徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

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アニメ関係の記事は新設した「白鷺館アニメ棟」に移行します。

白鷺館アニメ棟

新年コンサート第一弾は日本センチュリーによるボレロ

新年になってようやく社会復帰

 先月にインフルで体調を崩し、そのまま寝正月に突入していた私であるが、この三連休でようやく体調の方も復活基調に戻ってきた。そうなるとやはり、今までのゴロゴロ生活から社会復帰の必要が出る。そこでここは久しぶりに出かけるかとなった次第。

 計画としてはザ・シンフォニーホールで開催される日本センチュリーの定期演奏会に加え、以前から懸案であった美術館を訪問するというもの。立ち寄り先の関係で今回は車を使用することにする。なお計画を思い立ったのが土壇場だったせいで、コンサートの前売りチケットは確保できておらず(ネットの事前販売が終わっていた)当日券に頼る羽目になっているので、こちらは出たとこ勝負である。最悪はチケットが確保できずに撤退という可能性もある。

 美術館に立ち寄ることから出発は午前中。目的の美術館の開館直後に訪問することにする。立ち寄ったのは西宮の大谷美術館。電車で行けなくもないが、阪神香櫨園という半端な駅から少し嫌な距離があり、無料駐車場があることから出来れば車で行きたい美術館である。これが今回車を使用した最大の理由。なお開館は10時であるが、こんな時に限って阪神高速が珍しいぐらいにスムーズで、現地には開館20分前ぐらいに到着してしまう。仕方ないので駐車場に車を入れると車内でしばし時間をつぶしてから美術館へ。

駐車場で開館待ちをしてから入館

 

 

「戦後西ドイツのグラフィックデザイン展」西宮市立大谷美術館で2/24まで

 ドイツのグラフィックデザイナーで研究家でもあるイェンス・ミュラー氏設立の「A5コレクションデュッセルドルフ」の日本初公開だとか。その膨大なコレクションから戦後の西ドイツのグラフィックデザイン作品を紹介するとのこと。

 いくつのテーマで分類しているが、最初に登場するのはこの手のデザインとは密接な関係にある商業デザイン。企業広告やらイベントのポスターなども登場する。

ルフトハンザの観光PR用ポスター

オトル・アイヒャー「ミュンヘンオリンピック1972」

同じくアイヒャーのピクトグラムを用いた作品

 

 

 デザインにもいくつかのパターンがあるが、まずは幾何学的抽象を用いたもの。展覧会の告知ポスターなどに凝ったものが多い。

ヘルバルト・W・カピツキ 展覧会「測定と検査」

ハンス・ミュヒェル、グュンター・キーザー「公開コンサート1964-65ヘッセン放送局」

 次はイラストを用いたもの。映画ポスターなどもある。

ディーター・フォン・アンドリアーン 展覧会「ドイツ交通展 ミュンヘン1953」

ミヒャエル・エンゲルマンによるシェービングローションT2の宣伝ポスター

ハンス・ヒルマン 映画「七人の侍」

ハインツ・エーデルマン 映画「イエロー・サブマリン」

セレスティーノ・ビアッティ「dtv」

 

 

 また写真を用いたものもある。戦後は特に写真表現が隆盛したという。

ハンス・ローラー「ドイツ赤十字社」

ミヒュエル+キーザー「スピリチュアル ゴスペル フェスティバル1966」

ヴォルフガング・シュミット 映画「悪ふざけ」

 そして文字表現を用いたタイポグラフィ。

ヴォルフ・D・ツィマーマン「第4回ドイツ・ジャズ連盟アマチュア・フェスティバル」

同じくツィマーマンによる第9回のもの

 

 

 なおこれに加えて日本のグラフィックデザインとしてメンソレータムなどのロゴを手がけた今竹七郎の作品も展示。この辺りは私の記憶とも相まって懐かしさがある。

今竹七郎「ファッションショー」

今竹七郎がてがけたロゴの数々

東洋レーヨンのナイロンデシン

 私の好みとしてデザイン展はどうであろうかとも思ったんだが、意外に興味深い展覧会であった。なお会場にはいかにも美大生か何かのアーティスト系だと思わせる姿の客がチラホラで、意外と入っていた。

 

 

 美術館の見学を終えると、ホールに向かう前に一箇所用事があるのと、昼食を摂っておく必要もある。まずは向かうはアルカイックホール。ここで来月に開催されるコンサートのチケットを入手するのが目的。事前にチケットは電話で手配済みなので、用件はスムーズに終了する。

 後はホールに向かう前に昼食を摂りたい。このホールから少し東に進んだ道路沿いの「かごの屋」に入店することにする。注文したのは「牡蠣フライの定食」。何やら注文がスマホを用いたオーダーになっている。最近は人減らしも絡んでこの手が増えているが、客が全員スマホを所有して使いこなせているということが大前提となっている。いろいろと高齢者にはしんどい世の中になってきているようである。私も今はまだこの手のシステムに対応できているが、今後さらに高齢になってさらに新規システムが次々と何の前置きもなく登場していけば、いつまで対応できるやら。そうなると「注文システムにさえ適応できない老害は、社会に迷惑をかけずにさっさと死ね」と排除されるんだろうか。今の政権が続いたら、その頃には尊厳死施設に直送されるようになっているかもしれない。

 人減らしの影響は厨房にも及んでいるのか、決して客が満員というわけでもないのに注文してからしばし待たされる。日本の飲食チェーンは今まで美味い安い早いを売りにしているところが多かったのだが、それも遠からず過去の話となってしまうのだろうか。

見た目はなかなか豪華な牡蠣フライの定食

 料理自体は可もなく不可もなくだが、心なしか牡蠣フライの身の入りが少なめな気がする。まあCPは諦めていたが、これで1980円は本当に高くなったもんだ。

 

 

 昼食を終えるとホールに向かう。駐車場はAkippaでホールからやや遠くて安いところを予約している。民家の玄関先なのでやや止めにくいのが難点だが、何とか車を入れるとホールまでプラプラと散策を兼ねて歩く。10分ちょっとぐらいの行程でダルいと言えばダルいが、今回は社会復帰のためのリハビリでもあるので、まあちょうど良いか。

 ホール到着は開場の20分前頃だったが、入口前にもう既に行列がいる。なお当日券売り場はその行列とは別。

もう既に行列が

 開場時刻の13時ちょうどから当日券販売開始。HPでは「若干枚数の当日券」と記載してあったが、リストを見たところ空きは20席ほどか。正直なところもっとも高い席の端の方しか残ってなかったらどうしようかという不安はあったんだが、幸いにしてC席が残っていたのでそれを購入。二階席の最後列を確保する。

 チケットを入手すると入場。例によって喫茶でホットコーヒーを頂きながらしばし休息。まさに堕落そのものなのだが、とにかく年を取ると体力が低下するのでやたらに休息が必要になる。

コーヒーを頂きながら執筆作業

 しばし休憩をしてからホールへ。今日はかなりの大入りでほぼほぼ席が埋まっている。

場内は大入りである

 

 

日本センチュリー交響楽団 第287回定期演奏会

後半プログラム用に打楽器が多彩

[指揮]飯森範親
[ピアノ]マティアス・キルシュネライト
[管弦楽]日本センチュリー交響楽団

ハイドン:ピアノ協奏曲 ニ長調 Hob. XVIII:11
メンデルスゾーン:ピアノ協奏曲 第1番 ト短調 op.25
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ(管弦楽版)
     マ・メール・ロワ(バレエ版)
     ボレロ

 前半は古典的なピアノ協奏曲で、後半はラヴェルというプログラム。

 8-8-6-4-3という小編成でのハイドンは、いきなり日本センチュリーがなかなかのアンサンブルを聴かせる。このサウンドは飯森が長年かけて実行したハイドンマラソンの成果であろうか。

 キルシュネライトの演奏は、古典的な軽妙な演奏をするかと思えば、突然に溜を作ってネットリと情感豊かに鳴らしたりなど変化が激しい。飯森によると彼は20年来の友人とのことで、飯森は勝手が分かっているのかそれにすぐに合わせていけるが、オケには若干の混乱が見られ、微妙にアンサンブルに乱れが現れることも。

 二曲目は10-8-6-6-4に拡大してのもう少しロマン派寄りの協奏曲。こうなるとやや激しい目の曲調もあってキルシュネライトが暴れ回る印象。一転して第二楽章などは徹底して甘く叙情的に奏でる。実に目まぐるしい演奏だが、メンデルスゾーンのこのマイナーな協奏曲をなかなかに魅力的に聴かせたと感じられる。

 満場の拍手を受けてキルシュネライトのアンコールはショパンのノクターン20番。もの悲しい情緒に満ちたこの曲をキルシュネライトは極めて甘美に切なく演奏する。まさに「心に染みいる」という感覚。やはり彼は古典曲よりはこういう曲の方が本領を発揮出来るように思われる。次の時にはショパンのピアノ協奏曲かシューマンのウルトラセブン辺りを聴きたいところである。

 なお驚いたことにアンコールがもう一曲。こちらはドビュッシー。こちらはキラキラした曲で、後半のラヴェルにつながるというところか。


 後半は12-10-8-8-6にまで拡大してのラヴェル。一曲目はかなり美しい小曲。タイトル自体は実は意味がないとの話であるが、やはり一種のレクイエムのように聞こえる。これを日本センチュリーがしっとりと聴かせる。

 二曲目も同様に美しい曲である。全曲版の演奏は珍しいとのことであるが、正直なところ音楽自体はやや冗長に感じられる場面もある。やはり日本センチュリーのアンサンブルはかなり美しい。

 最後は定番のボレロ。同じ旋律をひたすらクレッシェンドで演奏していくという曲だが、それでも退屈しないのはラヴェルの名人技のオーケストレーションのおかげ。この曲は管楽陣のソロが多いので奏者のレベルが問われるのであるが、日本センチュリーの管楽陣は概ね無難に聴かせる演奏をやっている。飯森は最後は大爆音まで音楽を盛り上げていって大団円。ただいささか正攻法のシンプルに過ぎる演奏だった感もなきにしもあらず。私の好みとしてはもうひとひねり欲しかったか。


 以上で今日の公演は終了。飯森は今季限りとのことなので、3月にハイドンマラソンのフィナーレはあるが、通常の定期演奏会としてはこれが最後になるとのこと。来年度からは久石譲が音楽監督に就任とのことなので、日本センチュリーもこれで名実ともに久石のオケになるということか。彼の自作の演奏機会などが増えそうだが、彼の演奏についてはかなりクセの強いところがあるので、それは好き嫌いがありそう。