徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

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白鷺館アニメ棟

METライブビューイングはネイディーン・シエラによる「椿姫」

パスも考えていたが気が変わった

 2022-2023シーズンのMETライブビューイングは先に衝撃的な「メデア」で開幕したが、この週末には2作目の「椿姫」が上演されることになった。この「椿姫」については、以前に同じ演出の版を見ていることだしパスかと思っていたのだが、今回の主演は以前に「ランメルモールのルチア」ですごいパフォーマンスを見せたネイディーン・シエラとのことなので、やはり見ておいた方が良いかという気になった。流石にMET、何かに付け一応の見所は計算して作るものである。

 と言うわけでこの土曜日は神戸のキノシネマ神戸国際(旧国際松竹)を訪れることにした。午前中に家を出ると例の如くに慢性渋滞の阪神高速を抜けると三宮へ。上映は11時半からだが、駐車場に到着したのは11時前。小雨のぱらつく中を国際会館へ。上映は3時間半の長丁場なので、やはり早めの昼食を摂っておきたい。時間が無いので既に開いていたさんちかの麺ロードをプラプラする。ここはカウンター形式のラーメン屋が数軒並んでいる。とりあえず「らーめん処 山神山人」に入店する。確かこのラーメン屋は文化ホールに神戸フィルの公演を聴きに行った時に近くの店に立ち寄った記憶がある。ラーメンの印象は残っていないが、悪い印象も残っていないのでまあ無難なんだろうということで入店。「並盛り(850円)」を注文。

麺ロードの「山神山人」

 細麺を使用したややあっさり系の豚骨ラーメンである。味がやや淡泊目なところは、添えてある肉味噌で補うというパターンか。なおこれが物足りない人にはもっと濃い系のラーメンもあるようだ。私の場合はこれでちょうどぐらい。まずまず、特別な印象には残らないが、悪い印象はないラーメンである。普段使いにはこういうのが一番無難なんだろう。

オーソドックスなあっさり系豚骨

麺もオーソドックスな細麺

 とりあえず早めの昼食を終えると劇場へ。客の入りは数人というところ。「椿姫」という結構ウケ線の演目にしてはやや寂しい感がある。まあ確かに私のようにN.シエラに注目するというような特別な理由でもない限り、インパクトの少ない内容でもあるのは事実だが。

 

 

METライブビューイング ヴェルディ「椿姫」

指揮:ダニエレ・カッレガーリ 
演出:マイケル・メイヤー
出演:ネイディーン・シエラ、スティーヴン・コステロ、ルカ・サルシ

 今更説明不要の、パリの高級娼婦であるヒロインと純情な青年の悲しい恋の物語である。主要登場人物が、ヒロインのヴィオレッタ、青年アルフレード、アルフレードの父のジェルモンの3人だけのために、この3人の力量で全てが決まってしまう演目でもある。

 さてヒロインのヴィオレッタを演じるN.シエラであるが、先に「ランメルモールのルチア」でも証明したように歌唱の技倆については全く問題がない。声量十分で実に堂々たる歌唱と言って良いレベルである。それに加えて特筆すべきは彼女の表現力の高さだろう。それは歌唱技術による音楽的表現がまずあるが、それに加えて彼女自身の演技力にもよるところが大きい。純粋な声楽家としてなら彼女を凌ぐ技倆を持つソプラノ歌手はいくらでもいそうであるが、こと演技も含めてのオペラの舞台上となると、彼女以上に映える歌手はそう多くはないであろう。

 この彼女を中心として、純粋さが突き抜けすぎて愚かな男という印象さえあるアルフレードを演じるS.コステロ、さらに当初のややパワハラ親父的印象から最後にはヒロインのことを純粋に哀れんで後悔するジェルモンを演じるL.サルシの両人が絡んで、なかなかに美しくも切ないドラマを繰り広げている。また演出的には特に奇をてらわないオーソドックスなものであるので、演出が前に出すぎてドラマを邪魔するということもない。

 実力者が揃っているので二重唱などの美しさが際立って、ヴェルディの音楽の素晴らしさを改めて認識させる(非常に馴染みやすい旋律も随所に散りばめてあるということを改めて今回確認した)公演であった。なお全ての展開もストーリーも手に取るように把握しているにも関わらず、やはり最後の場面では感動を与えたシエラの表現力にはやはり圧倒されたと言っておこう。