徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

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白鷺館アニメ棟

広島交響楽団第394回定期演奏会&「印象派、記憶への旅」「広島浅野家の至宝」&広島城見学

 今日は仕事を早めに切り上げて広島まで広島交響楽団のコンサートを聴きに行くことにした。ついでに一泊して、広島周辺の美術館見学及び山城見学・・・というスケジュールであったのだが、それが直前でガラガラと崩壊してしまった。なんと強大な台風19号がこの週末にかけて襲来とのこと。各地で鉄道が12日から計画運休とのことで、これは一泊どころか帰ってこれなくなることはほぼ確実。どうしたものかと悩まされる羽目に。

 それにしてもこんな季節外れに台風上陸とは、やはり地球温暖化の影響は待ったなしである。四季に敏感な日本人は多くの者が気候の変動を感じていると言われているが、国民同様に気候の方も鈍感なアメリカ人はこれをあまり切実に感じておらず、それがアメリカが温暖化対策に消極的な原因でもあると言う。ましてやトランプなどは目の前に温暖化の証拠が並んでいても「温暖化対策なんかしたら俺が儲からなくなる」と全力で現実逃避である。老い先短いトランプは金を抱えて逃げ切るつもりなのだろうが、温暖化して滅茶苦茶になった地球で生きていく(下手したら生きていけなくなってるかもしれない)ことを強いられる若者たちが怒りの声を上げるのも当然である。

 さてそれにして困った。もうこうなった以上は広島行きを中止するというのが一番理性的な判断であるが、そうするとチケットが丸々無駄になることになり、これは精神的に耐えがたい。そこで金曜中に日帰りすることに急遽予定を変更する。ただここで問題となるのが新幹線のチケット。私は往復共におとなび早割のこだまプランを利用する予定だった。しかし行きは良いものの、帰りがどうしようもない。計画運休を受けて手数料なしでの時間変更が可能になったようだが、残念ながらこだまの最終までに広島駅に戻ってくるのはまず不可能である。仕方ないので帰りのチケットはキャンセルし、新たにエクスプレス予約で取り直すことにしたが、遅い時間帯の新幹線はすべて席が埋まっていて自由席しか買えない状態。結局は当初予定の倍以上の運賃を支払わされて、恐らく立ちんぼで帰ってくるということを余儀なくされることとなってしまった。

 

 

 岡山でひかりを降りるとここでこだまに乗り換えだが、その間に昼食用の弁当を購入しておくことにする。購入したのは桃太郎祭寿司。いかにもお目出度い感じのパッケージに入っているが、弁当箱が桃の形という凝りよう。しかしこのプラスチックのケースは無駄にゴミを増やすだけのような気もしなくない。味は悪くはないがボリュームは今ひとつで、やはりどうしてもCPは悪い。

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お目出度い印象の桃太郎祭寿司

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パッケージを開けると中はこれ

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これがその中身

 昼食を終えるとのんびりこだまの旅である。こだま車両は懐かしのレールスター車両であり、この車両は中が4列シートになっているから広いのが良い。のぞみのグリーン車から足置きを除いた形である。これから長時間の乗車となるので、とりあえず私はここでモバイルワーク(笑)。

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4列シートのレールスター車両

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私のモバイルオフィス(笑)

 それにしても沿線は晴天続きである。とても台風が接近しているとは思いにくい。今でこそ気象衛星のおかげで台風が赤道付近で生まれた直後から動きを監視できるが、昔は接近するまで分からなかったから大変だったろう。ましてや戦時中などは気象情報までが軍事機密として秘密にされていたので、急に台風が襲来して多くの犠牲者が出るという事態まであったという。戦争というものがいかに国民を無駄に死なせる愚劣なものであるかを証明する一例でもある。

 こだまは途中の駅で何度ものぞみに抜かれながら1時間以上をかけて広島に到着する。広島は拍子抜けするぐらいの好天。やや風はあるがむしろ心地よいぐらい。ここを見ている限りでは台風の影は微塵もない。ただみどりの窓口の長蛇の列が異常事態であることは告げている。明日は岡山-大阪が午前から計画運休とのことで、やはり今日中に帰らないと帰れなくなりそうだ。今から帰りのことが思いやられる。

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みどりの窓口は大混雑

 とりあえず最初は美術館に立ち寄ることにする。そもそもこの美術館の訪問もこの時期に広島に来ることを決定した理由の一つであった。路面に乗って紙屋町まで。

 

 

「印象派、記憶への旅」ひろしま美術館で10/27まで

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 ひろしま美術館とポーラ美術館の印象派絵画を併せて展示するという企画展で、日本最大の印象派コレクションの夢のコラボと銘打っているが、実際のところ両美術館の印象派コレクションは日本最大級であるのは事実である。私としてはひろしま美術館のコレクションは大抵馴染みのある絵であり、それにポーラ美術館の同じ画家の作品が加えられている。こうしてみると、印象派の絵画とはかくも画家ごとでパターンが決まっているのかということに思いいたされたりする。会場を一周したところでは、拡大版ひろしま美術館コレクション展の趣がある。

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クールベから始まり

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対称的にデュフィ

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モネの積み藁

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シダネル

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ルノワールの「パリスの審判」

 一部コーナーではゴッホの作品とマティスの作品について科学的に切り込んでいたが、今はこういう分析も出来るようになったんだなと感慨もひとしお。しかし改めて見ても、やっぱりゴッホの作品は禍々しいまでのパワーを秘めている。狂気のパワーとでも言うべきなのだが、実際にこの頃のゴッホは精神を病んでいたのだからなんとも。

 やはり現代絵画などと違って見ていても楽しいというのが本音。改めて日本で印象派が人気があるわけが頷けたりするのである。

 

 

広島城を見学する

 ひろしま美術館見学後は、ここからすぐ北にある広島城を見学する。考えてみると広島城はかなり昔に一渡りザッと回っただけで、それ以降見学に来たことがなく、実際にはどんな城だったかはほぼ忘れているというのが実態。どうせだからついでに久しぶりに見学してやるかというところである。

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印象派の絵画のような小路

 ひろしま美術館から雰囲気のある小路を抜けて地下道で車道をくぐって出た先が広島城の大手になる。門や櫓が復元してある。この門から入った先が二の丸ということになっているが、あまりに小さく、サイズからすると大型馬出と言った方が適切なような気もする。

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大手の門に櫓

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二の丸というが、馬出機能の方が高そう

 ここから直角に折れて進むと本丸にたどり着くようになっている。本丸は手前の下段と奥の上段の二段構成となっており、天守は一番奥にあり、下段には現在は護国神社が建っている。

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橋を渡って本丸

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本丸奥に上段がある

 本丸の上段に入ると広島大本営の土台だけが残っている。恐らくこれがあったことも広島に原爆が投下された一因だろう。この際に広島城の天守閣は爆風で完全に破壊され、その後に鉄筋コンリートで外観復元されたのが今日の姿である。本丸の北西隅に位置し、かつては両脇に小天守を伴っていたらしい。

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広島大本営の土台

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奥には天守が見える

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ここに小天守があったようだ

 

 

 ついでだから天守に入場していく。内部はお約束通りの歴史民俗博物館というところ。刀剣類を多数展示していたのは流行を取り入れたのか(笑)。内部はあまりに普通のビルなので興醒めも甚だしいが、最上階からの眺めはなかなかである。この城を取り巻く堀は非常に幅が広く、広島城は河川などを防御に使用した水城であることがよく分かる。

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天守に入場する

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復元された金箔瓦

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回りは水路で守られている

 天守を出ると裏御門側から外に出る。ここにかつて門があったのはその通りらしいが、本丸からの幅広い階段は明らかに後付けだろう(防御を考えると滅茶苦茶である)。

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現在の天守建設時に除けられた礎石はここに移設してある

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このなだらかな階段は明らかに後付け

 広島城の見学後はまだ時間に余裕があることから広島県立美術館まで歩くことにする。

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広島県立美術館が見えてくる

 

 

「入城400年記念 広島浅野家の至宝-よみがえる大名文化-」広島県立美術館で10/20まで

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 1619年から幕末まで、代々広島を治めていた浅野家に伝わる秘宝をまとめて公開という展覧会である。最初はやはり武家コレクションだけに今流行の刀剣から。私には刀剣の善し悪しを見分ける目はないが、蒼々たるコレクションであるのだろうことは何となく感じる。個人的には茶道具の方に興味あり、ぷっくりしたシルエットのなかなかに良い茶入れが一つ展示されていた。

 次は中国画のコレクションの展示となるが、こちらは残念ながら私の専門外。その上に劣化して色褪せている作品が多いので、正直なところパッとしない印象。これよりはこの後の狩野元信などによる日本画のコレクションの方が私的には面白い。

 最後は工芸品の類いが展示されていたが、これは一番一般にも分かりやすいもの。漆に蒔絵の調度品の類いは問題なく美しいし高級感を漂わせている。

 

 

 美術館を出た時には5時を回っていた。そろそろ夕食を摂ってからホールに移動する必要がある。とりあえず飲食店を探して八丁堀までウロウロと歩く。本格的に飲食店を探すとなると裏通りを散策する必要があるのだが、そこまでする気力と時間がなかったことから、安直に表通りにあったトンカツ店「喜とん」に入店する。「ロースカツ定食(990円)」を注文。

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八丁堀の喜とん

 ロースカツについては普通に美味いと言うところか。どうしても料理の性格上極端な差は出にくいものである。なおここの店の特徴としては、トンカツ茶漬けが出来るようになっていること。うな茶と同じ発想で、脂っこいものをあっさりと頂こうということか。実際にやってみるとこれはこれで悪くはない。ただ薬味としてわさびだけでなく、あられとネギも欲しいところ。

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ロースカツ定食

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とんかつ茶漬け

 夕食を終えたがまだ時間に余裕があることから、隣のビルで先程見かけた看板に従って日本画展を除いていくことにする。

 

 

「秋の日本画展」広島信用金庫八丁堀支店ギャラリーで10/31まで

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 広島信用金庫が所蔵する日本画コレクションを無料で公開という太っ腹な企画である。

 展示作は無名作家の作品が多い(と言うか、私が単に現代日本画家について知らなすぎるだけかもしれないが)がそんな中に数点、奥田元宋や東山魁夷などの有名どころの作品も混ざっている。赤の元宋、青の魁夷、さらに平山郁夫などのいかにも作品があって楽しめる。全般的に尖った前衛作品はなく、保守的な美しい絵が多いので素人でも楽しみやすいという印象。胡粉をたっぷりと使って積雪の風景を表現した作品などは、いかにも日本画的な雪の表現であって非常に美しい。この雪の表現だけは油絵では不可能なものである。


 そろそろ6時が近づいてきたのでホールに移動することにする。ホールには八丁堀からバス1本でアクセス可能。10分ちょっとぐらいでホールに到着した頃には、辺りが夕闇に沈みつつある頃となっていた。

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夕闇迫るホールに到着

 

 

広島交響楽団第394回プレミアム定期演奏会

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指揮:リオ・クオクマン
ヴァイオリン:サラ・チャン

シベリウス:ヴァイオリン協奏曲ニ短調 Op.47
ラフマニノフ:交響曲第2番ホ短調 Op.27

 サラ・チャンのヴァイオリンは意外とシッカリしている。その音色はやや色気が不足しているきらいはあるが、力強いものである。ただこれに被せるバックの広響にやや問題がある。どうも管楽器が全体的に締まりなくボワッと音を出す傾向があるので、斉奏になると音色が汚く五月蠅い感じになってソリストを邪魔してしまう感がある。

 ラフマニノフの2番については、久しぶりに聞いたがかくも冗長な曲であったかという印象である。しかしクオクマンはこの冗長な曲にメリハリを付けて、その構成を浮かび上がらせるという工夫をしている。その試みは広響の管楽器のやかましさにやや妨害された感はあるが、それでも半分方は成功しており、最後までこの曲を退屈させず聞かせることができた。これはまたより技倆の高いオケでのクオクマンの演奏を聴かせてもらいたいとの思いを抱かせた。

 クオクマンはマカオ出身の新進気鋭のようだ。カーチュン・ウォンといい、最近はアジアから新進気鋭の才能が現れてきたようである。なかなか注目株だ。またファジル・サイやジャン・チャクムルのトルコなど、クラシック音楽時代が昔のような欧米中心からもっと広がりを見せてきたようにも思われる。となると、日本の若き才能にも頑張ってもらいたいところ。


 コンサートを終えると早々に引き上げてバスで広島駅まで移動する。広島市内はまだ台風の影など微塵もなく、新幹線の運休の件がなかったら「今日は広島で一泊して、明日の昼頃にでも帰ろう」と言いたくなる状況。

 広島駅に到着すると小走りで新幹線ホームへ。そのまま新幹線に飛び乗ったのであるが、案の定自由席は大混雑で福山まで立ちんぼを強いられることとなったのである。

 結局は夜遅くに自宅に疲れ切って帰り着いた。