略を受けてしまったようだ。このやや渋みさえある赤味噌の旨味の強さがクセになる。もっとも一度食べると、しばらくは赤味噌を見る気もしなくなるのだが(笑)。
夕食を終えると地下でおやつを購入してからバスでホテルに送ってもらう。今回宿泊するのは私の名古屋での定宿・名古屋ビーズホテル。名古屋駅近くの大浴場完備のホテルだが、ここが面白いのはフィットネスルームまであること。もっとも今回はそんなことをしている体力的余裕がないが(カメラにpomeraまで入った重たいリュックを背負って1万7千歩も歩いたせいで、体中ガタガタ)。
ホテルにチェックインすると、何はともあれまず入浴。湯の温かさが体に染みいる感じ。ああ、これがあってこその日本人・・・って確か昨日も同じことを言ったような。風呂からあがるとこれもまたこのホテルの特徴である無料のマッサージチェアでガタガタになっている体をほぐす。この辺りの設備の良さが私がこのホテルを定宿にしている最大の理由。
風呂から上がるとさっき購入したおやつを食べながらテレビを見ていたのだが、そのうちにかなり疲れが押し寄せてくるのでベッドに横になっていると、知らないうちにそのまま寝てしまう。