徒然草枕

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白鷺館アニメ棟

メータ指揮でマーラーの交響曲第3番を聴く

老匠メータ健在なり

 今日はベルリンフィルデジタルコンサートホールの時間差ライブ配信のある日である。今回の内容はメータ指揮によるマーラーの交響曲第3番とのこと。もう老巨匠となったメータであるが、2019年にはベルリンフィルを率いて来日している。その時のプログラムはブルックナーの交響曲第8番と翌日はベートーヴェンの「英雄」であったが、ゆっくり目のペースでとにかく密度が高くて至高の美しさを感じさせる演奏だったことが非常に記憶に残っている。果たして今回のメータはどのような演奏を聴かせてくれるか。

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 なおメータはベルリンフィルと来日した前年にも、バイエルン放送交響楽団を率いて来日している。その時は病気で来日キャンセルとなったヤンソンスに変わっての来日と言うことだったが、メータ自身も病気でこの年の春のイスラエルフィルを率いての来日がキャンセルになった後であり「病人の代わりに病人が来た」などとも言われたものであるが、いかにも老いたその様子からは想像も出来なかったような名演が飛び出して、度肝を抜かれたものである。

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ベルリンフィルデジタルコンサートホール

ズービン・メータ
オッカ・フォン・デア・ダムラウ
ベルリン放送合唱団女声
ベルリン国立大聖堂児童合唱団

マーラー 交響曲第3番二短調

 ヨロヨロと入場してきて椅子に座って指揮をするメータの姿には、流石に老いを感じずにはいられない。もっとも老いたりとはいえ未だに衰えてはいない眼光の鋭さは、メータがまだ健在であることを示している。

 やはり演奏は冒頭からかなりスローテンポである。正直なところ緊張感が切れかねないギリギリの線であるが、それでもしっかり緊張感を保っているのは流石にヴィルトーゾ楽団であるベルリンフィルである。スローテンポであることで、弦楽アンサンブルの緻密さと管楽器の個々の奏者の音色の美しさがもろに前面に出てくる。そのことによって激しくて陰気くささがつきまとっているこの曲がやけに温かく聞こえるのには驚いた。そして来日公演でのブルックナーで見せた至高の美しさというのが垣間見える。そして第1楽章だけでほぼ40分というペースである。

 合唱隊とアルト歌手が入場してから第2楽章が始まる。やや哀愁を帯びながらもどことなくユーモラスにも聞こえるオーボエの旋律に続く弦楽の斉奏が美しい。いささか不思議でいて美しいという独得な感覚がこの短い楽章を貫いていく。

 第3楽章はどことなく牧歌的な雰囲気の漂う音楽。それにしてもゆったりしっとりと鳴らすものである。まさに弛緩しかねないギリギリの線。ベルリンフィルのホルンの名人芸がその深い音色に現れている。そして非常に神秘的な第4楽章。ダムラウの歌唱が非常に幻想的で素晴らしい。そしてそのまま第5楽章の「ビム・バム」に。この軽快な楽章でも、軽快さよりも美しさの方が前に出てくる。

 そして最終楽章、もう冒頭から天上の美しさである。こういう構成になると諸々の旋律が浮かび上がってくるが、マーラーの場合は他の交響曲にも使用された旋律が様々に含まれているのが特徴。そして荘厳にして感動的な中で曲を終える。


 それにしてもさすがにベルリンフィルと言うべきか。音色の美しさは抜群に冴えていた。とにかくガンガン鳴らしても割れもしなければ喧しくならないというのがベルリンフィルである。また流石に聴衆の方も音楽慣れしているというか、曲が感動的に終えた後、メータが動き始めて硬直が解けるまで数秒間、場内が静まりかえっていたのは見事だった。残念ながら日本では、ああいう場面ではまず間違いなく勘違い自己アピールの汚いフラブラで余韻が穢されるのが常なので。