徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

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白鷺館アニメ棟

ビシュコフ指揮のチェコフィルの圧倒的名演に、しばし恍惚の境地で我を忘れそうに

チェコフィルのコンサートのために大阪へ

 今日は大阪までチェコフィルのコンサートに出向くことにした。先月から今月にかけて大阪方面の美術館は駆けずり回ったせいで、今日は立ち寄る美術館はなくてコンサートのみ。開演は14時からなので昼前に悠々と家を出発。福島辺りで昼食を摂って・・・と計画していたのだが、大阪環状線で何やら事故でもあったらしく、まさかの大阪駅での足止め(分かっていたら大阪駅から歩いたんだが)。結局は会場到着がちょうど開場時刻の13時という始末。

 それにしても場内に人が多い。事前の情報ではチケットが完売していたようであるが、観客の方も気合が入っている者が多いのか、全体的にやってくる時間も早めである。

開場直前のザ・シンフォニーホールは大勢の観客が詰めかけている

 とりあえず入場行列の最後尾に引っ付いて入場すると喫茶に直行。喫茶の行列も多い。しかもその挙げ句にレジの一つがトラブって操作不能になったりで行列に収拾がつかないような状況に。結局はかなり時間を浪費してからサンドイッチとアイスコーヒーにありつく。結局はこれが今日の簡易昼食か。

ミックスサンドアイスコーヒーがこの日の昼食となる

 さてアホノミクスの結果の円暴落で、軒並み外来オケのチケットが高騰して苦しんでいるが、本公演もご多分に漏れずかつては2万円するかしないかだったS席チケットが24200円ととても手が出ないレベル。私は無理をしてようやく入手できたのは15400円のC席。これでも実際には予算オーバーというお粗末さである。当然のようにC席は3階サイドの見切れ席になる。今回はまだ2列目でないだけマシとも言えるが。

3階サイドの見切れ席が今の私には精一杯

 場内は大入り満員で補助席まで出ている状況。チェコフィル大人気である。もうウィーンフィルやベルリンフィルがまともには購入不可レベルのチケットになってしまった以上、まだギリギリ購入できるのがチェコフィル辺りというところだろうか。あの大失敗のアホノミクスを継承すると言っているような馬鹿が総理をするのなら、この状況は改善どころかさらに悪化しそうである。

 

 

チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 大阪公演

[指揮]セミヨン・ビシュコフ
[ピアノ]チョ・ソンジン
[管弦楽]チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

スメタナ:交響詩『わが祖国』より 「モルダウ」
ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調 
チャイコフスキー:交響曲 第5番 ホ短調 op.64

 一曲目はチェコフィルなら寝ていても演奏できるという十八番中の十八番である。もう冒頭の管楽器の第一音からグッと心をつかまれる。やはり音色自体がまさにチェコ。これがベルリンフィルやウィーンフィルなら出ない音である。

 ビシュコフはロシア出身のはずなんだが、なぜかチェコの魂に通じているということを感じさせるのが不思議。とにかくラインでもなくドナウでもなく、これこそがモルダウなんだという土の匂いを感じさせるかのような音楽である。非常に泥臭さを感じさせるのだが、それでいてとてつもなく美しい。ビシュコフの指揮は随所に細かい仕掛けのあるトリッキーなものなのだが、それを難なくこなしていくチェコフィルの技量は流石。

 チェコフィルのアンサンブルは鉄壁。とにかく各楽器が音色レベルで完全に一致しており、16台のヴァイオリンがあたかも巨大な1台のヴァイオリンに聞こえるというのには圧倒されるところ。また個々の管楽器の技量も高い。

 二曲目はチョ・ソンジンをソリストに迎えてのラヴェル。果たしてチェコフィルがフランスものをどういう演奏をするだろうかと興味津々だったが、先ほどまでの泥臭さのある音色から一変して洗練された都会的な音色を出すのに驚かされる。

 もっともチョ・ソンジンのピアノが、かなり甘々で女性ファンをうっとりさせそうなイケメンピアノであるので、残念ながらチェコフィルの演奏はやや色気が不足しているような気もしないではない。メロメロピアノを前にして比較的淡々とした印象もあるバックというように感じられた。これがパリ管とかなら全然違う演奏をしそうだが。まあ品の良い演奏ということも出来、この辺りはビシュコフの前任者のビエロフラーヴェクの薫陶もあるのかなんてことが頭をよぎった。

 チョ・ソンジンのイケメンピアノはアンコールのショパンの「華麗なる円舞曲」でまさに極まる。甘々のネットリしっとりと色気に満ちた演奏であり、これはまさに女性ファンが卒倒しそう。

 

 

 20分の休憩を経ての後半はメインのチャイコの5番。ビシュコフにとってはまさに自家薬籠中の曲なんだろう。この曲は暗譜で振っている。

 もう冒頭から圧倒されるのはとにかく凄まじく美しい音色。一体どうやったらこんな綺麗な音が出るのかと感心するぐらいチェコフィルの音色が美しい。そしてその抜群に美しい音色を駆使してゆったりとビシュコフは音楽を組み立てていく。

 第一楽章は様々な運命の障害にも出くわしつつ、淡々と歩みを進めていく行進曲という趣もあるのであるが、とにかくビシュコフの演奏は根本的には陽性であることを感じさせる。どんなに厳しい運命が襲い掛かろうとも、その合間に希望の光が見え、それに向かって着実に歩みを進めていくという印象である。

 第二楽章はこれまた美しさが極まる。ゆったりと美しく歌わせているにもかかわらず、音楽に弛緩が一切ないのが見事。クライマックスのかつて確か自動車のCMに使われたこともあるフレーズに来た時には、こちらの魂が鷲づかみされた感を受けて、背筋がゾクゾクとして脈拍が上がったのには驚いた。

 第三楽章も美しさがいや増してくる。複数のワルツが絡み合うこの楽章を安定感のある弦楽を中心に華麗な管楽器がその音色で魅了してくる。まさに極楽の境地、うっとりしているうちに音楽が終わってしまうという印象。

 第四楽章はアタッカで続ける指揮者も最近は増えているが、ビシュコフはしっかりと間を取ってから満を持してという調子で堂々たる開始をする。最初には例のやや重苦しさを含んだ「運命の主題」が奏でられる。しかしその運命にあらがうかのように様々な旋律が戦いを挑んでいくという印象。そこをチェコフィルの鉄壁のアンサンブルが淡々と盛り上げていく。細かく聞いているとビシュコフは実に多くの仕掛けを組み込んでいるのだが、その辺りはチェコフィルとの意思疎通が万全であり、一切の乱れが現れない。そして音楽はクライマックスへと。そして高らかに勝利のファンファーレが奏でられる。もうこの時点で私は完全に魂をつかまれてしまって思わず声が出そうになるのを必死で抑えているというような状況。

 堂々の完結を迎えると、思わず「ウォォォ」という興奮の声が出てしまった。場内もかなりの歓声が上がっている大盛り上がり。熱く、美しく、圧倒されるような音楽。完全にビシュコフとチェコフィルのマジックにしてやられた。

 チャイコの5番といえば、先にポリャンスキーとN響のこれまた名演があったが、あれとはまたややベクトルの異なる圧倒的な名演であった。まさにチェコフィルにハズレなしであった。

 大盛り上がりを受けてのアンコールはマスカーニの「カヴァレリア・ルスティアーナ」より間奏曲。これぞチェコフィル弦楽アンサンブルと誇示するかのような圧倒的に美しい弦楽陣の合奏で、うっとりとするような世界。これには場内が恍惚状態に。

 さらなる盛り上がりにアンコール2曲目がお約束のスラブ舞曲だが、ビシュコフは少しひねって1番を持ってきた。これは流石のチェコ情緒満載の熱演となり、やんやの盛り上がりでコンサートを締めるのである。


 チェコフィルとビシュコフにまんまとしてやられたというところである。すごい演奏に圧倒され、この日はいささか恍惚とした状態で家路につくのである。